祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵におなじ。
今、日本ボクシング界の黄金期を思えばこそ、いつかはこの流れも途切れ、現在隆盛を誇っているボクサーたちにも衰えの時間が来ます。
それも含めボクシングであり、その儚さというものもこの競技に私たちファンを縛り付ける魅力であるとも言えます。
ということで今回のブログは、黒星を喫し、世界王座から転落してしまったボクサーたち、元王者たちのニュースをピックアップ。
ジョー・コルディナ(イギリス)
元IBF世界スーパーフェザー級王者、ジョー・コルディナ。「ウェールズの魔術師」という、英国にとってはお馴染みの肩書きをニックネームに付けられたこのコルディナというボクサーは、その名の通り卓越したカウンターパンチャーです。
予想不利の中で尾川堅一(帝拳)を右ストレートで屠り、その後何故かIBF王座を剥奪。
しかし再び得たチャンスで「戦士」シャフカッツ・ラヒモフ(タジキスタン)を破って王座を再戴冠すると、エドワード・バスケス(アメリカ)を相手に初防衛に成功しています。
しかし2度目の防衛戦でアンソニー・カカス(イギリス)にまさかの8RTKO負け。
ただこの敗北はいわくつきです。
3R中盤、レフェリーがストップの指示を出したことでコルディナは停止、その時カカスは無防備なコルディナに対して左フックをヒット、ここで大きなダメージを負ってしまったコルディナは、このラウンドにダウンを奪われ、最終的にTKO負けを喫しています。
これは史上稀に見る最悪なレフェリングであり、ストップ後の加撃の後にカカスに注意が与えられただけで、休憩もほぼないままに試合が再開されていました。
ジョー・コルディナは本当に不運です。
私は、彼が非常に伝統的なニックネームを持ち、スタイリッシュなボクシングをする上、熱いハートを持っていることが好きで、ファンだからそう思うのかもしれません。多くの日本のボクシングファンは、おそらくコルディナをあまり評価はしていないでしょう。
この敗北の後、コルディナはマッチルームから連絡を受けていない、といいます。
それでもなお、前を向くコルディナは、スーパーフェザー球を卒業してライト級へ向かいます。
現在のライト級で、コルディナが通用するかというとかなり難しいかもしれません。しかし彼は、幾つものアップセットを繰り返してきました。
これからも応援したいと思います。
ノニト・ドネア(フィリピン)
すでに半引退状態、と言って良い、元5階級(または4階級)制覇王者、ノニト・ドネア。
かつての栄光から転落するも、2019年11月7日の井上尚弥戦で大復活、そしてその何度目かの栄光を終わらせたのも井上尚弥でした。
ちょうど1年前となるアレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)戦では戦略がなく、その肉体の衰えだけではなくモチベーションやトレーナーの不在等々、様々な問題が噴出した戦いだったように思います。
あの時、たった一人で戦っていたように見えたノニト・ドネア。頼れるのはレイチェル夫人だけだったように思いますが、そのレイチェル夫人こそが元凶と見る向きがあります。
が、ここにきて、ドネアの状態はいささか変わっているのかもしれません。
ドネアの最新のニュースは、先週末、ガブリエル・フローレスJr(アメリカ)のセコンドに就いたそうです。
フローレスJrは23勝(8KO)2敗の戦績で、敗れた相手はルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)、ジョバンニ・カブレラ(アメリカ)のみ。まだまだトップどころに挑戦できる可能性を持つ24歳です。
このフローレスJrの父、ガブリエル・フローレスSrに招かれてチームに加わったというドネアは、おそらく今後このチームのサポートを受けられるのではないか、と考えるのです。
比較的ディフェンシブなフローレスJrに対し、オフェンスをコーチした、というドネア。
そこにしっかりとしたコーチがおり、インターバル中にちゃんと作戦を指示してくれる相棒ができれば、41歳、まだ頑張れるのかもしれません。
ドネアが言及したマッチアップは、ローマン「チョコラティート」ゴンサレス戦です。
同じく半引退状態だったチョコラティートも、1年半ぶりの試合をクリアして復帰しています。
もはや歳をとりすぎている、と感じる二人の対決ですが、それでも申し分のないパワーを持つドネア、そして圧倒的なアクションを持つチョコラティート、40歳という節目を挟んでの激突はある種のビッグマッチです。
今後、彼らがどのような結末を迎えるのか、しっかりと見届けたいと思います。
オシャーキー・フォスター(アメリカ)
守られたプロスペクトのキャリアから脱線、そして戻ってきたというオシャーキー・フォスター。元WBC世界スーパーフェザー級王者です。
レイ・バルガス(メキシコ)との王座決定戦を制し、初防衛戦ではエドゥアルド「ロッキー」エルナンデス(メキシコ)からの挑戦を敵地メキシコで受け、劇的な最終回TKO勝利。
