これは「決定」と見て良いのでしょう。
本日(日本時間2/4)、薬物疑惑ゴリゴリのコナー・ベンの登場、ジョシュア・ブアツィの復帰戦等々の興行がありましたが、論じたいのは全くそこではありません。
待望のアルツール・ベテルビエフvsドミトリー・ビボル、これ以上のカードは間違いなく無い、というほどのライトヘビー級頂上決戦の発表です。
いつから、このカードを待っていたのでしょうか。
こういうビッグマッチが決まる時、その多くは遅きに失する傾向にありますが、サウジアラビアという超大金持ちの登場でビッグマッチは世界的に一気に加速。
ということで今回のブログは、とうとう決まったベテルビエフvsビボルについて。
キーマンはトゥルキ・アラルシク
トップランク所属のアルツール・ベテルビエフ(カナダ)。
そしてマッチルームに所属するドミトリー・ビボル(ロシア)。
両名ともにロシア出身の二人のボクサーは、長らくライトヘビー級を牽引してきたボクサーでもあります。
ともに無敗であり、待望論が出ながらも実現可能性の低かったこの戦いは、サウジアラビアのトゥルキ・アラルシクがボクシングイベントに参入したことで一気に交渉が加速、要は「カネ」の力でなんとかしてしまったから驚きです。
このトゥルキ・アラルシクという人は、サウジアラビアの王族で、政府系ファンドを管理してエンターテイメントの資金管理をしている大臣だそうです。
サウジアラビアという国はサウド家による君主制の王国。一夫多妻制を敷いており、そのため増え続けた王族はなんと1万人にも及ぶとか。
オイルマネーで巨万の富を築いたサウジアラビアは、ボクシングファンであるトゥルキ・アラルシク大臣を中心として昨年からボクシング界に進出、タイソン・フューリーvsフランシス・ガヌーを皮切りに、昨年末の「Day of Reckoning」興行を執り行っています。
本来であれば今月、タイソン・フューリーvsオレクサンドル・ウシクによる世界ヘビー級4団体統一戦が開催される予定でしたが、フューリーの怪我による延期という憂き目を見ています。
このフューリーの怪我による延期、と聞くと、ウシクが別のボクサーと戦い、エトセトラーといって試合が流れる可能性もありそうなものですが、圧倒的な財力を持つサウド家のボクシングファンはこの試合の延期日程をすぐさま決定。
しかもこの延期日程については、これ以上の延期をさせない方針であり、この新たな日程(現地時間5/18)をキャンセルした場合、キャンセルを申し出た方に1,000万ドルのペナルティを課すそうです。
1,000万ドルのペナルティて。。。日本円に換算すると15億円近くということで、一体両者のファイトマネーはいかほどなのでしょうか。
つまりはこの戦いは、もしかするとどちらかが万全では無い状態での試合となるやもしれず、お互いに大一番を前にしてかなりセンシティブなコンディショニングが必要となってきますね。
ともあれ、この無尽蔵にお金を使える、トチ狂ったボクシングファンのおかげで、我々ボクシングファンは恩恵を受けることになります。
決まらないはずだったビッグマッチ
このアルツール・ベテルビエフvsドミトリー・ビボルは、対暴論がありながらも心のどこかで決まらない試合だと諦めている人も多かったのではないか、と推察される一戦です。
トップランクのベテルビエフ、マッチルームのビボル、当然プラットフォームが違います。
さらに、両者の出身はロシアであり、ロシアでボクシングのビッグマッチというのは感覚的に(金銭的な面において)できそうにありません。ロシアのボクサーたちは、基本的に強くなって有名になっていけば、アメリカやイギリス、そういったプロモーターたちと組んで活路を見出す、という流れになっています。
プロデビューからカナダを主戦場として戦ったベテルビエフは、これまで20戦のキャリアの中でロシアで戦ったのはたったの1度きり。現在はカナダ国籍も取得しており、カナダ人です。カナダ人とはいえ出身はロシア、というかロシアの西の端、ダゲスタン共和国、多くの有名格闘家を輩出している戦闘民族であり、おそらくロシア連邦というところにあまり思い入れはないのでしょう。
対してドミトリー・ビボル、このボクサーはその風貌を見て分かる通り、ロシアの中でも中央アジアと呼ばれるキルギス。カザフスタン、ウズベキスタンといったボクシング強豪国と国境を分つ、かつてはキルギスタンと呼ばれた場所が出身地。
キャリアの初期、幾度かはロシアのモスクワで戦っており、その数は7度。デビュー当初のプロモーターはわかりませんが、もしかしたらRCCといったロシア系のプロモーターとの契約だったのかもしれません。
いずれにしろ、現在ビボルはマッチルームUSAと契約しており、アメリカでの戦いが多い。ただ、そのキャリアは冷遇とまでは言わないまでも、決して恵まれてはいなかったとも言えます。
例えば日本で試合があるとするならば、多くのファンが応援するのは日本人。
