前WBC・WBO世界スーパーフェザー級王者、シャクール・スティーブンソン。
シャクールってニックネームがないというのが非常に不思議。
もうここまでメジャーになってしまったら、途中からニックネームがつくのかどうか怪しいものですね。
抜群の距離感とタイミングを持ち、とにかく安全圏で闘うシャクールは、どんなスタイルのボクサーであっても鬼門となり得るボクサー。未来のPFP候補、というのは言い過ぎではなく、このままいけば「負けない」ボクサーとして名を馳せる事になるでしょう。
先日、リオ五輪金メダリストのロブソン・コンセイサンを迎えた防衛戦で、体重超過、秤の上で統一タイトルを失ったシャクール。はっきり言って、これに安堵したボクサーもいたのではないか、とも思います。
↓vsコンセイサンの観戦記
Shakur Stevenson stripped of junior lightweight titles after missing weight - The Ring
シャクールはWBC王座とWBO王座のほか、リングマガジンの王者としても認定されていました。
ジャメル・へリング(アメリカ)をノックアウトしてWBO王座に就いて2階級制覇、そして当時のWBC王者オスカル・バルデス(メキシコ)を全く寄せ付けずに完勝したことで、間違いなく階級最強という称号を手に入れたと思われます。
そこで、あとは「作業」としての4団体統一が残っているだけだったこの状態で、まさかのウェイトオーバーによる王座剥奪。
今回のブログでは、スーパーフェザー級最強のシャクールが去ることで、まさに戦国時代が訪れんとしているこの階級を見ていきたいと思います。
世界王者とプラスα
オスカル・バルデス(ビバメヒコ)
スーパーフェザー級でおそらくもっとも力を持っているのは、オスカル・バルデス。「力」というものはマッチメイクを自在にできそうだ、とか、どんな戦いにおいてもAサイドとなりそうだ、という意味合いです。
シャクールに敗れてWBC王座を奪われましたが、その力はまだ健在でしょう。
ロブソン・コンセイサンにも負けていたという意見も多数ながら、個人的には再戦すればまたバルデスが勝つのではないか、とも思っています。
それだけのスターであり、勝負に負けても試合には負けない、そんな強さを有しているバルデス。ただ、現在は2022年4月30日の初黒星から復帰がまだ、シャクールがいなくなったことで再浮上なるのか、という段階です。
まあ、減量に困っている(バルデスのハーブティー事件で検出されたフェンテルミンの効能は、食欲抑制)ようなので、もしかするとライト級への転向もあり得るかもしれませんが。
ロブソン・コンセイサン(ブラジル)
最も不運といえるコンテンダー、ロブソン・コンセイサン。
当時無敗、ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)を素晴らしい戦いで降したばかりのバルデスに挑戦するも、判定を盗まれるかたちで戴冠ならず。
ひとつの復帰戦を挟んでの再挑戦は、階級最強、シャクール・スティーブンソンが減量を放棄した状態で待っていました。
これは悲運としか言いようがありませんが、圧倒されながらも最後まで倒されないという意地を見せたコンセイサンは、それなりの評価も手に入れたことでしょう。
ちょっとパワーレスに見えてしまうものの、その技術はシャクールなきあとのスーパーフェザー級では最高のものと思われ、タフネスを有しているがためにこのボクサーを攻略できるボクサーは少ないと見ます。
WBA王者
エクトル・ルイス・ガルシア(ドミニカ共和国)
2022年に大きく飛躍したボクサーの筆頭、エクトル・ガルシア。ヘクター・ガルシアという表記も多いですね。
2月にアメリカのトッププロスペクト、クリス・コルバートを追いかけまわした挙句ダウンを奪っての判定で降し、その勢いを駆って当時のWBA王者、ロジャー・グティエレス(ベネズエラ)に挑戦、ここを勝って世界王座初戴冠。
コルバート戦は代役での試合であり、オッズはコルバート勝利が1.05、ガルシア勝利が15.00というとんでもないアップセットでした。このチャンスを見事につかんだドミニカンは、コルバートが持っていたWBA王座への挑戦権(もともとコルバートはWBAの暫定王者であり、本来はこの試合でグティエレスに挑戦予定でした。しかし、グティエレスがケガを理由に日程を延期、代役としてガルシアがリングに上がった、という経緯)を奪い取り、そのままグティエレスから王座まで奪い取ったというシンデレラストーリー。
柔らかな上体と鋭い踏み込み、ダブルジャブ、パワーを持っている、バランスの取れたファイタータイプのボクサーです。
IBF王者
ジョー・コルディナ(イギリス)
ガルシアは2022年8月に王座に就きましたが、その2か月前にも王座交代劇が起こっていました。2022年6月、コルディナの地元である英国カーディフに乗り込んだ当時の王者、尾川堅一(帝拳)をまさかの2RKOで破り、母国を歓喜の渦に巻き込んだコルディナ。
世界初挑戦で世界初戴冠、完璧なタイミングの右ストレートは、コルディナのキャリアの中でベストのKOであり、このベストファイトでキャリア最大の勝利を挙げたコルディナだからこそ、今後の動向に注目しなければいけません。
これからが、真価を問われる時間。
しかし、この初防衛戦の相手がシャフカッツ・ラヒモフとなってしまったことについては悲劇、とも言えます。
