アメリカで行われたオシャーキー・フォスターvsエイブラハム・ノバの試合は素晴らしいものでした。同日、メキシコではアドリアン・クリエルvsシベナチ・ノンシンガのタイトルマッチ、これは日本のボクシングファンにとって大注目の再戦です。
ノンシンガは圧倒的有利だった前戦、まさかの2RKO負けで王座を失い、初黒星からのダイレクトリマッチ。ノンシンガは過大評価をされていたのか、それともクリエルが過小評価をされていたのか、またはその両方なのか。
いずれにせよ、このダイレクトリマッチは王者の地元、メキシコで行われ、両者にとって真価の問われる一戦。
果たしてクリエルは前戦の勝利がフロックでなかったことを証明できるか。
あるいはノンシンガが前戦の負けをなかったことにできるか。
そしておそらく勝者には、WBA・WBCユニファイド王者の寺地拳四朗からオファーが出されるはずで、それを受けるのか。軽量級において、「日本に来る」ということは、おそらくキャリア史上最も大きなファイトマネーを得る、ということに等しい。
ということで今回のブログは、アドリアン・クリエルvsシベナチ・ノンシンガによる、IBF世界ライトフライ級タイトルマッチの観戦記。
2/16(日本時間2/17)メキシコ
IBF世界ライトフライ級タイトルマッチ
アドリアン・クリエル(メキシコ)24勝(5KO)4敗1分
vs
シベナチ・ノンシンガ(南アフリカ)12勝(9KO)1敗
前戦、これまで全勝で世界タイトルを掴んだノンシンガが、なぜ、アドリアン・クリエルの勢いに飲み込まれてしまったのか。この理由というのは、はっきり言って分かりません。
事前に見たクリエルの映像や戦績、そう言ったものでは測れない何かがあったのかもしれません。当時23勝中4KOというメキシコのボクサーのファイトスタイルは、当然のことながらパワーを感じない連打型のファイターである、ということを想像させました。
しかしノンシンガ戦のクリエルははたからみてパワーレスには見えず、しっかりと打ち込むタイプのファイティングスタイル。しっかりと打ち込みつつも連打型ではありましたから、もしかしたら効かせるパンチではなかったのかもしれません。
相性の問題もあったのかもしれませんが、早々にクリエルのしつこい連打戦法に嫌がるそぶりを見せたノンシンガは、クリエルの右クロスがカウンターとなってヒットした際にダウン。このダウンで運の悪いことにロープに頭を打ちつけたように見え、結果的にはこれで試合が決まってしまいました。
ノンシンガにも、油断があったのかもしれません。
これにより、クリエルとしては自信をつけて、本当の王者になっている可能性はあります。
初戦で圧倒的優位と出たノンシンガですが、リマッチでは50-50。今後のライトフライ級タイトル戦線がどうなるかがかかる一戦のゴングです。
初回、ガードを固めてプレスをかけるクリエル。ノンシンガは反撃しつつも下がる。。。これはもしや苦手意識が芽生えてしまっているか、とも思いましたが、今回はもう打撃戦を覚悟しているような雰囲気。左ボディショットと右のオーバーハンド、ガードで押し込む、本来のファイトスタイルとは違うとは思いますが、なかなか堂に入っています。
クリエルは同じく左ボディ、そしてアッパーで対抗、これはもう完全に初回から我慢くらべの展開です。
そんな中で、若干アングルを変えようとしているのはノンシンガの方で、クリエルの接近戦でのアッパーはアングルが良い。
2Rも同様に接近戦でスタート。ノンシンガはかなり低めから入り、バッティングの危険性もありそう。相変わらずアングルを変えつつ、完全に真正面からはぶつからないノンシンガ、おそらくこのクリエルのフィジカルはノンシンガを上回るのでしょう。要は押し合いで勝てないことがわかっているノンシンガは、動きながらの接近戦に活路を見出しているのだと思います。
ヒットが目立つのはクリエルのアッパー、左ボディ。ノンシンガのパンチは心なしか縮こまっているような気もします。やはりこの土俵で戦い慣れているのはメキシカンのクリエル。
3R、頭を低くしているのはノンシンガですが、押し込んでいくのはクリエル。クリエルのタフネスはこれまでKO負けが一度もない、ということはわかります。それ以上に、この接近戦での防御技術も高く、負け試合もこの距離で戦い、このファイトスタイルながらもあまりダメージを溜めていないボクサーなのかもしれません。
ラウンド後半にはクリエルがノンシンガをロープに押し込んで攻勢。
4Rも頭をつけての打ち合いからスタート。やはり余裕を感じるのはクリエル。ノンシンガは何とか流れを引き戻そうと強振。これは悪い流れをさらに上塗りするようなものです。
一見すると打撃戦、ながらもかなり無理をして食らいついている雰囲気のノンシンガ、この均衡(というかノンシンガがやや劣勢)の状態は、後半に行くに従って差が開いていくのでは。
5R、このノンシンガの選択、つまりはクリエルの土俵で勝負する、というのは非常に漢気あふれるものであるし、アウェーの地で、メキシカンが喜ぶ試合でもあると思います。しかしこの選択が果たして正しかったのか、今から戦法を変えることはできないのか、と考えてしまいます。
それほど、この先にどうなるかはラウンドを追うごとに明確になってきているような気がします。クリエルはこのペースで衰えるようなボクサーではないはずです。
6R、もし私がメキシコ人で、クリエルを応援している身であれば、勝利を確信しているのでしょう。確信したことは、クリエルが世界王者になれたのは、このフィジカルの強さが故、でしょう。
パンチャーであるノンシンガのパンチにも全くびくともせず、顔色ひとつ変えないフィジカルモンスター、これがアドリアン・クリエルというボクサーの正体です。
おそらくこの戦い方の中で、頭の中は超冷静、とにかく丹念にノンシンガのボディを叩いて後半勝負が狙いであり、その作戦遂行能力も非常に高い、とみます。
7Rもとにかくボディを叩くクリエル。ここでノンシンガに減点、まだ半分ながらも、ポイントは絶望にどんどん近くなっていきます。
かなり余裕を持ってきたクリエル、ほんの少し距離を置いてのフェイント。ノンシンガは相変わらずロープ際。
8R、ここは頭を、つけない。クリエルがほんの少し距離をとって、ノンシンガの攻撃をかわしてのリターン、を狙っているように見えます。これはもしかして、クリエルとしてはKOを意識「してしまった」のかもしれません。
そしてこの「ほんの少し距離をとった」というその場所は、シベナチ・ノンシンガのパワーパンチが活きるストレーの距離!と思うも束の間、クリエルのストレート連打がクリエルを襲います!
