7/20(土)、両国国技館。
田中恒成の試合中止という残念なニュースに始まった興行でしたが、荒本一成(帝拳)、アンソニー・オラスクアガ(アメリカ)の世界初戴冠、那須川天心(帝拳)のド派手なKOシーン、そして中谷潤人(M.T)の戦慄の一発。
衝撃的なノックアウトが続いたこの興行は、玄人からライト層のファンまで非常に満足度が高かったのではないでしょうか。
ということで一夜明け感想戦。
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荒本一成のプロデビュー
帝拳が満を持して送り出した荒本一成、初回を見た限りでは非常に早く終わるのではないか、とも思いました。とにかく左ボディの音がえぐかった。会場中に響き渡る、というのはまさにこのことでしたね。
3Rに手数が激減した荒本でしたが、どうやら2Rに眼窩底骨折をしていた、とのことなので、その状態でも最終ラウンドに素晴らしいノックアウトで切って落としているのだから、やはりそのポテンシャルは凄まじいものです。
もっと楽勝のプロデビュー戦かと思われていた荒本、初戦で6Rを戦い、ある種「プロの洗礼」を浴びたとも言えます。本人は反省していましたが、そんな中でも非常に大きな経験をしたのではないでしょうか。だからこそ、今後のキャリアにも期待できそうですね。
アンソニー・オラスクアガの初戴冠
さて、我らがプリンセサ、アンソニー「トニー」オラスクアガは加納陸(大成)を3Rで見事なノックアウト、WBO世界フライ級王座を初戴冠しています。
初回の序盤、加納のスピードが非常に素晴らしかったですが、オラスクアガはしっかりと見てそれをラーニング、初回の後半には自ら攻めるなどして早々に対応していました。
加納は気持ちの強いファイターですが、もっとあのスピードを活かして戦った方が良いのではないか、とも思いますね。ともあれ、加納は打ち勝てる算段だったのか、それともインサイドでしか勝利を掴めないと思った国くの策だったのか、とにかく近い距離でのボクシング。
あの距離ではパワー差も大きく、確かに素晴らしいコンビネーションで加納が押し込む場面もあったものの、オラスクアガには通用しませんでした。
しかしオラスクアガの当て勘たるや、素晴らしいですね。これは拳四朗戦でも感じたことですが、とにかく連続でパンチを当てるのが得意で、「下がったらやられる」という認識は必要かもしれません。
フライ級王座を獲得したということで、やはりクローズアップされるのはユーリ阿久井政悟(倉敷守安)との統一戦や、寺地拳四朗(BMB)との再戦。ただその前に、このオラスクアガは前WBO世界ライトフライ級王者、ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との指名戦がオーダーされるはずです。これも日本でやってほしいですね。
那須川天心の現在地
世界上位ランカー、ジョナサン・ロドリゲス(アメリカ)を圧倒。
WBAの7月発表のランキングでは、1位にこのジョナサン・ロドリゲスに勝利したアントニオ・バルガス(アメリカ)、2位に堤聖也(角海老宝石)、3位に比嘉大吾(志成)、そして4位にロドリゲスです。
この4位の選手に勝利したことで、那須川としては4位に成り変わるか、もしくはもう一つ上に行く可能性だってあります。ロドリゲスが大きく順位を落とすのみ、ということも考えられはしますが。
今後の動静としては、3位の比嘉大吾はWBO王座挑戦が決まっており、遅かれ早かれ2位の堤のWBA王座挑戦も決まるのではないでしょうか。つまり今回天心が4位につけたとすれば、早々に2位まで上がる可能性もあります。
もはや目の前と言える世界挑戦ですが、やはり帝拳は慎重。
「絶対に勝てる状態での世界挑戦」へと持っていくのが戦略です。タイトルを獲る前に、このスターに土をつけてはいけません。
天心の脅威的なスピード、素晴らしいリングIQを持ってすれば、例えば堤、比嘉に対しても序盤のリードを奪うことはできると思います。ロドリゲスもそうでしたが、このスピードになかなか対応できません。相手がスピードに対応できていないから、天心としてはやりたい放題できるし、自分のペースで戦えます。
