素晴らしい大激闘だったエマヌエル・ナバレッテvsロブソン・コンセイサン。
巷では「スーパーフェザー級最強はナバレッテ」が通説のように思うし、リングマガジンのランキングでは王者不在ながらもナバレッテは1位という評価を受けています。
ナバレッテは独特のリズムを持ち、パンチのアングルも多彩で、手打ちのように見えてその実驚くほどのパンチングパワーを持っており、タフネスも有しているボクサー。スピードだけはない、と言って良いと思いますが、それを補って余りあるほどのリーチと意味不明なタイミングを持っています。言い方を変えれば、変則です。
ただ、130lbsに上げて以降、ナバレッテの脅威は薄れているという現状もあり、簡単に「ナバレッテが最強」と言える現実はありません。
ということで、今回のブログでは、スーパー大混戦模様のスーパーフェザー級を見ていきましょう。
【WBO王者】エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)
この非常に特徴的な王者は40戦ものキャリアを持ちますが、実はまだ28歳。ボクサーとしてのプライムタイムはこれから迎えるのかもしれない、と思うと末恐ろしいですね。
スーパーバンタム級でアイザック・ドグボエ(イギリス)にアップセットで勝利してその名を知らしめると、再選では完膚なきまでに叩き潰して返り討ち。
ハイペースで防衛戦をこなしてフェザー級に階級を上げると、転級2戦目で空位のWBO王座を獲得しています。このフェザー級ではクリストファー・ディアス(プエルトリコ)、ジョエト・ゴンサレス(アメリカ)といった無冠ながらも強敵のボクサーたちを降し防衛、さらなる強敵を求めてスーパーフェザー級へ進出します。
メキシカンだからなのか、運が良かっただけなのか、非常に恵まれたナバレッテは、フェザー級もスーパーフェザー級も空位王座決定戦。
3階級を制覇した名王者ですが、スーパーフェザー級に上げてからは、王座決定戦でノーマークのリアム・ウィルソン(オーストラリア)にダウンを奪われる大苦戦。それもストップ負け寸前にまで追い詰められており、はっきりいってレフェリーによっては試合を止められてい高もしれません。
初防衛戦のオスカル・バルデス(メキシコ)戦こそ完勝ではありましたが、2度目の防衛戦はロブソン・コンセイサン(ブラジル)とドロー。3戦中2戦を大苦闘で終えています。
3階級目ということでそろそろ限界が訪れているのか、はたまた未だ階級にフィットしていないだけなのか。ともあれ、この状態で「階級最強」を謳うには何とも心許ないところでしょう。
↓好試合だったナバレッテvsコンセイサン
【WBA王者】エクトル・ルイス・ガルシア(ドミニカ共和国)
このエクトル・ルイス・ガルシアも突然、彗星の如く世界戦線に現れたボクサーです。
元々フェザー級を主戦場としていたのか、フェザー級のコンテンダーだったガルシア。
このガルシアが一躍有名になったのは、クリス・コルバートを破った時です。
元WBA世界スーパーフェザー級王者だったクリス・コルバート(アメリカ)は、WBAの王座削減政策によって無冠となり、代わりに「指名挑戦者」としての地位をあたえられました。そして当時の正規王者、ロジャー・グティエレス(ベネズエラ)との指名戦をオーダーされ、2022年2月という試合日程で決まります。この試合は挑戦者であるコルバートの優位とされたマッチアップでしたが、グティエレスが試合3週間ほど前にコロナウィルスに罹患、対戦相手を1階級下のコンテンダーへと変えて行われる「ファイナルエリミネーター」となりました。
コルバートはパワーレスながらも、負けないボクシングを徹底する中で、Showtimeに売り出されていたボクサーです。この勝負は無敗対決でしたが、Aサイドはコルバート、Bサイドにガルシア、という見方が当然のことでした。
