信太のボクシングカフェ

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ボクシングが大好きです。大好きなボクシングをたくさんの人に見てもらいたくて、その楽しさを伝えていきたいと思います。

茨の道を進み、3階級を制覇した男、長谷川穂積。〜Part3〜

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2005年、長期政権を築いていたウィラポン・ナコンルアンプロモーションを判定で下し、WBC世界バンタム級王者となった長谷川穂積。

防衛戦を重ねるごとに力をつけ、類まれなスピードとカウンター、回転力のある連打を武器に5年もの間、王座を保持します。

5連続KO防衛という偉業を成し遂げ、その勢いのまま挑んだ事実上の王座統一戦でしたが、WBO同級王者のフェルナンド・モンティエルには紙一重の差で敗れてしまいます。

敗戦後、調整試合をはさまず挑んだWBC世界フェザー級王座で劇的な飛び級での2階級制覇を成し遂げますが、体格面での劣勢は否めず、この先に不安を残すものでもありました。

日本のエース、長谷川穂積の軌跡を振り返るブログ、Part3です。

Part1、Part2はこちら↓

boxingcafe.hatenablog.com
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フェザー級王座の初防衛戦

2011年4月8日、元バンタム級王者、ジョニー・ゴンサレス(メキシコ)を迎えた長谷川。前回のブルゴス戦ではこれまでの長谷川と違い、打ち合いに活路を見出した闘いでした。

初めてのストップ負けからの再起戦、初のフェザー級戦、最愛の母の死を乗り越えた長谷川穂積、バンタム級時代のように絶対的な強さを、ジョニゴンという強敵相手にフェザー級でも見せられるか、というのが焦点でした。

初回、長谷川の調子は悪くは見えませんでした。しかしラウンド後半、ゴンサレスの左フックがヒットすると熱くなり、足を止めての打ち合い。

2Rには落ち着きを取り戻した長谷川でしたが、バンタム級時代と違い相手が大きく、自分のパンチを当てるために大きく踏み込み、逆にバックステップは短い。危険な距離に感じます。

3Rには長谷川は大きくステップを踏み、得意の左のダブルも良く出ます。しかしジョニゴンは冷静。ジョニゴンも確実に強くなってきていると感じます。長谷川が熱くなる場面も。

そして迎えた4R、ゴンサレスの右ストレートで長谷川がダウン!辛くも立ち上がるも、レフェリーは続行を許しませんでした。

 

長谷川は気持ちが非常に強く、相手に呑まれる事がないものの、それが裏目に出て打ち合ってしまったのが敗因と言えます。初回から足を止める場面も目立ち、できれば向かってくるジョニゴンを焦らし、自分のタイミングで勝負をすれば結果は違ったものになったのかもしれません。

階級の壁に挑み、散っていった長谷川穂積。自分より大きな相手と打ち合うハートは証明してみせましたが、自分より大きな相手に打ち勝てる力は証明できませんでした。

長谷川、現役続行

現役続行を宣言した長谷川は、2012年4月6日の再起戦を7RTKO勝利で飾ります。

バンタム級で名王者と言われる程の実績を残し、飛び級での2階級制覇。もう充分だという声も聞こえてきました。試合直後には保留とした進退も、すぐに現役続行と改めます。

既に偉業を成し遂げたといえる元王者は、同年の12月22日に再起2戦目。元オリンピアンのアルトゥロ・サントスとの技術戦を判定勝利で飾ります。照準をスーパーバンタム級にあわせ、3階級制覇を目指すことになります。

2013年に入り、タイ国5位という肩書のウィラポン・ソーチャンドラシットを3RTKO。格下の相手で少し雑な感じはあったものの、動きは良かったと思います。

同年、メキシコのスーパーバンタム級王者ヘナロ・カマルゴ相手には1RTKO勝利。かつての長谷川が戻ってきたかのような試合運び、利き腕である左の連打でダメージなく終えます。

そして3階級制覇を目指し、IBF世界スーパーバンタム級王者、キコ・マルティネス(スペイン)への挑戦が決定します。

絶望のキコ・マルティネス戦

ここまで、フェザー級にフィットしなかった長谷川でしたが、スーパーバンタム級では目に見えて体で負けているという感じはしませんでした。できれば距離で外し、背の低いマルティネスに見事なカウンターをあわせ、さばき、チャンスに高速連打でストップする。これが、長谷川の必勝作戦だったと思います。勢いのある攻撃をしてくるマルティネスと足を止めての打ち合いは避けたい。