これはまずいと思ったか、また前進して頭をくっつける戦いに変更するクリエル。やはり冷静です。
このラウンド序盤に起きた出来事は、おそらくクリエルとしてはこのままでは倒せないと悟った、だけれども欲をかいて倒そうとしてしまった、ということだったのだと思います。ノンシンガとしては自身のストレートが当たったことによってちょっと復活、後半にも下がりながらの左フックをヒットしています。
9R、まだノンシンガは危険である、との認識を改めたクリエルはやはりガードを固めて前進。クリエルはこのままの戦いで勝てるはず。というか、ノンシンガ相手に距離を開けることは危険な行為であり、頭をくっつけて戦うことこそが一番安全なのだと気づいたのでしょう。
しかし、前ラウンドパンチがクリーンに当たったことで元気が出たのか、ノンシンガはこのラウンド頭を低くして押さえつけられながらもボディを乱打するという攻撃。これに対してレフェリーの注意が非常に遅かったことにクリエルは文句を言っている感じ。レフェリーの判断がどうあれ、そこを気にするようになった、ということは、目の前の相手に対しての集中力の欠如を意味しています。これはまさかのここからの巻き返しがあるのか。
一旦レフェリーの注意を受けての再開後はクリエルがエネルギッシュに攻め込んでいきますが、終盤、揉み合いからレフェリーからのブレイク後、距離が空いたところでノンシンガのベストな距離で左フックが炸裂!!
ぐらりときたクリエル、そこにノンシンガが追撃の左フック!!!クリンチに逃げるクリエル、ここでゴング!!
10R、ノンシンガは大チャンス、そしておそらく最後のチャンス。
ここで大きな左フック、そして右ストレート!これにクリエルの反応は鈍い!これを感じたノンシンガ、一気にチャージ。
これは中断しますが、その後クリエルを誘い込み、右ショートのカウンターをヒット、そこから一気にラッシュ!おそらくクリエルのスピードが鈍っているというのもわかっていたのでしょう。
このラッシュの的中率は芳しくないものでしたが、レフェリーはクリエルに対してロープダウン(珍)を宣告。打ち返せてもいなかったのでストップでもおかしくはなかったですが、ともかくダウンです。カウント中、しきりに後頭部への加撃をアピールするクリエルですが、これは自身のダッキングによるものなので致し方ありません。クリエルの集中力は完全に切れています。
再開後、ストレートで攻め入るノンシンガ、もはや反撃の力が残っていないクリエル。ここでようやくレフェリーが割って入ってストップ、シベナチ・ノンシンガ、まさかの10RTKO勝利でタイトルを奪還!!!!
これは本当にものすごい試合を見ました。「素晴らしい試合」だったかどうかは別にして、本当に敗戦が超濃厚な試合の流れの中からの大逆転KO劇。
少なくとも私の目からは、7Rまでにノンシンガが勝つ姿は全く想像できていませんでした。ただ見る目がなかっただけかもしれませんが。
8Rの序盤、おそらくクリエルがKOを意識し出した時。
そしてそこから反撃を受けたにも関わらず、一度「あともう少しで倒せる=ほんの少しの油断や楽観視」と思った気持ちを立て直せなかったこと。
何よりも、ノンシンガが劣勢に立たされながらもおそらく自分の勝利を1mmも疑わなかったこと。
あとやっぱり、クリエルは倒せるパンチを持っていなかった、という事実。
やっぱりボクシングというのは最後の最後まで何が起こるかわからない。
セミファイナルのマウリシオ・ララのドローのショックがどこかに吹っ飛ぶくらい、痛快な大逆転KO劇でした。
前戦の「まさか」の敗北を乗り越えての大逆転KO。こんな勝利を掴めるボクサーははっきり言って稀であり、しかもガチンコ勝負でのリベンジというのは実はなかなかありません。
アップセットを起こされたボクサーがリベンジを果たす場合は、「本来1戦目でこう戦っておけば勝てた」を再現するものであり、代表的な例でいうとアンソニー・ジョシュアvsアンディ・ルイスJrとかがパッと浮かびます。
この戦いはそうではないタイプのリベンジであり、この稀な例には寺地拳四朗vs矢吹正道なんかが例として浮かぶわけで、前者は勝者がちゃんと戦った結果であり、後者は勝者が敗北を受け止めて乗り越え、さらに強くなるという結果です。
つまり、寺司拳四朗と同様に、このシベナチ・ノンシンガは覚悟を携えて強くなった、と言えると思うのです。
是非是非、次戦で叶うようであれば、拳四朗との王座統一戦が見たいですね。
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