ボクシングファンの興味は、「THE MATCH 2022」ではなく、こちらでしょう。
「INTO DEEP WATER」。
17戦して全勝全KO、世界ライトヘビー級2団体統一王者、アルツール・ベテルビエフ(カナダ)に挑むのは激闘型ファイターのジョー・スミスJr(アメリカ)。
数々の強豪を相手にアップセットを続けてきたスミスの拳は、ベテルビエフに届くのか。
下馬評では、圧倒的なパワーを持つベテルビエフ優位ながらも、スミスの勝利の芽がないわけではありません。
ライトヘビー級最強のパンチャー同士の一戦は、激闘必至、打撃戦必至、KO決着必至の、間違いなく面白い試合になります。
ということで今回は、WOWOWオンデマンドで生配信された、ベテルビエフvsスミスをメインに据えたトップランク興行です。
↓プレビュー記事
↓個人的には今のところ、2022年のポスター・オブ・ザ・イヤーでございます。
6/18(日本時間6/19)アメリカ・ニューヨーク
セミファイナル フェザー級10回戦
エイブラハム・ノバ(アメリカ)21勝(15KO)無敗
vs
ロベイシー・ラミレス(キューバ)9勝(5KO)1敗
WOWOWの放送は、セミファイナルから。ESPNの「メインカード」の放送枠を持ってきていますね。今回はWOWOWオンデマンドで視聴です。
金髭、マスコットキャラクターとともに入場のエイブラハム・ノバ。オリンピック2大会連続金メダリストのロベイシー・ラミレス。
どちらにとっても過去最強の相手と見え、プロスペクト同士のサバイバルマッチともいえます。
勝ってボブ・アラムの寵愛を受けるのはどちらか。
初回、オーソドックスのノバが軽いジャブを突き、左右へのステップ。ラミレスはかなりリラックスした雰囲気からガードを掲げてプレスをかけます。
ノバがジャブを出すとすぐにカウンターを取ろうとするラミレス、ノバはボディが良い。
ジリジリと下がりながらジャブを打つノバは、ラミレスの入り際を狙っています。ラミレスはガッチリとガードが固く、またもちろん反応も良い。さすが、というところですが、やや余裕を持ちすぎているようにも見えます。ノバは、イージーな相手ではないはずです。
終盤、中間距離でやや打撃戦めいてきました。
2R、展開は変わらず、ですが、ノバは下がりっぱなしにならないところが良いですね。数歩下がると大きく踏み込んで押し返し、二人はほぼリング中央でのボクシング。
ラミレスはプレスをかけつつもやや手数が少なすぎるのではないか、と思いますが、カウンター狙いなのか「こいこい」と挑発。
後半にかけて、体をぶつけての攻撃を見せたノバ。ラミレスは素晴らしいタイミングでの左アッパーカウンターを出しますが、これはガードの上。ラミレスのカウンターはタイミング抜群で、怖さはありますが、やはり手数は少ない気がしますね。
対してノバは非常にエネルギッシュに頑張っています。
3R、ノバが力を入れないジャブをポンポンと出しているので、ラミレスはやりづらく感じているのでしょうか。
中盤には中間距離では打ち合い、どうやらパワーと的確性はラミレスの方が上のようです。
ここでノバはしっかりと打ち返し、距離を潰したり、と諦めず、多くのパンチを出して押し返します。手数は明らかにノバですが、ラミレスは非常にパワフルであり、また的確です。特にぶん投げるような左ストレートは非常に強力で、ノバはガードしているように見えますが吹っ飛ばされてしまいます。
終盤にはラミレスが攻め込み、ノバはダメージを負ったように思います。
4R、ラミレスは中間距離でのノバのジャブ、ストレートにかなり慣れてきたように見えます。ガードを外して挑発、スッとインに入り込む等してノバにプレッシャーを与えます。
ただ、ラミレスの手数が少ないのはそのままです。
5R、下がりながらもやや上体を前に構えるノバ、右カウンターが良い感じ。ただ、前のめりになりすぎてこの右をミスブローした後にラミレスの左を浴びるのが目立ちます。
そして後半、左を伸ばして下がるノバに対して、ラミレスは右フックから入って左ストレートをヒット!倒れたノバは、ロープに頭を打ち付けてしまい、レフェリーがストップ!!
ロベイシー・ラミレス、5RTKO勝利!