 

ここを「集大成」と定めた長谷川。1つ目のベルトは若さと勢い、2つ目は母のため、3つ目は自己満足。そういってリングインした長谷川穂積は、これをラストファイトとする気持ちもあったかもしれません。インタビューをひろうと、当時、私はそのような覚悟にみえました。

初回、長谷川は上々といって良い滑り出しにみえました。しっかり足を使い、遠い距離からストレートを打ち込み、踏み込んでフックを振るう。チャンスが来るまで、しっかり足を使ってボクシングをしてもらいたい。

2R、足を使いマルティネスをかわしていく長谷川でしたが、ロープに詰まります。ここで、エスケープしてくれればいいのですが、打ち合いに。恐れていた展開です。やはり、パワー、打撃戦ではマルティネスに部がある。長谷川は左フックの後、右フックをフォローされ、ダウン。

バンタム級時代、ロープを背負っても打ち合いになれば打ち勝っていました。回転力のある連打、その連打の中で相手のパンチからカウンターをとれるテクニック。

しかし、この試合ではその連打で、相手がひるまない。スーパーバンタムだからなのか、それともマルティネスが頑丈すぎるのか。

3R以降、長谷川のカウンターが決まり、マルティネスの前進を止められる場面もあります。ポイントは少しずつ挽回していきました。

しかし7R、蓄積したダメージ。マルティネスの終わらないプレッシャー。カット(バッティング)による流血。いろいろなものが一気に吹き出したのか、マルティネスの攻勢にさらされ、2度のダウン。同時にタオル。

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長谷川穂積の3階級制覇への挑戦は失敗に終わりました。

そして、長谷川のボクシングも終幕。そう、誰もが思った瞬間だったと思います。

しかし、またも長谷川は再起。

選択した、険しい道のり

そして再起戦は、メキシコ期待のホープ、オラシオ・ガルシア。24歳と若く、29戦全勝(21KO)。

マルティネス戦(2014年4月23日)から1年が経過した2015年5月9日、長谷川は既に34歳。スピードはまだ健在でしたが、バンタム級王座の後期から打ち合いに活路を見出し、それで結果を残してきたからこそ、打ち合いに身を投じる事が多く、加齢もあって打たれ弱くなっているイメージです。無敗でハードパンチャーのメキシカンを迎え、一発もらえばどんなにいい動きをしていたとしてもひっくり返ってしまうのではないか、という不安感。

 

試合の立ち上がりは長谷川がスピードを活かし、ヒットアンドアウェイ。しかし、ガルシアが攻勢に出てきた時に付き合ってしまわないか、という不安感は常に残ったままです。打ち合うな、このまま、という祈りにも似た気持ちで見ていました。

この日、しかしそういった場面、つまり「長谷川が己の意地とハートの強さを見せ、我々ファンの胸を熱くさせる打撃戦」という場面は訪れませんでした。それでいいのです。勝ちを得るためには。

はじめて世界王者となった長谷川は、「地味なチャンピオンでいい」と語りました。しかしそのキャリアは、ド派手なKO劇をいくつも生み出してきた伝説級の王者。しかしこれからのキャリアは、打たれないボクシングに徹した方がいいに決まっています。

ガルシアという無敗のホープを完封した長谷川でしたが、すぐに世界王者になる、3階級制覇を目指すとは言いませんでした。自分が納得するまでやる、それが長谷川の望みであれば、我々は心配をしながらもそれを見守るのが務め。たとえそれが、どのような結果になろうとも。

そして再起2戦目、WBOスーパーフェザー級5位という、スーパーバンタムからしても2階級重いクラスの世界ランカー、カルロス・ルイス戦を迎えます。

 

ここでも長谷川は、スピード、ディフェンスを意識した闘い方を敢行します。遠い距離からストレート、打ったらすぐ動く。序盤、良い闘い方をしているようにみえます。

しかし、3R、ルイスのカウンターをもらってダウン!辛くも立ち上がり、持ちこたえます。

5Rにもダウンを追加されますが、足を使ってペースを取り戻し、クリーンヒットを狙います。

スピード、カウンター、高速連打という持ちうる武器全てをフル回転させてなんとか判定勝利をもぎとった長谷川。しかし、2度のダウンはどちらもかなり派手に倒れていて、ルイスがもっとハードパンチを持っている選手だったとすれば、そのダウンで終わっていた可能性もありました。

