誰もが認める元PFPキングで、世界3階級制覇王者であるワシル・ロマチェンコ(ウクライイナ)と、中谷正義(帝拳)の一戦が正式決定との報せ!
日本ボクシング界史上、最大のビッグマッチと言っても過言ではない一戦は、6/26(日本時間6/27)、ラスベガスで開催とのことです。
前の週(6/19・日本時間6/20)に予定(正式発表はまだ)されている井上尚弥(大橋)vsマイケル・ダスマリナス(フィリピン)と一戦と共に、2週連続で日本のボクシングファンには注目試合が続きますね!一緒にやってくれても良いですけど。
過去、4階級制覇王者ミゲール・コット(プエルトリコ)に亀海喜寛(帝拳)が挑んだ一戦よりも、井上尚弥とノニト・ドネア(フィリピン)が雌雄を決した一戦よりも、そして古くは「黄金のバンタム」エデル・ジョフレとファイティング原田が戦った2戦よりも、ボクシングの中心地である米国での注目度は上でしょう。
なにせ相手は世界中のボクシングファン誰もが知る、あのロマチェンコです。
まずは、この試合に自力で辿り着いた中谷に、最大の賛辞を贈りたいです。
もちろん中谷にとってはここがゴールでないことは百も承知のことですが、個人的には、この試合が決まったということだけでも過去最高の偉業と言えます。
ここの勝敗については、おそらく多くの識者、ファンがロマチェンコ優位を予想することでしょうが、この勝敗については時の運、そして陣営、中谷の対策次第。
まずはこの日本史上最大のビッグマッチが決定したという報せを、全力で喜びたいと思います。
ワシル・ロマチェンコの経歴については、過去のブログで触れています。
いまだ力を有するワシル・ロマチェンコ
テオフィモ・ロペス(アメリカ)との4団体(3団体?)統一戦に敗れたロマチェンコは復帰戦となりますが、この復帰戦においても明らかな難敵である中谷をセレクトするあたり、「強い者としか戦わない」という強い信念を感じますね。
そもそも、ロマチェンコがトップランクと契約したのは、最短で世界挑戦ができることからのようです。多くのプロモーターが莫大な契約金を餌にロマチェンコと契約しようとしたそうですが、ロマチェンコと契約する条件としては「デビュー戦で世界戦を実現すること」であり、そのためには「契約金は不要」とまで言っていたそうです。
これは流石に実現せず、デビュー2戦目で世界挑戦の叶ったロマチェンコ。このタイトル戦は、体重超過したオルランド・サリド相手に判定を落としますが、その後は世界最短で3階級制覇、特に語り草になるのはスーパーフェザー時代、強敵の挑戦者を次々と棄権させた、いわゆる「ロマチェンコ勝ち」。
圧倒的な技術差を前に、挑戦者たちは次々と匙を投げ、自身も「ノー・マス・チェンコ」というネーミングをつけていました。(ロベルト・デュランがシュガー・レイ・レナード第二戦で、試合を諦める時「ノー・マス」=「もうたくさんだ」と試合放棄をしたことに由来)
あの当時、1980年という時代は、世界戦で棄権するなんて考えられないことでしたし、それは今でも挑戦者側からすると珍しい行為には思いますが、それを立て続けに起こし、絶対的な強さを見せていたロマチェンコ。
しかし、ライト級に上がってからはフィジカルで優位に立つことは叶わず、その絶対的なボクシングは少し陰を潜めています。とはいえ、絶対的なパワーがある訳でなく、リーチは170cmの身長に対して166cmしかなく、生物的な強さを感じるわけでもないロマチェンコが、人の体を熟知し、変態的な(ほめ言葉)サイドステップとパンチをヒットし、当てられない技術でトップ・オブ・トップまで登り詰めたことには、人間の持つ本来の可能性を感じざるを得ません。これは才能ではなく、努力の結晶だと思っています。
対して、中谷正義。
現在19勝(13KO)1敗というこの日本人ボクサーは、世界の強豪が揃うこのライト級において、ほんの2年前まで、アジアの域を出ない、アメリカ人からすると完全に無名のボクサーでした。
中谷のデビューは2011年。今年はデビュー10年目に当たりますね。
アマの名門、興國高校、近畿大学を経てB級デビュー。182cmという破格の長身を武器として、鋭く遠くからビシビシと当てられるジャブ、破壊力抜群の右ストレートを武器に連戦連勝。
出世試合はデビュー6戦目、キック出身の土屋修平(当時角海老宝石)との一戦。デビュー12連続KO勝利で話題ともなっていた土屋は、当時14勝(12KO)1敗のハードパンチャー。
前戦で初黒星を喫している土屋の再起戦の相手としてピックアップされた中谷は、ここで土屋を怒涛の攻めで倒しきり、一躍名を上げます。
その勢いを駆って、元日本ライト級王者(5度防衛の後返上)、当時のOPBF東洋太平洋ライト級王者であった加藤義孝(角海老宝石)に挑戦、見事これを獲得。
ここから中谷は11度の連続防衛を記録しますが、この王者時代は不遇といっても良いかもしれません。
日本のボクシング界の中心はやはり東京、関西で活躍する中谷の強さは、なかなか全国に轟くものではありませんでした。その強さを知っているのは、おそらくボクシングファン、よりも強くボクシングにのめりこむ人たちだけだったかもしれません。
この強さ、この実績を持てば、関東のジムに所属さえしていればもっと早くに世界戦のチャンスが巡ってきたとは思いますが、いつかの専門誌のインタビューで、「焦りはない」とい