しかし、ここでエクトル・ルイス・ガルシアのフィジカル、プレッシャーはパワーレスなコルバートを圧倒的に上回り、ダウンを奪っての大差判定勝利。コルバートから「WBA世界スーパーフェザー級王座への挑戦権」を根こそぎ奪ったガルシアは、次戦でグティエレスに挑戦し、見事勝利を収めて世界王座を初戴冠。
一気にスターダムにのし上がったガルシアでしたが、初防衛戦をまたずにWBA世界ライト級レギュラー王者、ジャーボンタ・デービス(アメリカ)に挑戦して初黒星を喫しています。ただ、これはスーパーフェザー級王座を保持したままのイレギュラー挑戦だったため、次戦が仕切り直しの初防衛戦となります。
初防衛戦の相手はレイモント・ローチ(アメリカ)。ローチはジャメル・ヘリング(アメリカ)挑戦に続き2度目の世界挑戦となるボクサーであり、これはガルシアにとって真価を問われる一戦となりそうです。
ガルシアにとっては戦いづらいボクサーではないとは思われますが、アフロ・アメリカンの典型であるローチとは良いライバルになりそうです。
↓ガルシアの出世試合、クリス・コルバート戦。
【WBC王者】オシャーキー・フォスター(アメリカ)
なんというか、この超がつくほどの大混戦模様のスーパーフェザー級において、強いて上げるなら最強はオシャーキー・フォスターではないか、と思っています。頭一つ分とかではなく、頭0.1個分位上回っているような気がする、というか、現在の王者たち全員に対して対応できるのではないか、という感じというか。
フォスターはしっかりとアマ経験があり、おそらくデビュー当初は期待されたボクサーだったと思われます。
しかしデビュー9戦目、初の8回戦で初黒星を喫し、その後2連勝も12戦目で2敗目。この2敗目というのが2016年のことであり、この敗戦からの復帰戦を4回戦で戦っていることから、およそプロモーターの期待からは外れてしまったのかもしれません。
しかしそこから一つ一つを勝ち切ったフォスターは、2018年頃から地域タイトルコレクターとなり、2020年には老いたりとはいえども強豪、ミゲル・ローマン(メキシコ)を撃破。
そこから1年半ほどのレイオフの期間はありましたが、WBCの挑戦者決定戦で当時無敗のムハマドクジャ・ヤクボフ(タジキスタン)からダウンを奪っての完勝、その能力の高さを世間に知らしめました。はっきりいって名前は知っていましたがノーマークだったフォスター、タジキスタンというお国柄、期待をしていたヤクボフ、この結果は非常に意外でした。
そして迎えたのはWBC世界スーパーフェザー級王座決定戦、対戦相手は謎のコネを発動して決定戦に出場することになったWBC世界フェザー級王者、レイ・バルガス(メキシコ)。
この戦いも、結局優遇されるバルガスが勝つのかな、なんて思っていたらとんでもない。
素晴らしいボクシングを展開したフォスターは、バルガスに完勝、見事初挑戦で世界初戴冠を果たしました。
そして先日の初防衛戦が大激闘となったエドゥアルド・エルナンデス(メキシコ)戦。
本当はもっと楽に買って然るべき、という相手なはずですが、この日はエルナンデスの頑張りが素晴らしかった試合。フォスターとしても敵地、メキシコでの試合ということで、いつもとは少々異なっていたのかもしれません。
最終ラウンドを前にポイントでは1-2で負けている、という状況の中、ラストラウンドの大逆転TKO勝利、これは本当に素晴らしい戦いでしたね。
「フォスターが最強では?」と思う理由としては、まず彼はジャバーであるというおよそ対応力の高いスタイルであることがあるのですが、それ以上に、「このスタイルなのにハートがめちゃ強い」ということが挙げられます。
エクトル・ルイス・ガルシアのようなスタイルであれば、ハートが強くなければやっていけないスタイルですが、フォスターのように比較的臆病にも見えるアウトボックススタイルで、最終的に特攻できるようなスタイルというのは稀です。このハートの強さというものは逆転KOを可能にする大切な要素であり、それを証明できたということでこのエルナンデス戦は大苦戦ではあったものの、非常に価値の高いもの、だと思っています。
