先週末、ウィリアム・スカル(キューバ)はIBF世界スーパーミドル級王座を獲得。このボクサーはキューバ出身で、ドイツを中心に活動するある種の変わり種です。
そしてアメリカで活躍するキューバ人ボクサーもこの日大活躍、Amazonプライムで放送されたPBC興行ではヨエニス・テレス(キューバ)がその強さを見せつけ、放映のないアンダーカードでもヘビー級のプロスペクト、ダニエル・ペロ(キューバ)が3RTKO勝利で勝利しています。
いつからか、デビッド・モレル(キューバ)のように若くして亡命してくる選手も増えてきた感のあるキューバ。
今回のブログでは、キューバン・プロスペクトたちを見ていきましょう。
「アマ大国」キューバ
昔からアマチュアボクシング大国と呼ばれているキューバ。私のような40代中盤以上のファンからすると、やはりフェリックス・サボンに叶うキューバ人はいないように思います。
バルセロナ、アトランタ、シドニーの3大会連続ゴールドメダリストで、世界選手権を6連覇。生涯アマチュアボクシングにこだわり、亡命のチャレンジすらしなかったサボンは、キューバの至宝そのものでしょう。
亡命してプロボクシングの世界に身を投じることの是非について語るつもりはありませんが、今、キューバは若き才能が国を飛び出してしまい、アマチュアボクシングとしては危機的な状況に入りかけている、と言う懸念があるのではないか、と思っています。
先日のパリ五輪では、ウズベキスタンが5つの金メダルを獲得する中、キューバは金1つ、銅1つ。2012年から女子ボクシングが加わったことでも総合順位としては落ちていますし、中央アジア、東アジアの躍進というのが凄まじい状態で、キューバの「アマ大国」としてイメージは若干ながらもやはり落ちている、と思うのは、私だけではないでしょう。
ヘビー級
ルイス・オルティスは歳をとりすぎ、フランク・サンチェスは初黒星を喫してしまいました。このヘビー級は選手寿命が比較的長い、というか、パワー主体ということもあって歳をとっても戦える、という階級でありますが、前述したダニエル・ペロというボクサーは期待大ですね。
25歳ですでにプロ9戦、2021年の東京五輪に出場したオリンピアンです。準々決勝でリチャード・トーレスJr(アメリカ)に敗れています。
ちなみにこのダニエル・ペロの亡命話については、RIngマガジンに記事が出ていましたので参考までにどうぞ。
記事によると、10度目のチャレンジでようやく亡命に成功した、とのこと。
多少は違えど、どのように実績を残したボクサーであったとしても、この亡命の苦労はそうは変わらないでしょう。
こう考えると、とてつもない覚悟を持って戦い続けていることがわかります。ちなみに兄、レニール・パロも11戦全勝(8KO)のボクサーで、おそらく同日に亡命してきた31歳。
クルーザー級
普通に考えればアメリカに亡命する、という流れになると思うのですが、どういうわけかロシアやヨーロッパの方までいくキューバ人ボクサーもいます。
クルーザー級のレナール・ペレスはその1人で、26歳である彼の亡命先はロシア。拠点はブラジカフカスというジョージアの国境からの程近く、必然的にロシア国内や旧ソ連の敷地内、フランス等で戦っているようです。
13勝(13KO)無敗、そろそろ名前が上がってくるかもしれません。
ライトヘビー級
現WBA世界ライトヘビー級レギュラー王者、デビッド・モレル。
2019年、彼がプロデビューを果たした時は若干21歳でした。その後、わずか3戦目でWBAの世界スーパーミドル級暫定王座を獲得、同級にカネロ・アルバレスという絶対王者はいましたが、そのカネロへの挑戦については「ち」の字も出ず。
前戦でライトヘビー級王座を獲得して2階級制覇も、ここには4団体統一王者、アルツール・ベテルビエフが君臨しています。
2番手王者ですが、その才能は明らかであり、まだ26歳ということを考えれば、この階級の覇権を握る可能性すら持っているボクサー。今後はデビッド・ベナビデス(アメリカ)とその覇権を争っていくことになるかもしれない、大注目のボクサーです。
スーパーミドル級
こちらも26歳、アメリカを飛び越えてドイツを亡命先に選んだオスレイス・イグレシアス。昨年から今年にかけての大躍進は見事なもので、ドイツでアルツール・レイスとの無敗対決を制したのち、エフゲニー・シェフチェンコ(ロシア)を初回KOで破ってIBO王座を獲得、前戦でもセーナ・アグベコ(ガーナ)を2RKO。現在12勝(11KO)無敗と波に乗っています。