ワンパンチKOと言って良い、素晴らしいノックアウト劇でしたね。ラミレスのハイライトにたくさん使われそうです。
ノバも良いボクシングを展開し、相手の前進を阻むジャブは非常に良かったと思います。もっとボディを打てれば良かったと思いますし、(ラミレスの左を警戒する意味で)右ストレートはもっと丁寧に打っても良かったとは思いますが。全体的には悪くなかったと思いますが、このラミレスの左に最後まで対応ができていませんでした。
ううむ、ロベイシー・ラミレス、流石。
ここにきて完全にプロに適応して、少ない手数ながらもしっかりとプレッシャーをかけて、強いパンチを打ち込んだ、という印象です。
ノバはラミレスをややリスペクトしすぎた印象もありますが、この日のラミレスはこれまで以上にパワフルで、強かった。フェザー級の台風の目となる日はそう遠くないかもしれません。
WBC・IBF・WBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ
アルツール・ベテルビエフ(カナダ)17勝(17KO)無敗
vs
ジョー・スミスJr(アメリカ)28勝(22KO)3敗
いよいよ、と言うべきか、早くも、と言うべきか。あっという間にメインイベントの時間。
パワー、技術に勝るベテルビエフか、もしくは打ち合いに来るであろうベテルビエフに対して、スミスが先にパンチを当ててアップセットを起こすのか。
「Into Deep Water」、深海に引きずり込まれるような打撃戦となるのか、否か。
一撃で決着がついてしまうことも予想される、ライトヘビー級の最強パンチャー同士の一戦は、ノックアウト決着必至の好マッチアップ。
両者の紹介、ベテルビエフにはブーイング。国籍の「カナダ」表記は違和感バリバリですが、彼のトレーニングを見るとすべてのトレーニング用品を「RIVAL」で設えている事から、充分なサポートを受けているのでしょう。
さて、ゴング。
まずジャブを放って積極果敢に打っていくのはスミス!ベテルビエフも早々に右のハンマーのようなフックを放って応戦します。
その後はベテルビエフがサイドへサークリング、対して長いリーチを使ったジャブで攻め入るスミス!
ベテルビエフは下がらされているというよりは下がっています。下がりつつ、右オーバーハンドを打つ等、やはりこのボクサーはタイミング、テクニックにも優れたボクサー。
ロープ際ではベテルビエフは逆に距離を詰めてクリンチ、スミス載の攻めにあわせて右カウンターからのラッシュ、この戦い方は想定してきたものだと思われます。ただ、スミスに好き勝手にプレッシャーをかけ続けさせてしまうのはどうなのか。スミスはプレスをかけることで戦いやすくなってしまうのではないでしょうか。
と思ったところで、ベテルビエフはワンツー。このなぎ倒すようなハンマーパンチをブロッキングしたスミスは若干動きが止まったか??スミスはバランスを崩してグローブをマットにタッチしますが、これはスリップ。
やや攻め手に回り始めたように見えるベテルビエフは、サークリングしつつも単発気味に強いパンチを打ち込みます。
そして終盤、スミスの入り際に右をヒット!これでスミスは膝を着くダウン!
スミスが立ち上がったところでラウンドが終了、スミスにとっては不運なダウン判定か?
と思いましたが、スロー映像が流れるとしっかりとベテルビエフの右は当たっています。タイミングは良い、とは言えませんが、立派な右クロス。これがスミスのテンプル、というよりももっと頭の先にあたり、スミスはダウンを喫しています。さすがベテルビエフ、意味不明のパンチ力です。(普通、頭の先にあたったパンチではダウンまではしません。。。)
2R、ベテルビエフがまっすぐなジャブで攻め込みます。その後も強いワンツー、ワンツーアッパーで攻め込むベテルビエフ、このラウンド早々、一気に行きます。
このラッシュが少し落ち着いたところで、スミスがジャブから右ボディストレートで攻め込んだ刹那、またもベテルビエフの右フックがヒット、スミスはダウン!!
立ち上がったスミスはここでもまだ攻めます!!!なんという漢!!
左右のフックを振り回し、ベテルビエフに迫ります!残り時間はあと2分強!!
ダメージの感じられるスミスは、ベテルビエフの固そうなジャブを浴びてやや後退、それでも諦めずにジャブを放ち、ロープに押し込まれても左右のフックで応戦します!