↓最高の大激闘だったフォスターvsエルナンデス
【IBF王者】ジョー・コルディナ(イギリス)
そしてそして、この王者たちの中で誰を一番応援しているか、と問われればウェールズの魔術師、ジョー・コルディナを推します。
2022年6月、当時のIBF王者である尾川堅一(帝拳)を、まさに尾川のお株を奪うような右ストレートで沈めたコルディナ。
その後不運にも速攻で剥奪されましたが、コルディナ不在のうちに王者となったシャフカッツ・ラヒモフ(タジキスタン)にも勝利して王座返り咲きを果たしています。
英国ボクサーらしく、非常にオーセンティックなスタイルを持ちつつ、鋭いカウンターを持っているボクサーです。傍目に見ると、特徴がよくわからない、何がすごいかよくわからない、みたいに思う人は、きっと彼の魔術にかかっているのです。(上手いこと言った)
私は元々まっすぐなジャブ、まっすぐなストレート、基本的なコンビネーション、みたいなものが大好きなので、このコルディナのスタイルが好きなのです。
そんな中で、このコルディナは相手の研究を怠るところが全くなく、尾川戦に関しても、ラヒモフ戦に関しても、相手の隙をしっかりと突き、見事な勝利を挙げています。最後まで乱れることのないボクシング、それを可能にするのは献身的なボクシング愛からくる練習量、そしてリングIQとも言える作戦立案の能力と、それを遂行する能力の高さ。決して身体能力が高い、というわけではないと思われるところが、このボクサーをして魔術師と呼ばせる所以だと思います。
尾川を2RTKO、ラヒモフを攻略したコルディナですが、迎えた初防衛戦ではエドワード・バスケス(アメリカ)に思わぬ大苦戦、2-0で勝ちを拾っています。とはいえ、ラヒモフ戦のスプリット判定も含めて、この微妙なところで勝ち切れるというのは大きなアドバンテージでもあります。
↓コルディナのベストバウトはラヒモフ戦か?
まとめというかなんというか
まとめってほどのものでもないですし、結局のところ相性というものがありつつなので戦ってみなければわからない、というのが本音のところ。
ただ一つ言えることは、各王者がそれぞれに大変に苦い戦いを経験しつつ、ハートを見せて喰らい付き、何とか生き残っているというのが現状です。
王者同士はもちろんのこと、王者とコンテンダーとの間にもさほど差は感じないという状況の中で、この中でいったい誰が抜け出せるのか、というのは非常に興味深いところ。王者とコンテンダーとの間に差がない、ということにおいては、すぐにでもコンテンダーたちがこの王者たちに取って代わる可能性は大いにあるし、ここ1-2ヶ月くらいでみても取って代わられてもおかしくない試合は多くありました。
そんな中で言うと、最も負けにくいスタイルであるオシャーキー・フォスターが、「強いていえば」一番なのではないか、と言う推察です。
ナバレッテはスーパーフェザー級に上がり、ちょっと相手のパワーに対処でききっていないイメージもありますし、ガルシアは初黒星、それも初のKO負けとあってその影響たるや未だ不明。そして、コルディナは「次戦」と言われるリー・ウッド(イギリス)戦で予想不利と出ているようです。(これについては私はなんでなのかよくわかりませんが)
ともあれ、実力伯仲だからこそ面白い。ここにシャクールがいたならば、全然面白くないかもしれませんからね。
そしてコンテンダーといえば、元王者の尾川堅一(帝拳)や力石政法(緑)にもチャンスが回って来れば、戴冠の可能性はありそうなので楽しみです。
いずれにしろこのスーパーフェザー級はスーパー大混戦階級。今後も非常に楽しみです。
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