次戦は11月、IBOタイトルの防衛戦で無敗のペトロ・イワノフ(ウクライナ)と戦います。両者とも拠点はドイツにあるようですが、カナダでの戦いですね。
スーパーウェルター級
ヨエニス・テレス、先日の戦いで戦績を9勝(7KO)無敗とした24歳は、2023年以降、対戦相手の質が上がっています。
2023年12月、同胞であるリバン・ナバロ(キューバ)を最終10RTKOで降し、2024年4月には19戦して無敗だったジョセフ・ジャクソン(アメリカ)というボクサーに判定勝利を得ています。トップ戦線に上がってくるにはまだもう少し、かかるのでしょうが、昨日のボクシングを見ると非常にバランスに優れ、器用なタイプであり、また、倒すパワーもあるから非常に期待できますね。
ウェルター級
プロスペクト、何ていえば怒られますが、この階級ではロニエル・イグレシアスが活動しています。ただ、このイグレシアスに関しては、キューバ国家が容認したプロボクサーであり、このキューバ国家とメキシコの「ゴールデンリング・プロモーション」(以下GRP)というプロモーション会社が契約を締結しており、そのGRPに所属するボクサーとして活動しています。
このGRPというプロモーション会社は2021年にスタートしたばかりなので、この後のキャリアが順風満帆に行くか、というと、行かないと思います。イグレシアスも36歳、このプロモーション会社に任せて良いことはないと思いますが、如何に。
ライト級
ライト級といえばアンディ・クルス。実はこのクルスも、イグレシアスと同様にキューバ国家に認められたプロボクサーでした。しかし、クルスはこの話にはのらず、キューバを脱走。当然、幾度かの失敗ののちに成功し、2023年7月にプロデビューを果たしています。
プロデビュー戦がIBFインターナショナル王座決定戦で、10回戦を戦い、現在4勝(2KO)無敗。すでに世界ランキングも一桁ですが、あとは政治力が必要そうですね。
もう1人、ライト級のプロスペクトといえばハディエル・ヘレラ。ドバイを拠点としているこのボクサーは、2021年のデビューながらも現在16勝(14KO)無敗というキューバ人ボクサーにあるまじきハイペースで試合をこなしており、前戦もニック・ボールvsロニー・リオスのアンダーカードに登場したばかり。ベテランのオリバー・フローレス(ニカラグア)を3RTKO、まだ22歳という若さで今後期待されるボクサーです。
フェザー級
勝負の一戦を迎えるロベイシー・ラミレス。ラファエル・エスピノサ(メキシコ)との再戦は12月7日(日本時間12/8)という予定です。五輪2連覇、鳴り物入りでプロデビューしたラミレス、同じ相手に2度も負けるわけには行かないでしょうから、相当な覚悟を持って臨んでくるはず。これは結果を待ちましょう。
そしてこの階級には、ライト級のヘレラと同時期に亡命したダヤン・ゴンサレスというボクサーもいます。15勝(13KO)無敗、ドバイではかなりしっかりとキャリアを積ませてくれるようで、こちらもまだ25歳、期待されているのでしょうね。
「キューバ人=強い」は間違いない
基本的に、命の危険を冒してまでプロボクサーになろう、というボクサーが亡命を試みます。成功の確率は低いのでしょうから、ダニエル・ペロも亡命が成功するまでに10回を要したのでしょう。
途中、失敗を重ねて諦めてしまったボクサーや、それこそ捕まってしまって牢に入れられたボクサー、水面下ではたくさんいるのでしょう。その中でも、実績を残しているボクサーは牢に入れられる確率としてはおそらく低く、何度もチャレンジできるから確率が上がる、みたいなことも多いのかもしれません。
いずれにしろ、プロボクシングをやるために相当な覚悟を持って亡命をする、というこのスタートは、アメリカやメキシコ、日本でボクシングを始めるハードル、プロボクサーになるハードルを考えても比べ物にならないほど高く、厳しい。
それを乗り越えてきているボクサーたちは、自信もあるでしょうし、負けたくない気持ちも強いはずです。
持っている覚悟、培ってきた技術、キューバ人プロボクサーの根底にこれがあると知れば、やはりキューバ人ボクサー=強敵と短絡的に考えてしまうこのことは、間違ってはいないのでしょう。
そしてこういった背景を考えて、今後プロボクシング、特にキューバン・ボクサーを見るのは、また面白いかも知れません。
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