歴代最強のボクサー、内山高志。
過去の日本人ボクサー(現役を除く)の中で、オールタイムPFPは誰か、と問われれば、私は内山高志を推します。
破格のパンチ力に加え、距離を測り、突き刺し、相手をストップし、翻弄する最高のリードブロー、そして最高のインテリジェンス。更に、努力家。
現役当時、内山を超えるボクサーは今後現れないのではないか、と思いました。アメリカで闘ってほしかった。
たら、ればで話すと、もっともっと海外的に評価されても良いボクサー。しかし、日本から出られなかったことで、過小評価されているであろうボクサー。
個人的見解として、「日本人史上最強のボクサー」内山高志について振り返っていきたいと思います。
【引退したボクサーの軌跡を振り返るシリーズ!】
【西岡利晃編】
【三浦隆司編】
はじめから強かった訳ではなかった、内山
内山は、ボクシング強豪校である花咲徳栄高校に進学し、ボクシングをはじめました。高校3年生の時、インターハイでベスト8、国体の少年の部で準優勝という成績を残します。
高校卒業後、こちらもボクシングの強豪校である拓殖大学に入学しましたが、レギュラーはおろか補欠にも選ばれませんでした。それでも腐らず、逆に奮起した内山は大学4年生の時の全日本選手権で当時のアマチュアのトップ、飯田育夫を破るという快挙を成し遂げます。
飯田育夫というボクサーは、高校3冠、大学1年生のときにフェザー級の全日本選手権を制覇、その後階級をあげ、2年生のときからライト級で全日本選手権を4連覇し、5連覇がかかった全日本選手権でした。
この飯田に、内山は完勝。飯田が負けたのか、とびっくりしたのを覚えています。
その後、内山は世代交代とばかりに翌年(大学卒業後)の国体、全日本を連覇。当時は全くといっていいほど世界で勝てなかったアマチュアボクシング界において、国際大会でも結果を残します。
その後アテネオリンピック出場をかけてオリンピック予選に出場するも、1回戦で敗退。本当にこの頃のアマチュアボクシング界は、国際大会での勝ち方がわかっていなかった感じがあります。
その後、地元埼玉での国体に出場するも、準優勝、この頃には引退を決意していた頃なので、モチベーションも上がらなかったかもしれません。(体調も万全ではなかったとのこと)
その後、引退を撤回し、ワタナベジムからプロデビュー。
プロデビュー後の快進撃
B級ライセンスを取得し、プロデビュー。
プロデビューから3戦連続1RKOで勝利。
そして初タイトル戦、OPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王座決定戦、ナデル・フセイン(オーストラリア)戦を迎える事になります。
フセインは47戦43勝(27KO)4敗という戦績を持つベテランで、4敗の内訳は世界挑戦で2敗、榎洋之(角海老宝石)の持つOPBF王座に挑戦して1敗、そして後のレジェンドマ二ー・パッキャオ(フィリピン)に1敗。そしてKO敗けはパッキャオの1敗のみ。疑いのない難敵でした。
当時7戦全勝(5KO)という内山の、7倍近くのキャリアを誇る。内山若干不利という予想も見た。(気がする)
そのフセインとの1戦は、結局内山が8RでフセインをKOし、圧勝。若干キレを欠いたように見えるフセインに、内山は時間をかけてじっくりと攻め、最後は左フックでダウンを奪う。そしてフセイン陣営からタオルが。
この頃までは、内山はパワーは認められているものの、手数の少なさ、フットワークをあまり使わない、等の理由でテクニックは認められていませんでした。これまでもダウンを喫したり、という打たれ脆さを露呈した部分もあって、そこまで大きな期待はなかったかもしれません。しかし、このフセイン戦の勝利で、内山はテクニシャンぶりも発揮、フセイン陣営からのタオルは、今となっては「ノー・マス」の現れだったようにも思えます。
そして獲得したOPBF王座をここから2年かけて5度の防衛。うち4つがKO防衛でした。
力まかせのパンチャーではなく、若干スロースターター気味ながら、序盤じっくりと相手を観察し、ジャブを打つ。そして、距離があってきたところで右ストレート、左フックを振るう。まさに導火線に火をつけて、時がくれば爆発するダイナマイトのよう。ノックアウト・ダイナマイト、ぴったりの異名です。
世界初挑戦
13戦全勝(10KO)という戦績をひっさげ、挑んだ世界王者はファン・カルロス・サルガド(メキシコ)。前年、ホルヘ・リナレス(帝拳)の持つ王座に挑戦し、アップセットでリナレスに初黒星をつけ、タイトルを奪取した未だ無敗のWBA世界スーパフェザー級王者。
リナレス戦はあっという間に試合が終わってしまったので、当時、実力は測りかねるところがありましたが、後年、IBFの世界王座も奪取(3度防衛)していることから、世界王者になる実力はあった選手だといえます。
無敗のハードパンチャー同士の注目の一戦。
初挑戦の内山ですが、緊張は感じられません。左ジャブがよく伸びます。初回から、大きく右を振っていく内山。サルガドは、ジリジリと下がりながら左を出します。プレッシャーをかけるのは内山の方。
2R、近い距離で内山が右を振るうも、サルガドはスリッピング・アウェーでかわす。やはり目がいい。しかしサルガドの攻撃も、内山はしっかりブロックでやり過ごす。内山のジャブがかなり長くのび、見誤ったサルガドにヒット。終盤、内山の左フックがカウンターでヒット。少しずつ、エキサイト。早くもダイナマイトの導線に火がつきました!