とはいえ、アジア圏で絶対的な強さを発揮した中谷は、10度目の防衛戦でホープ富岡樹(当時REBOOT.IBA)、11度目の防衛戦でハリケーン風太(カシミ)を撃退し、本当に日本、アジアに敵がいない状態となっていきます。
ここで、ようやく中谷にチャンスが。
当時のライト級プロスペクト、テオフィモ・ロペス(アメリカ)との一戦が決定したのです。
これは徐々にランクを上げてきた中谷と、日の出の勢いで駆け上がってきたアメリカ人ホープ、ロペスによる、IBF世界ライト級のエリミネーター(挑戦者決定戦)としてオーダーされたもの。
おそらく11度の防衛の中では、モチベーションを保つのも大変だったとは思いますが、淡々とチャンスを待ち続け、手にした最高のチャンス。
初の海外戦で勝手もわからぬまま、アメリカに乗り込んだ中谷は、ロペスのハードパンチにも臆すことなく、懐の深さとジャブ、そして右のビッグパンチをヒットしてロペスを翻弄。
互角の戦いを演じましたが、手が挙がったのはロペス。
絶対に中谷の勝利、という内容ではないものの、互角にロペスと渡り合った展開でしたが、ロペス勝利という筋書きはハナから決まっていたようなもので、大差の判定負け。確か海外の反応ですら、ドローかスプリット、ユナニマスであっても僅差が妥当だろうという見方だったと思います。
ロペスはこの戦いで大きく株を下げ、中谷は「勝っていた」とも言われる内容により評価を大きく上げました。
しかし、この敗戦を機に中谷は引退。
ここからの一年は、テオフィモ・ロペスがリチャード・コミー(ガーナ)をすばらしい右カウンターを決めてIBF王座を奪取、そして紆余曲折を経て開催されたワシル・ロマチェンコとの統一戦を制し、4団体統一王者(WBCはフランチャイズ王者)に。
↓観戦記
中谷は、というと1年以上のブランクをつくっていましたが、あるとき復帰のニュース。それからほどなくして、フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)戦が決定しました。
↓観戦記
この超・正念場の一戦を、中谷は鋼のメンタルをもって大逆転ノックアウトで勝利。アメリカでの大勝利に、次戦が待ち望まれていた状況でした。
このロマチェンコvs中谷は、かねてから噂として上がっていた一戦。双方にメリットがあり、デメリットもある一戦です。
ロペスとの再戦を目指すロマチェンコ
ロマチェンコにとっては、ロペスを大いに苦しめたことが記憶に新しい中谷正義というボクサーを完封することで、格としてやはりロペスより上、というのをファンに見せ付けることができるでしょう。
そうして初めて、前戦で肩の負傷が敗北につながったということが実証されます。
敗北後、告白したあの肩の負傷については、現在は言い訳に感じてしまいます。
ここで中谷に完璧な形で勝利すれば、仮にこのままロペスがロマチェンコとの再戦を拒んだとしても、「ロペスが逃げた」という構図になろうかと思います。勿論、再戦できれば自信はあるでしょう。
ロペスとの再戦を目指す中谷
中谷の目標は、「世界王者」です。つまり目指すべきところはWBAスーパー・IBF・WBOの王座を保持するテオフィモ・ロペス。
WBC王座は5/29(日本時間5/30)に王者デビン・ヘイニー(アメリカ)に、帝拳ジムの同門であるホルヘ・リナレスが挑戦予定、私はリナレスの勝利を疑っていません。
WBAレギュラー王者には第一級の犯罪者、ジャーボンタ・デービスが居座り、これはもう世間的に無視。
ロペスが階級アップをしなければ、今はロペスの王座しか狙うところがありません。
中谷がロマチェンコとの一戦に勝利し、そのままロペス戦が締結するのであれば、日本人初か、もしくはふたり目(その際は井上尚弥が3団体統一王者になっているはず)の3団体統一王者が誕生することとなります。
バイアスなしの一戦、その勝者の特権
つまりは、この試合の勝者は、最もロペスを脅かす存在となりうるわけです。
ただ、テオフィモ・ロペスにとっては、ロマチェンコとの再戦も、中谷との再戦も、どちらも避けたいというのが本音ではないでしょうか。
そもそもロマチェンコとの再戦は露骨に嫌がっていますし、中谷は自身が最も苦しめられた相手であり、勝利の後、むせび泣いていた姿も記憶に新しい。ロペスがこのふたりとの対戦を避けるためには、階級アップしか方向性は見出せず、ただそれも時間の問題との噂もあります。
だったら、今度のジョージ・カンボソスJr戦を最後に階級アップして、このロマチェンコvs中谷をなにがしかの世界王座決定戦にしてもらいたい、と思いますが。
ともあれ、このロマチェンコvs中谷は、タイトル戦でなくても至高のマッチアップであり、勝利したボクサーはロペスとの再戦、又は世界タイトルへの挑戦をよどみなく突き進める一戦となるはずです。
先にも書いたとおり、ファンとしてはこの試合が決まったことだけでも嬉しいですし、とんでもないことだと思っています。
ロペス戦と違い、お互いに「Aサイド」とは言えない、妙なバイアスがかからないこの一戦、中谷には、ベルデホ戦のような少し無理をして攻めるようなボクシングではなく、懐の深さを活かし、なおかつアグレッシブなボクシングを見せて貰いたいと思っています。