沼田義明、小林弘がスーパーフェザー級(当時はジュニアライト級)の世界王者となったのは1967年。そこから、1970年代には柴田国明が、1980年代には上原康恒が、1990年代には畑山隆則が、それぞれ同級王座を獲得しています。
2000年代以降もホルヘ・リナレス、粟生隆寛、内山高志、三浦隆司といった名ボクサーたちが頂点を極めた、日本人にとっても非常に馴染みのある階級、といっていいでしょう。
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絶対王者、ワシル・ロマチェンコがこの階級を去り、2年以上。現在の絶対王者は、というと、WBC世界王者のミゲル・ベルチェルト(メキシコ)できっと異論はないでしょう。
そしてその他の世界王者、その王者を窺うボクサーを見てみると、まさに群雄割拠。誰がタイトルに辿り着いてもおかしくない、そんな気もします。
今回のブログでは、まさに戦国時代真っ只中、スーパーフェザー級のトップボクサーをピックアップしていきます。
スーパーフェザー級、現世界王者
WBC王者
ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)38戦37勝(33KO)1敗
プロデビューは2010年。2014年に1RTKOで初黒星を喫しますが、2016年、WBO暫定タイトルを獲得。翌2017年、三浦隆司(帝拳)からWBC王座を奪ったフランシスコ・バルガス(メキシコ)から11RTKO勝利でタイトルをもぎ取り、ここまで6度の防衛。
防衛戦では、前王者のバルガス、元王者の三浦隆司、元フェザー級王者のジョナサン・バロス、ミゲル・ローマン等々、実力者を退けています。暫定タイトル含め、世界戦は9戦全勝(8KO)という戦績を誇り、特に世界王者となってからの強さには目を見張るものがあります。
基本的に長い距離からストレートを放ち、そのままとめどない連打に持っていく非常に好戦的なスタイル。世界戦唯一の判定勝利の三浦戦では、三浦の強打を警戒し、ボクシングを選択し、強打を空転させるという引き出しの多さも示しています。
オスカル・バルデス(メキシコ)との対戦の後は、統一戦に向かっていかなければ本当に対戦相手がいなくなりますね。
IBF王者
ジョセフ・ディアス(アメリカ)32戦31勝(15KO)1敗
元五輪代表のトップアマで、2012年プロデビュー、26連勝で挑んだWBC世界フェザー級タイトルマッチでは、ゲイリー・ラッセルJrに敗北。次戦でWBA同級王座に挑戦も、計量失敗で獲得できず。(試合は勝利)
2019年に階級を上げ、2020年早々にテビン・ファーマー(アメリカ)に小差の判定勝利をあげ、IBF世界王座を獲得しました。
ラッセルJrとも好勝負を繰り広げたディアス、世界王座は時間の問題かと思われました。しかし、体重超過により獲得失敗という汚点を残し、スーパーフェザーへ。元々ハードパンチャーという感じではありませんが、フェザー上がりながらファーマー戦ではフィジカルで追い立てていましたね。相手がファーマーだからなのか、今後のスタイルにも注目です。
WBO王者
ジャメル・ヘリング(アメリカ)23戦21勝(10KO)2敗
元五輪代表で、元海兵隊員。2012年プロデビュー。元海兵隊員というバックボーンから、非常に人気は高いそうです。2019年の戦没兵追悼記念日に、伊藤雅雪(横浜光)に勝利し、WBO王座を戴冠。その後、初防衛戦をクリアしています。
長身サウスポー、距離が遠いところからストレート主体でボクシングをするボクサーです。長身でサウスポーというだけでやりにくいですが、そこから結構な半身構えなので、より距離が遠く感じるのも特徴でしょう。いわゆる塩試合にはなりやすいかもしれません。
やりにくい、ということが1番の特徴に感じますが、どこまで防衛記録を伸ばす事ができるのでしょうか。
WBA王者
レネ・アルバラード(ニカラグア)40戦32勝(21KO)8敗
2008年にプロデビュー、フェリックス・アルバラードの双子の弟。2019年11月に初挑戦でWBA王座を戴冠したばかりです。
2015年は勝ち負けを繰り返し、苦労したボクサーではありますが、その時8RKOで敗北したアンドリュー・カンシオ(アメリカ)にリベンジしての戴冠は大きく意味があったと思います。
負けの数は多いですが、ジェスレル・コラレス、ジョセフ・ディアス、ユリオルキス・ガンボア、そしてカンシオ等、骨太のキャリアを歩んできているのも事実です。
その激戦の中で、アルバラードのタフネスぶりは目を見張るものがあります。リーチも長く、ワンツー主体で攻める気持ちの強いボクサーでもあります。
プロ叩き上げのボクサー、カンシオの分までがんばってもらいたいですね。
WBAスーパー王者
レオ・サンタ・クルス(メキシコ)39戦37勝(19KO)1敗1分
WBA王座を長期防衛するとか、他団体の王座を吸収するとか、そういうことでなるはずのWBAの「スーパー」王座。今回は、謎のスーパー王座決定戦なるものが組まれ、そもそもフェザー級王座(WBAスーパー)を保持したままスーパーフェザーでも王座についたサンタ・クルス。
サンタ・クルスの実績については疑問の持ちようがなく、バンタム、スーパーバンタム、フェザーを制しています。そしてこんな4階級制覇はアリなのか、という今回のスーパーフェザー制覇?
