みなさん、WOWOWでみましたか。
テレンス・クロフォードvsショーン・ポーター。
年間最高試合の呼び声も高いこのWBO世界ウェルター級タイトルマッチは、結果的にテレンス・クロフォードというスイッチヒッターの想像以上の強さを、まざまざと見せつけられた試合でもあったと思います。
パーフェクト王者と言われるクロフォード、なぜそんなに強いのか。
今回のブログでは、クロフォードの強さと今後について、思うところを書いていきたいと思います。(WOWOWのタイムリーオンエアを見ながら書いています。)
↓観戦記
Terence Crawford defeats Shawn Porter via TKO: Round-by-round analysisより
テレンス・クロフォードのキャリア
レスリング一家に生まれたというクロフォードは、高校時代までボクシングとレスリングを並行して習っていたそうです。
アマチュアでのキャリアは、国際大会で大活躍、とはいかなかったようですが、このアマキャリアの中でショーン・ポーターとも知り合ったみたいですね。
アマ時代、ライト級で戦っていたクロフォードは、オリンピックの国内選考会で敗退したことでプロキャリアをスタート。プロでもライト級でデビューです。
20歳でプロデビューしたクロフォードは連戦連勝、21戦目で初の地域タイトルとなるNABOのライト級タイトルを獲得、23戦目でリッキー・バーンズ(イギリス)に挑み、バーンズの保持していたWBO世界ライト級王座を獲得。
初防衛戦で当時無敗だったユリオルキス・ガンボア(キューバ)を9RTKOで撃破、その後レイムンド・ベルトラン(メキシコ)をほぼフルマークの判定で破り、リングマガジンの認定ベルトを獲得します。
2015年、王座を返上し、スーパーライト級に階級を上げての初戦でトーマス・デュロルメ(プエルトリコ)との王座決定戦を6RTKOで制して2階級制覇、WBC王者で当時無敗のビクトル・ポストル(ウクライナ)を大差判定で破って2団体王座を統一。
そして2017年にWBA・IBF王者のジュリアス・インドンゴ(ナミビア共和国)を破ってスーパーライト級での4団体統一を果たします。
この4団体統一王座を返上して階級アップ、王座に挑戦したのは2018年6月のこと。
マニー・パッキャオ(フィリピン)を破って戴冠したジェフ・ホーン(オーストラリア)に圧勝の9RTKO、初防衛戦ではホセ・べナビデス(アメリカ)、その後にアミール・カーン(イギリス)、エギディウス・カバラウスカス(リトアニア)、ケル・ブルック(イギリス)といった挑戦者をすべてTKOで屠り、今回のショーン・ポーター戦でも10RTKO勝利を収め、これでウェルター級にあげてから6連続KO、スーパーライト級時代をあわせると9連続KOとフィニッシャーぶりを発揮しています。実に最後の判定決着は、ビクトル・ポストル戦。
クロフォードの強さとは
まず特徴的なのは、スイッチヒッターというところでしょうか。右も左も違和感なくスイッチし、WOWOWの解説では、浜田剛史氏がサウスポーの方が攻撃的、というようなことを言っていましたが、私のイメージとしては、オーソドックスで様子を見て、勝負に行く時はサウスポー、というイメージでしょうか。
オーソドックススタイルで距離感を測り、サウスポーにスイッチして相手が対応に困る状況を作り出した上で、強い左を当てる、というようなイメージ。
それをより効果的に使えるのは、クロフォードが非常に距離感に優れたボクサーであることも大きいと思います。
距離を測るのが非常に巧く、そして速いクロフォードは、オーソドックスからの流れでサウスポーにスイッチした際、既に自分の距離を作る事ができている、と感じます。そして逆に、対戦相手としてはその距離感を狂わされる。
また、身長173cm、リーチ188cm(BoxRecより)、ブロッキングすればボディの方まですっぽりと覆われる恵まれた体格。
対戦相手としてはリーチで敗れ、届かないだけに前に出ざるを得ない状況となります。オーソドックススタンスのクロフォードに慣れたら、サウスポーにスイッチされたならば本当に堪りません。
序盤、クロフォードは意外な苦戦、と見られる試合も多い。
ポーターもそうでしたし、ブルックも序盤のジャブの差し合いは互角、カバラウスカスは幻のダウンを奪っています。
しかし、それすらも結局クロフォードの手のひらの上ではないのか、と思うほど、結局倒しきってしまうのがクロフォード。