ただ、やはり後半になるとスピードには慣れてくるでしょうし、天心のスピードも少しずつは落ちてくると思うので、そこからどのような戦いができるのか。もしくはそれまでに終わらせてしまうのか。
この部分が天心として未知な部分であり、例えば前半圧倒したとしてもそれに慣れられた後に何もなく、変わらずスピードしかないようだったら、今の王者には勝てないのです。これを、今年いっぱいと来年かけて証明していくのでしょう。
さて、天心の次戦の相手ははっきり言ってほぼ決まっている、と言っても良いでしょう。
狙うはWBOアジアパシフィック・バンタム級王座。
現在空位となっているこの王座は、ほぼJBCの意のままに操れる王座と言って良い。
だからずっと空位の状態のままであり、その台座に那須川天心を迎えることを待っています。
その相手は、おそらく那須川の相手として抜擢され、突如としてこのランキングの上位に現れたボーンルエン・パヨーム(タイ)。
12勝(12KO)3敗というボクサーですが、12勝は全てタイ、3敗は全てタイ国外、強敵との対戦経験はなく、地域タイトルの経験もありません。ちなみに3敗は全て2Rまでで終わらせられています。
これははっきり言って興醒めの相手ですが、まずは確実に天心にタイトルを獲らせよう、ということでしょうか。
その後は外国人を相手に防衛なのか、それともOPBF王者、栗原慶太(一力)との王座統一戦か。栗原はとてつもないスラッガーですが、穴が多いこともあって、天心としては比較的与し易い王者で、天心のボクシングを長いラウンド試すことに関しては最適なマッチアップだと思います。
しかも栗原の評価は未だ高く、天心がこの栗原に勝てば世界挑戦資格云々というのは十分すぎるほどに満たされます。そしてもし、栗原が天心を喰えばまたドラマも生まれますし、かのスラッガーを知るボクシングファンは彼を応援しなければならないでしょうし、アツい戦いになりそうですね。
いずれにしろ、おそらくまずは今年中にWBOアジアパシフィックの王座決定戦。どんなに煽ろうがこのパヨームというボクサーは強くもないし、勝利の全てがKOですが怖さはないと思います。(映像見てませんけど)
いずれにしろ、もはや倒せるボクサーとなったことに疑いの余地はない、那須川天心。これからはきっと塩とは呼ばれずに面白い試合をいくつも生んでくれるのだと思います。今後の進化にも期待し、見守りましょう。
中谷潤人、P4Pへの道
ここから少なくとも1年半ぐらいは、日本のボクシング界、もしくは軽量級(スモールウェイト)と言われるところのこと「ビッグマッチ」に関しては、井上尚弥ではなく中谷潤人を中心に回っていくのではないでしょうか。
そのビッグマッチが起こる起こらないは別として、です。
WBC世界バンタム級王者中谷潤人は、「今後王座統一戦を期待される試合を」としてリングに上がり、結果的にそれ以上を期待される2分37秒を過ごしました。
アストロラビオの負けた言い訳は非常にどうでも良いものですが、「見えなかった」という中谷の左ボディストレートはあのたった2分少々の時間の中で組み立てられたボクシングの成果であり、中谷潤人というボクサーの底知れぬ強さを物語るものです。
このインパクトの大きいワンパンチ初回KO勝利は、すでに王座統一戦の資格云々を通り越し、1階級上のP4P、「モンスター」井上尚弥との一戦が大きく取り沙汰される結果となっています。
日本ボクシング史上、最大のビッグマッチと言える井上尚弥vs中谷潤人。
この戦いはスーパーバンタム級で起こることが最も興味深い戦いであり、米国のように「切望される戦いが実現するのに5-6年を要する」ことはないように思います。日本ではプロモーターは良好な関係にあり、特に帝拳プロモーションと大橋プロモーション、日本の2大プロモーションはAmazon Prime 興行でタッグを組む可能性が大いにあります。