人種のるつぼと言われるアメリカでも、日本ほど顕著ではないにしろ、ホームタウンがアメリカ大陸にあるのかないのか、というのはファンベースを考えた時に非常に重要な事項です。
アルツール・ベテルビエフ、ドミトリー・ビボル。
大国ロシアを出身地とするこの二人のボクサーは、当然、アメリカ人ほどの人気を獲得できていない。そのことが、彼らが激突する大きな障壁となり、そこにプロモーターの壁というこれまたどでかい障壁が出来上がっていたのです。
無敗の王者同士
このハードルをさらに上げたのは、二人のボクサーは無敗であり、また王者であったこと。
ドミトリー・ビボルは2016年5月、フェリックス・バレラ(ドミニカ共和国)を倒してWBA世界ライトヘビー級暫定王座を獲得。その後防衛戦を重ねたのち、正規王者に昇格しています。
アルツール・ベテルビエフはビボルから遅れること1年半、2017年11月にIBF世界ライトヘビー級王座決定戦に勝利して世界初戴冠を果たしています。
ちなみにこの頃というのは、セルゲイ・コバレフ(ロシア)がライトヘビー級を平定しようか、というところであり、超がつくほどの安定王者でした。そこにアンドレ・ウォード(アメリカ)が挑戦、微妙な判定ながらもコバレフから3冠をもぎ取り、再戦では8RTKO勝利でコバレフを返り討ちにしています。
このコバレフ第二戦の後、ウォードは「もうボクシングで証明すべきことは無くなった」として引退を表明、その後釜に座ったというのがベテルビエフとビボルです。
なので証明すべきことはあったんですけどね。特にベテルビエフは当時から大きな話題でもありましたし、ウォードvsベテルビエフ待望論は確かにあった、と記憶しています。
ともあれ、時代の変わり目に王者となった二人のボクサー、もしかするとこの頃ならまだ激突の芽はあったのかもしれません。ただ、この頃であればまだ、今ほどの盛り上がりはなかったでしょう。
ビボルは王座を獲得後、コツコツ、コツコツと防衛戦を積み重ね、なんだかんだ(暫定王座の防衛戦を含め)現在までで13度の防衛記録。コロナでのブランクはあったものの、そのボクシング同様に淡々と防衛回数をこなしてきたイメージです。
対してベテルビエフは、2019年に超注目のライトヘビー級対決となったオレクサンドル・グボジク(ウクライナ)との対戦を経てWBC王座を吸収、2022年にジョー・スミスJe(アメリカ)を薙ぎ倒してWBO王座を手中に収めています。
次々と王者を撃破してきたベテルビエフは、パワー偏重のスタイルでその評価を上げていきましたが、ボクシング自体がやや地味なビボルの評価はさほど高くなかった時期。
しかしだからこそ、2022年、ライトヘビー級に再進出したサウル「カネロ」アルバレスの対戦相手に大抜擢されたのでしょう。
予想としては、当時乗りに乗っていたカネロの優位予想。しかしここでビボルは「いつも通り」とも言える見事なボックス、カネロを寄せ付けずに判定勝利。この頃のカネロに「判定で」勝利するというのは至難の業ともいえ、ここでビボルの世界的評価は爆上がりましたね。
この後もヒルベルト・ラミレス(メキシコ)を退けて強さを見せつけ、前戦でリンドン・アーサー(イギリス)にフルマークの判定勝利。
ここにきてビボルがメキメキと評価を上げてきたことで、ベテルビエフvsビボルの機運はより高まり、サウジアラビアの王族のお眼鏡にかなった、ということなのでしょう。
ともあれ、二人のボクサーが絶頂期にある、と言える状態で、4つのベルトをかけて激突する最終決戦、タイミングとしては最高のタイミングなのではないでしょうか。
決戦は6月1日
世界ライトヘビー級4団体統一戦
アルツール・ベテルビエフvsドミトリー・ビボル
この奇跡的な戦いの日程は、6/1。日本時間では6/2で予定されることになります。
これは、サウジアラビア政府が観光客を呼び込むのにバカスカとオイルマネーを注ぎ込む「リヤド・シーズン」内ではない時期に行われる戦いであり、その2週間前に起こるフューリーvsウシクのことも考えると、サウジアラビアは年間を通して幾つかの大規模興行を行う、ということなのでしょうか。
こうなってくるとやはり今後のビッグマッチはサウジアラビアが中心になります。
↓過去、サウジについて書いた記事
プロモーターの障壁で決まらなかったマッチアップ。
強すぎて対戦相手が名乗りを上げない場合。
何だかんだと理由をつけてファイトマネーを釣り上げようとするボクサー。
これらの全てをオイルマネーが解決してくれるのかもしれません。
その反面、決まるのか決まらないのか、それすらも楽しみになっていたことは、今後少なくなっていくのかもしれません。
そして、もしかすると「成熟するまでもう少し待ちたい」と思っているスーパーファイトも、もしかしたら早々に決まるのかもしれません。
今後のボクシング界は一体どうなっていくのか。今後も目が離せませんね。
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