肉体的な衰えもあろうかと思います。打たれ脆くなり、スピードも、防御勘も衰えは隠せません。もう引退してもいい、そう思う裏腹、どこかでやはりヒーロー、長谷川穂積に期待してしまう自分もいました。

最後の聖戦

そして2016年9月16日、歴史に残る神興行といわれる一日。

山中慎介vsアンセルモ・モレノをメインにすえたセミファイナルで、WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、ウーゴ・ルイス(メキシコ)戦が組まれました。

ウーゴ・ルイスは前戦でフリオ・セハ(メキシコ)に1R51秒KO勝ちと勢いにのる2階級制覇王者。スーパーバンタム級としてはかなりの長身で、その長身から繰り出されるパンチは36勝中32KOというハードパンチャー。

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長谷川は大きな相手に対して、距離感を掴みづらいところがあるのでは、と思う反面、全盛期の長谷川なら絶対に負けないであろう直線的な攻めが目立つ相手でもあります。

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長谷川穂積の最後の試合。

進退については言及していませんでしたが、ファンならずともその思いで観戦したような一戦だったと思います。

ここ2戦、打たせないボクシングに原点回帰を試みていた長谷川でしたが、それはまだ完全ではない状態。いや、完全には戻らないだろうとも感じていました。

ウーゴ・ルイス戦、いつもよりも足の動きが小さく感じるのは、上体を丸め、ややクラウチングスタイルに近いスタイルになっているからでしょうか。大きなパンチをもらわないように慎重に闘っているその緊張感がこちらにも伝わります。

8Rを終えた公開採点、2-1で長谷川。序盤、おそらくルイスに流れたポイントを中盤に取り戻した感じでしょうか。中盤は長谷川が試合を支配しているような印象を受けます。それでもいつか、ルイスのハードパンチが長谷川にコネクトし、試合が終わってしまうのかわからない、そんな不安にもかられます。どうかこのまま、終わってほしい。

迎えた9R、ルイスの左アッパーが長谷川にヒット。長谷川、よろよろと後退。ついに恐れていた瞬間が来てしまったのです。

その奇跡は必然だった

襲いかかる、ウーゴ・ルイス。

ロープを背負う長谷川穂積。

「エスケープしてくれ。固まるな。」

しかし長谷川は打ち合いに突入。

「何度もそれで失敗しているじゃないか。なぜ、ここで打ち合いに?」

会場は一気にヒートアップ。声援なのか、悲鳴なのか。いや、その両方か。

長谷川はルイスに相打ち覚悟でパンチを出します。

長谷川の回転力が勝っていきます。

そして、カウンターとなってルイスにヒット。

長谷川が、ロープ際から打ち合いに活路を見出し、ルイスが後退!

会場のボルテージは最高潮となり、長谷川が攻め入ったところでラウンドが終了。

そして、ウーゴ・ルイスは棄権。

鼻の骨折で戦意を喪失したようです。

ルイスも動きはよくなかったですが、序盤のバッティングで鼻を骨折していたという情報も。

いずれにせよ、長谷川穂積、9R終了TKOで世界3階級制覇!

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なぜあそこで打ち合いに、との問いに、「ルイスは詰めるとき、左、右、左、右とラッシュをかけてくる選手で、それがわかっていたから。その詰め方は、カウンターをとりやすい」と語った長谷川穂積。なるほど、あの打ち合い、私の目から見たら大変危険な、一刻も速くそこから立ち去った方がいいと思った打ち合いは、むしろ願ったり叶ったりだったのかもしれません。

まさかの打ち合いに勝機を見出した長谷川、私が「奇跡」と思った3階級制覇は、彼にとっては「必然」だったのだと、今更ながらに思います。

長谷川穂積というレジェンドボクサー

バンタム級であのウィラポンを倒し、長期政権を築いた長谷川。

国外の強敵を次々と撃破したあの頃、本格派の王者に毎試合のように心躍りました。

更に、フェザー級、スーパーバンタム級と劇的な戴冠劇を見せてくれた長谷川。

自分を貫き通す信念と、決して諦めない心を教えてくれました。

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ただ強いだけでなく、カリスマと呼ぶに相応しいその生き様は、歴代の世界チャンピオンの中でも輝きを放ち、記憶にも、記録にも残る名王者として、その名をずっと残していくのだと思います。

これからの活躍も期待しつつ、結ばせていただきます。

 

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