そしてこの日本ボクシング史上最大のビッグマッチの前にも、中谷には大きな戦いがたくさんある、というのが現状で、「日本ボクシング界のビッグマッチの中心は中谷潤人」と言える所以となります。
それはひとえに、現在世界のバンタム級王座が全て日本にあること。
WBA王者の井上拓真(大橋)戦は中谷本人も切望するものであり、井上尚弥への足がかりとしてもドラマティックで、日本だけでなく世界も注目するビッグファイトとなるでしょう。ただし、以前から井上拓真についてはその能力に反して行列ができており、次はおそらく堤聖也(角海老宝石)戦、これは比較的素直なボクシングをする拓真にとって相性が良いとは言えない相手にも思えます。かなり危険です。
WBO王者の武居由樹(大橋)戦は中谷が優位と出るのでしょうが、パンチ力とタイミングを持つ武居というボクサーは本当に怖いボクサーですね。こちらは切望されているとは言えませんが、決まれば面白い試合であることは間違いありません。ただこの武居も初防衛戦で比嘉大吾(志成)を迎えることとなっており、キャリアとハードパンチ、武井にはない回転力を有する元王者をどのように攻略できるのか、というのは非常に興味深く、もしこの武井が比嘉をクリアできれば、もしかすると中谷の対抗馬に上がってくる可能性があります。
IBF王者の西田凌佑(六島)戦はどうでしょうか。実は私はこの試合が一番見たかったりするのですが、関西を拠点に活動するボクサーなだけに西田の知名度は日本国内でまだまだなのかもしれません。
西田陣営としても当初は統一路線ではないことを明かしていましたが、果たして今はどうなのでしょう。これだけ統一戦の機運が盛り上がっている中で、果たして独自の防衛路線を引くのかどうか。今、円安の影響で海外から選手を呼び寄せるのは非常にお金がかかる上、統一戦となれば大きな報酬を受け取れますし、それも日本人同士だから必然的に日本でできます。関東でしょうけど。エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に完勝したことで、海外からは非常に大きな評価を受けている西田凌佑。今後の動向に注目ですね。
そして、さすがにやらないでしょうが、那須川天心戦もビッグマッチに数えられるものです。
そしてさらに、これはあまり現実的な話ではないのかもしれませんが、1階級下のスーパーフライ級にジェシー「バム」ロドリゲス(アメリカ)がいることもまた中谷にとっては好材料。未来のP4P候補、バム・ロドリゲスは、比較的階級を行ったり来たりできる強かさがあるわけですから、例えば来年突如としてバンタム級で1試合する、くらいのことはやってしまいそうなイメージです。
スーパーフライ級で言えば前戦で井岡一翔(志成)を破ったフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)だってバンタムに来るかもしれません。この辺りの中南米ボクサーたちは日本人ほど繊細に階級を上げないですから、可能性としてはありそうです。
そして上の階級には、言うまでもなく井上尚弥です。
バンタム級だけでなく、下から上がってくるボクサーとのビッグマッチ、そして自身が階級を上げればすぐに叶いそうなスーパーファイト。
この中心には中谷潤人がおり、今回のこの素晴らしい勝利はそれを大きく助長したように感じます。
日本ボクシング界黄金期突入か
— 井上尚弥 Naoya Inoue (@naoyainoue_410) July 21, 2024
すげー時代だ
日本ボクシング界黄金期、これを作ったのは間違いなく井上尚弥です。
世界の注目を、そして日本のお茶の間の注目も、彼が先頭に立って作ってきました。
そしてそれを次に受け取るのは、中谷潤人であり、また、那須川天心であると言えます。
「井上尚弥に憧れて」ボクシングを始めたボクサーたちがこれから王者になっていく時代。
今後もますます楽しみなるボクシング界を死ぬまで楽しみたいと思います。
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