3R、ジャブで攻めて、ロープにつまった所で右を返す内山。サルガドはディフェンシブに闘い、時折連打を見せるという展開。
4R、ガードをあげ、プレッシャーを強める内山。サルガドの打ち終わりに距離を詰め、コーナーに押し込んで連打する場面も。ここまでは内山が優勢。
5R、変わらずプレッシャーをかける内山、時折出てくるサルガドに対してはタイミングの良い左フックで牽制し、サルガドは後続打が続かない。
6R、サルガドは下がるばかりで打開策がなくなってきたかもしれません。内山は隙がなく、パワーもタイミングも持っているのでサルガドはなかなか攻められない。内山は随分余裕も出てきましたが、相手はサルガド、油断せずしっかりガードを固めて闘えています。
半分を終え、ここまで内山はほぼ毎ラウンド見せ場をつくっているという展開。サルガドはディフェンスも良いですが、KOの期待も高まります。
7R、ポイント劣勢を意識してか、前に出てくるサルガド。しかしやはり内山のプレッシャーが強く、結局は下がり、サークリングします。前ラウンドまでと違い、サルガドのジャブが良い。
8R、長い距離からの攻撃が効果的と踏んだサルガド、足をつかって左のジャブ、フックを多用します。長い距離から内山が距離をつめ、中間距離での打ち合いも多くなってきます。終盤には内山の右がクリーンヒット!サルガド少し動きが落ちたか???
9R、そろそろダイナマイトの導線が短くなってきたようです。なんとかアウトボックスに徹しようとするサルガド。リーチが長い。ラウンド後半には距離が詰まり、打ち合い!
10R、開始1分、ワンツーがサルガドを捉える!サルガドも負けじと打ち返しますが、内山はしっかりとガード。内山は体幹が強く、踏み込んだ時、バックステップした時の体のバランスがすごく良い。改めて見るとやはりすごくかっこいいボクシング。
11R、陣営も、本人も、おそらく会場のファンも内山の勝利を確信。あとは油断せずに2Rを過ごすのみ。しかしダイナマイトの導線はもう爆発まで残りわずかのところまで来ているようです。内山はこれまで以上にアグレッシブにプレッシャーをかけ、パンチを振るいます。ジャブの差し合いで勝ち、プレッシャーで下がらせ、相手のは入り際に左フックをあわせる。ラウンド終盤、右を何発もヒットし、サルガドは明らかに動きが落ちる。
最終ラウンド、ついに爆発したダイナマイト。内山は勝負を決めるつもりで、重心をぐっと落とし、左をついて右ストレートを狙う。倒そうとする意識、ただのそれではなく、冷静ながらも倒すチャンスを見据えるインテリジェンス。残り時間が少なくなり、誰もが判定かと思ったその時、残り40秒でダイナマイトが爆発!サルガドはダウン!立ち上がったサルガドに襲いかかる内山!残り時間は少ない!追いかけて連打!連打!!連打!!!右がヒットしたところでレフェリーがストップ!!!
内山高志、悲願の王座奪取!
試合後のインタビューでも、その謙虚な人柄が垣間見えます。
私自身がアマチュアボクサーだった時、同じ階級で日本の頂点に君臨していたボクサーがついに世界の頂点に立った、記念すべき一戦。諸事情で会場にはいけませんでしたが、今見ても胸が熱くなる一戦です。
↓Youtubeのリンクを貼ってあるので、見てない方は是非!!
https://www.youtube.com/watch?v=WyYN5s7srjM
そして、ノックアウト・ダイナマイト、内山高志が、本当に伝説をつくっていくのはここからだったのは、当時は知る由もありませんでした。
part2はこちら↓