リーチがあり、距離が長いところではストレートを放ち、、距離を詰めてから圧倒的な手数と回転力で相手をねじ伏せるボクサー。ただ、やはりスーパーフェザーではパワー不足は否めません。今後体を作ってスーパーフェザーで闘うのか、それともフェザーに戻って闘うのか。
いずれにしろ、サンタ・クルスはそろそろ統一戦に動かないといけない時期でしょうね。年齢もそろそろ、なので。
まだまだやれる、元王者たち
テビン・ファーマー(アメリカ)37戦30勝(6KO)5敗1分1NC
2011年に黒星デビュー。キャリア初期に4敗(うち1敗はホセ・ペドラサ)しましたが、その後は連勝で2017年に尾川堅一(帝拳)とのIBF王座決定戦にたどり着きます。結果は判定負けでしたが、試合後尾川のドーピング違反が発覚し、無効試合に。
翌年、IBF王座を獲得し、その後1年間で4度の防衛とハイペースで防衛戦をこなしました。
2020年1月にジョセフ・ディアスに敗れて無冠になりましたが、ファーマーはKO率こそ低いもののある種エキサイティングなボクサーだと思います。その真骨頂はディフェンスにあり、ローガード(又はノーガード)から上体を柔らかく使うディフェンスは、エイターテイメント性があります。
数々の逆境から這い上がったファーマー、実はちょっと応援しています。ディアス戦も、まるっきり負けという内容でなかったので、まだまだ期待しています。
アンドリュー・カンシオ(アメリカ)28戦21勝(16KO)5敗2分
ファーマー同様、こちらもプロ叩き上げ。デビューは2006年、引き分けでした。2019年に当時WBAスーパー王者で、将来を嘱望されていたアルベルト・マチャド(プエルトリコ)に番狂わせのKO勝ちで戴冠、初防衛戦でもKOで退けています。レネ・アルバラードに敗北しましたが、カットが原因だったので、ラバーマッチも有り得ます。
ガス会社勤務というブルーワーカーで、二足のわらじを履いています。それは世界王者を経験した今も変わらず。
4/25、井上vsカシメロ前座で復帰戦という話でしたが、7月に延期になっているようです。
王座に迫る、ネクストファイターたち
オスカル・バルデス(メキシコ)27戦全勝(21KO)
プロデビューは2012年、そこから連戦連勝、2016年にWBO世界フェザー級タイトルを王座決定戦で獲得します。初防衛戦は日本の大沢宏晋を撃退、3度目の防衛戦ではジェネシス・カシミ・セルバニアも退けます。
約3kgも体重超過した挑戦者、スコット・クイッグ(イギリス)に顎を割られ、ブランクをつくったりもしましたが、6度防衛してタイトルを返上。
バルデスは完璧な選手ではありません。左右への動きと、強烈なフックが武器。攻撃偏重で、ガードが甘くなることがあり、そこを突かれて何度かダウンも喫しています。しかし思い切りフックを振り回すファイトスタイルは相手にとって脅威であり、お客さんはエキサイトします。
そしてフェザー級タイトル返上後、スーパーフェザー級初戦のアダム・ロペス戦は、ダウンを奪われたのを挽回しての逆転KO勝利。
この試合は、本来はアンドレス・グティエレスとの対戦予定でしたが、グティエレスがなんと約5kgの体重超過。同じ興行に出場予定だったアダム・ロペスに白羽の矢がたったのです。
対戦相手が急に変更になる不運はあったものの、それは相手にとっても同じ。
スーパーフェザーでのスタートは、少し暗雲の立ち込めるものとなりました。
シャフカッツ・ラヒモフ(ロシア)15戦全勝(12KO)
アジンガ・フジレ(南アフリカ)15戦14勝(8KO)1敗
2019年9月、IBF王座挑戦者決定戦として行われたラヒモフvsフジレの一戦。両者ともに持ち味を活かした素晴らしいファイトでした。結果的にラヒモフのKO勝利でしたが、どちらの勝ちもあり得た内容であり、両者の今後に大きく期待できる内容でした。