ここに見えるのは、いわゆるボクシングIQとも言える、修正能力。
これをどのように鍛えるのか、というのは想像もつきませんが、とにかくこの対応能力が素晴らしい。
仮に序盤苦戦したと見えても、それはまだクロフォードが相手を測定している段階であり、まったくもって焦りの色も見えません。常に、非常に冷静。
常に、は言いすぎました。記者会見や計量、フェイスオフの時なんかは冷静に見えない時もありますね。というかだいたい荒れています。ただ、リングの上では常に冷静。
その冷静さを持って相手を分析し、その分析が終わるや自らの当たるパンチというのをしっかり当てていく。
そのアングルは素晴らしく、カウンターも素晴らしい。
確実に強く当たるパンチをセレクトし、それを当てる能力に優れ、そして決め時を絶対に逃しません。
実際、このポーター戦はポイントとしては非常に競っていました。しかし結局はああいう展開になって、倒すというのは尋常ではありません。
ボクサーに必要な、わかりやすい要素、それはスピードであったりパワーであったりするわけですが、それ以外にも距離感、ボクシングIQ、そして個人的には何よりも注目したいのはフィニッシャーとしての力。
獲物をじっくりと観察し、弱らせ、見切った上で確実に仕留める様は、まさにハンター。最近はBud(バド)というニックネームで呼ばれていますが、ボクサーの特徴としてはハンターと呼ぶ方が好きです。
まさに完全無欠、ボクサーとして必要なものすべてを兼ね備えたボクサーといえます。
期待されるのは、スペンス戦
WBC・IBF王者であるエロール・スペンスJr(アメリカ)戦が期待されているのは、ボクシングファンなら誰もがわかっている事ですし、本人たちも承知していること。
クロフォードと契約を結ぶトップランクは、結局この試合を実現することができなかったため、クロフォードはこの後トップランクから離脱、フリーエージェントになると宣言しています。
ここでクロフォードがPBCと契約するようなら、スペンス戦はすぐそこ。
あとはスペンスが「Yes」と言うかどうかにかかっています。
ただ、スペンスは眼疾(網膜剥離)で現在戦線離脱しており、そこから復帰してすぐのクロフォード戦を受けるか、というとその可能性は低いような気がしています。
スペンスが調整試合を挟み、クロフォードが更に一度防衛戦を重ねたところで激突する、というのが最短のような気がして、順調にいけば2022年中の激突が見られるかもしれません。
とはいえ、クロフォードが負ける姿は想像できず、スペンスに対してさえ、全ての面で上回って勝利を収めるのではないか、ということが予想として成り立つ事のような気がします。
WBAスーパー王者で、マニー・パッキャオ(フィリピン)を破ったヨルデニス・ウガスも素晴らしいボクサーで、誰とでも良い勝負はできそうですが、やはりこのクロフォードには敵いそうにありません。
あとはバージル・オルティスJr(アメリカ)、ジャロン・エニス(アメリカ)、コナー・ベン(イギリス)といった次世代のスター候補たちがこのウェルター級に集結しており、対戦相手には事欠きません。ちなみに、オルティスが素晴らしいノックアウトを演出すれば「オルティス、クロフォード相手にも当たればいけるんじゃない?」とか、エニスが圧倒的な力を誇示すれば、「エニスなら或いは。。。」とか思うわけですが、今回のクロフォードを見るとそのすべてが霧散。
いずれにしてもクロフォード相手にはかなり厳しい戦いが予想され、正直このプロスペクトたちは初の世界タイトル戦がクロフォード、となった時点で運がありません。かといって、穴王者はいません。(唯一、ウガスなら、というところはありますが、ウガスも強豪です。)
今、ボクシングで最も面白い階級は、このウェルター級かもしれません。
実際やってみないとわからないですし、個人的にはオルティスの突出したパワーに期待したいという面もありますが、この超がつくほど層の厚い、ウェルター級においてさえ頭ひとつ抜け出ているとも言えるテレンス・クロフォード。個人的には、ウェルター級最強は勿論のこと、PFPで考えても第一位だと思っています。
その牙城を崩すボクサーは現れるのか。それとも、クロフォードは証明することがなくなった、と無敗のまま引退してしまうのか。
ここ数年、ウェルター級は注視していかなければならない階級です。それぞれが激突する日を夢見て、ただひたすらに待ちたいと思います。