技術もあり、馬力もあり、タフネスも持っているラヒモフと、オーセンティックでキレのあるボクシングながらもフィジカル的アドバンテージをとれないであろうコルディナでは、ちょっと愛称が悪そうです。
シャフカッツ・ラヒモフ(タジキスタン)
シャクールが退いたあと、階級最強はこの男ではないか、と個人的に思っているのはこのシャフカッツ・ラヒモフ(もしくはラキモフ)。
ラヒモフの出生地であるタジキスタンは、ウズベキスタンやカザフスタンと同様に中央アジアに位置しており、このあたりのボクサーは旧ソ連式のトレーニングを取り入れています。
その活躍ぶりはすでに国際的に顕著であり、GGGをはじめとしてムロジョン・アフマダリエフ等の怪物級のフィジカルメリットを持ったボクサーを世に送り出しています。
そんな流れをくむラヒモフは、2021年2月、ジョセフ・ディアス(アメリカ)の持っていたIBF王座に挑戦するも、ドローで獲得ならず。しかしこの試合は、ハードパンチを持つディアスが1.6kgものウェイトオーバーを犯しています。しかも、ディアスもラヒモフもその体躯を活かして戦うタイプですから、このオーバーウェイトの影響はものすごく大きく出るような試合。
この試合でもラヒモフは一切引かず、結果ドローとはなったものの、ラヒモフにタイトルを与えてよかったのではないか、と思うような試合でした。
そのジョジョ・ディアス戦の前は、尾川は倒しきることができなかった当時無敗のアジンガ・フジレ(南アフリカ)を8RTKO。
次戦ではジョー・コルディナのタイトルに挑戦する予定となっています。
コルディナは、おそらくラヒモフに対してはボックスするのではないでしょうか。コルディナにとって、打ち合いはかなりの危険を伴いそうです。
尾川堅一とロジャー・グティエレス
上記の通り、スーパーフェザー級は6月、8月に王座交代劇が起こっています。
なので同時に、その前に王者だったボクサーがいるのですが、それが尾川とグティエレス。
尾川は、鋭い踏み込みと「クラッシュライト」と呼ばれる右が武器の中間距離を得意とするボクサーですが、コルディナ戦では逆にその右を当てられてしまいました。
ただ、これは尾川が本領を発揮する前の出来事であり、やはり完全アウェーという状況も絡んでいた話なので、まだまだ、まだまだ期待ができると思います。
「実力を出し切れずに負けた」ということもまた、実力のうちのわけですが、それでもあの試合が最後というのは非常に寂しい。そう思っていたところで尾川の現役続行宣言は非常にうれしかったですね。
実際、現在の王者であるコルディナ、ガルシアとやっても遅れを取ることはないでしょうから、あとは世界戦ができるタイミングによっては返り咲きの可能性は十分ある、と思われます。来年中の再戴冠に期待。
対してグティエレスは、どちらかというと「全部出し切って負けた」という感じが強かったエクトル・ガルシア戦。
このガルシアを全くもって捌けなかった、というのが事実として残っていることであり、逆に前にでたボクシングのほうがうまく戦えていたような気がします。
グティエレスは、レネ・アルバラード(ニカラグア)との初戦が打ち合いの大激闘、再戦ではジャブとステップをうまくつかってアウトボックスよりのボクシング。再戦のほうが明確に、しかも楽に勝てたから味をしめたのでしょうが、この使い分けにおいて迷いがある可能性があります。
危険こそ伴いますが、それこそガルシアのように激闘型にシフトすれば、復活はあり得るかもしれません。
大混戦模様のスーパーフェザー
シャクールが抜けたことで、誰もが認める「階級最強」が不在となったことで、誰にでもチャンスがありそうな階級となったスーパーフェザー級。
シャクールが統一戦に進むのならば、そのことにより世界タイトル戦線もストップしてしまう可能性がありましたが、その懸念がなくなったことは、コンテンダーたちにとっては良いことでしょう。
とくにWBC、WBO王座は近々決定戦を行わなければならず、タイトルの動きは活発になるはずです。
おそらく今年の終わりから来年のはやいうちにこのふたつのタイトルホルダーが決まり、来年の春以降くらいには挑戦者たちがタイトルに挑戦するという流れになるでしょう。
だからこそ、今こそランキングを上げて、挑戦できる位置までこぎつけておくことが重要です。
WBOアジアパシフィック王者、木村吉光(志成)
OPBF東洋太平洋王者、力石政法(緑)
日本王者、坂晃典(仲里)
日本には、素晴らしい王者たちがおり、この後の展開次第では世界戦線へたどり着けるボクサーが出てきてもおかしくはありません。
当然、各々のレベルアップはまだまだ必要ですが、ここで一つ、チャレンジマッチを敢行する、というのも手立てとして臨んでほしいところ。
特に、一度は決まったサミール・ジアニ(フランス)vs木村吉光とか復活しないかな、などと考えてしまいます。ジアニは非常に評価の高いボクサーで、リングマガジンの階級別ランキングでも9位にランクインしています。もし、ここで勝つことができるようならば、一気に道が開けそうです。
木村には、是非とも香川県民初の世界王者となってもらいたい。(私は「一応」香川県の出身です。)
そんなわけで、平場での乱戦に突入した感のあるスーパーフェザー級。主役がいないからこそ、次の主役が誰になるのか、興味が尽きません。
↓そういえばついこの前のスーパーフェザーについて書いていた。。。
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