ここで容赦なく攻め立てたベテルビエフは、やはりハンマーで殴りつけるようなフックをヒットし、スミスはこの試合3度目のダウン!!
立ち上がったスミスに対して、レフェリーは少し歩かせる指示をしたあと、続行。普通の試合ならもう止まっているかもしれません。レフェリーがスミスに最後のチャンスを与えたのは、これが統一戦だからかもしれません。
そして再開後、攻め入るのはなんとスミス!!スミスの辞書には、逃げるとか凌ぐとか、そういうネガティブな言葉は載っていないようです。
しかし、ベテルビエフは、このタイミングでも非常に冷静で、ここでスミスを詰めるためにでたパンチはまっすぐのジャブ。これにスミスは対応できません。
そのジャブから右のロングフックを叩きつけたベテルビエフは、残り1分を切ったところでワンツー、ここでしかも右アッパーからの右フックというダブルを出し、体勢が崩れたスミスを見てレフェリーがストップ!!!
アルツール・ベテルビエフ、2RKO勝利!!ライトヘビー級3団体統一!!
これはヤバい、ベテルビエフ。
ベテルビエフのおでこも内出血しているように見えますので、スミスのパンチもしっかりと当たっていました。
今回は「攻めてくるであろう」というか、「絶対に前に出てくる」ジョー・スミスJrの対策をしっかりととって、その戦略面も光りましたね。
そしてその詰めは圧巻で、あの場面でジャブから入ったところ、単調になりそうな連打のところでアッパーを織り交ぜてきたところ、非常に理詰めで、テクニカルな面も見せてくれました。
ここまで巧さを見せてくれると、やはりライトヘビー級のキングはこのベテルビエフだと、はっきりと言う事ができますね。
これで18勝全KOとパーフェクトレコードを更新したベテルビエフは、本当に人ではない、別の生き物のようです。熊か?ゴリラか?とにかく、あの両手から繰り出されるパンチは、どれが当たっても致命傷となり得ます。
このベテルビエフのパンチを躱し続けられるボクサーは、果たして存在するのか。
さて、ジョー・スミスJrは非常に勇敢でした。結果としては、相対した時間は300秒ほどだったわけですが、真正面からベテルビエフに挑み、自分らしさを貫いて散りました。
やはり、この「Common Man」(平凡な人)スミスは、自らそれを称するように、平凡ではありません。
ダウンを食らった直後、すぐに攻め入る姿には感動を覚えました。人外のパワーを持つ強敵に、真っ向から立ち向かった姿は忘れられません。スミスが、またリングに戻ってきてくれる事を楽しみに待ちたい。
ベテルビエフはどこへ向かう
勝利者インタビューで「4団体統一王者を目指す」と明言したベテルビエフ。次に待ち受けるのは、指名挑戦者であるアンソニー・ヤーデ(イギリス)です。このヤーデも22勝(21KO)2敗という素晴らしいKO率を誇るパンチャーで、次戦もノックアウト決着必至、でしょう。
この一戦が10月頃、とのことなので、来年の5月、カネロがビボルと再戦するならば、その後、来年の秋頃にはライトヘビー級4団体統一王者が誕生している可能性がありますね。それまでにベテルビエフがこなさなければいけない試合は、タイミング的に見て少なくとも2試合、多くて3試合というところで、ほぼ確実にこのタイトルはベテルビエフから動く事はないでしょう。
ビボルがカネロに勝てば、いよいよベテルビエフvsビボルのマッチアップが組まれるかもしれません。しかし、ビボルがカネロに負ければ、カネロはさすがにベテルビエフ戦は選択しないような気がします。
どのような結果に転ぼうとも、やはりライトヘビー級最強はアルツール・ベテルビエフ。現代最高のパンチャーは、いつまでノックアウトを続けていくのか。今後も非常に楽しみです。
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この記事が世に出る頃には、天心vs武尊も終わっているのかな?私はベテルビエフvsスミスでお腹いっぱいなので、キックの方は見ないで良いかな、と思いました。(もともと見る予定はありませんでしたが。)
ともあれ、村田諒太vsGGG、井上尚弥vsノニト・ドネア、そして那須川天心vs武尊。
素晴らしいファイターたちがしのぎを削った2022年上半期も終わりを告げようとしており、これに感化されて「ファイトしたい」と思う人が少しでも多くなることを望みます。
私はこのブログと、そしてネットショップでそのチャレンジを全力応援です。
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