ラヒモフは技術が高く、好戦的なサウスポーパンチャーです。フジレも非常にスピードがあり、反応の鋭い選手です。ラヒモフはなかなか追いきれていませんでしたが、8Rに力強い左クロスでダウンを奪うと、そのままラッシュ。TKO勝利でIBF王座への挑戦権を獲得しました。
ダウンを奪ったパンチは、相打ちでしたがラヒモフの方が力強く入ったパンチ。そこまで、ラヒモフもかなりいいパンチをもらっていたのですが、ものすごくタフです。
フジレはサークリングしながら、ジャブを打ち、相手の攻撃をいなす。上下への打ち分けも見事で、ラヒモフにボディーを効かせた場面もありました。パワーレスには映りませんが、ラヒモフが異常にタフなのかもしれません。
KOラウンドまではフジレが支配していた試合だったと思うので、また一つ上の段階のファイトで再戦するなら楽しみです。
元WBO世界王者
伊藤雅雪(横浜光)28戦25勝(13KO)2敗1分
2018年、敵地アメリカでクリストファー・ディアスに勝利して戴冠した伊藤。プロ叩き上げの日本人ボクサーが、偉業をなした瞬間でした。
この日のボクシングは、伊藤雅雪のこれまでのキャリアの中では間違いなくベストバウト。完全アウェーという不慣れの中で、いつも以上の堂々としたボクシングをしてくれました。
日本での初防衛戦のあと、2度目の防衛戦でジャメル・ヘリングにタイトルを奪われます。
下馬評では伊藤有利でした。
ここに勝てば統一戦、という話も出ていたように思いますが、先を見るとあまり良い結果が出ないのは過去を見ても明らかです。苦手と思われるサウスポー、それも長身だったことも、相性的にもよくなかったかもしれません。
まだまだやる気充分、伊藤は自ら考えられる選手だと思うので、これからも成長するはずです。今後の活躍に期待しています。
尾川堅一(帝拳)27戦24勝(18KO)1敗1分1NC
上述の通り、2017年にテビン・ファーマーとの一戦が無効試合となり、ドーピング違反により1年間のサスペンドでブランクを作りました。
その後2019年に復帰、最新の試合ではWBOアジア・パシフィック王座に挑みますが、5R負傷判定により引き分け。王者のジョー・ノイナイ(フィリピン)は清水聡(大橋)を衝撃的なKOで破った強豪でした。それでも、尾川の勝利は揺るがないと思っていましたが、残念な結果。
その前も本来はIBFの挑戦者決定戦に出場する予定でしたが、対戦相手のアジンガ・フジレが来日できず、流れてしまったという経緯もあります。不運が重なりますね。。。
腐らずに頑張っていれば、帝拳さんなのでチャンスはもらえると思います。
本当は伊藤vs尾川なんていう内藤律樹をはさんだ(○内藤-伊藤●/●内藤-尾川○)サバイバルマッチなんていうのも見たいと思っていたんですが、一緒に練習したりしている写真も見かけたので難しいですかね。
今後のスーパーフェザー
WBC王者のベルチェルト以外は、皆最近誕生した王者です。まさに戦国時代といってよく、ベルチェルトが頭一つ抜けてはいますが他はまだ評価はそんなに高くない王者たち。この後もタイトルの移動はありそうで、狙い目の階級であるといえます。
ただ、日本選手で現状、世界を狙えそうなのは伊藤、尾川と2人だけなので、日本国内のサバイバルをどんどん進めて、伊藤や尾川の次のボクサーたちもどんどん出てきてもらいたいですね。
そして世界王者たちを見ると、やはりまだ世界王座についたばかりで、統一戦という話はベルチェルトを中心にする以外は出てきそうにありません。
ベルチェルトは、かねてから階級アップを示唆していますが、どうなるのでしょうか。
もしオスカル・バルデスとの一戦が決まれば、非常に興味深いですね。
今から楽しみです!