強豪エイブラハム・ノバ(アメリカ)を退け、その後ロブソン・コンセイサン(ブラジル)を迎えました。
このコンセイサン戦はフォスターが完全にシャットアウトしたかに見えた試合であり、確かに両者共にクリーンヒットは極端に少なかったですが、試合のペースを握っていたのはフォスターのように見えました。
しかし蓋を開けてみればコンセイサンのスプリット判定勝利。
大いに物議を醸した試合は、ボクシングファンからの大顰蹙を受けました。
その戦いから2週間、WBCは早々にダイレクトリマッチを指令。
物議を醸した判定で、「盗まれた」とも言える結果には見えましたが、この戦いはフォスターが圧倒したとは言えない試合だっただけにこの再戦もかなり競る結果になるのではないか、と思います。
果たしてフォスターは王座に返り咲けるか。
こういう試合が、ボクサーのキャリアを崩してしまわないとも限りません。
ここはフォスターが本来あるべき座に舞い戻ってくれることを期待します。
チャーリー・エドワーズ(イギリス)
誰が興味あるの?と思われるかもしれませんが、元WBC世界フライ級王者のチャーリー・エドワーズです。
実弟はもちろん皆大好き(と思いたい)「Showtime」サニー・エドワーズです。別にチャーリーの方は皆さんが見向きもしないこともわかっています。
しかしこの兄弟を取り巻く環境というのはなかなか興味深いことになっています。
2018年にクリストファー・ロサレス(ニカラグア)から奪った王座を初防衛し、2度目の防衛戦でフリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)を迎えたエドワーズ。
このマルティネス戦はマルティネスのゴング後の加撃によりノーコンテストとなりましたが、その後再戦が司令されるもその後エドワーズはこの王座を返上。明らかにマルティネスに対してビビってしまった、というムーブでした。
その試合から今まででたった4戦、ただ、前の試合からは5ヶ月スパンで9月の次戦を迎えるのだから、ここからはちゃんと戦っていくのでしょう。
さて、問題はその相手、トーマス・エソムバ(イギリス)というボクサーです。
36歳、カメルーン出身のエソムバは、EBUヨーロッパ・バンタム級王者。このタイトルにエドワーズが挑むという形になりますが、この13勝(4KO)8敗1分というボクサーのマネジメントをするのが、なんとサニー・エドワーズだそうなのです。
もともとチャーリーとサニーの間には確執もあったそうですが、現在は復縁。
それでもなお、この戦いにおいてはチャーリー・エドワーズの反対側のコーナーにサニー・エドワーズがいる、という構図が出来上がるのです。
サニー・エドワーズは、二人をリスペクトし、この試合を楽しみにしている、と語ります。しかしこの戦いでは、エソムバを全力でサポートする、とのこと。
直接対決ではないものの、兄弟対決であることには変わりありません。
果たしてどのような結末を迎えるのか、どこかでしれっと結果だけ知りたいものです。(試合は9/27に行われます)
フリオ・セサール・チャベスJr(愚息)
さて、チャーリー・エドワーズよりももっとどうでも良い元王者、チャベスの名を汚し続けるがそうは言っても元王者、JCチャベスJr。
WBAのヒルベルト・メンドサ会長はこの二人の間に世界タイトルが掛けられる可能性を示唆した、とのことです。
これは何とも愚の骨頂。これを通り越してさらに一周回ってWBAには尊敬すら覚えます。
Youtubeジェイク・ポールは前戦でマイク・タイソンと戦う予定でしたが、タイソンが負傷により辞退、代わりに選ばれたのは同じマイケルのペリーというボクサーで、このボクサーは当時0勝1敗という素晴らしい戦績のボクサーでした。
この強敵をポールは6RでTKO勝利、さすがの貫禄を示しています。(当然見てはいないけれども)
ポールは2020年1月、Youtuberを相手にプロデビュー戦を行い見事勝利した後、元NBA選手や元総合格闘家を連覇。他にも元UFCの世界王者に勝利するも、ちゃんとしたボクサーであるトミー・フューリーには敗北。
その後も連戦連勝を重ねたポールは、地上最強と呼ばれた「アイアン」マイク・タイソン戦にたどり着いたわけです。(from Wikipedia)
まあ、そんな素晴らしいキャリアの持ち主が、チャベスJrに勝利して世界チャンピオンだなんだと言ったらもはやWBA王座には何の威厳もありません。
ただ、その可能性がなくもないというところが非常に怖いところで、あのアンデウソン・シウバ(ブラジル)にチャベスJrは負け、ポールは勝利しています。ボクシングに3段論法は通用しない、というのはよく言われることですが、もう本当に勘弁してほしい。
この戦いがもし起こるのならば、もはやボクシングに未来はありません。
冒頭に栄枯盛衰、と書きましたが、ボクシングそのものもずっとあるわけではない、この競技が衰退することだってあるのだろう、と感じさせるニュースですね。
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