先週末(11/12〜11/13)のボクシングは、小規模〜中規模興行でしたが、個人的には非常に面白い興行でした。
日本時間11/12(土)はサニー・エドワーズがフェリックス・アルバラードを完全にアウトボックス。そして、翌11/13(日)にはジャニベック・アリムハヌリがデンゼル・ベントレイを仕留めきれず、これはベントレイの頑張りによるところが大きいのですが、そうはいってもこの苦戦はまだまだ未知の部分も多かったアリムハヌリを判断する材料として非常に興味深いものでもありました。
さて、そんな中で最も印象に残ったのはプロスペクト、モンタナ・ラブに挑んだスティーブ・スパーク。
ラブがクリンチからスパークを持ち上げ、トップロープを超えてリング外へ落下させた、という非常にワイルドな決着となったこの一戦は、週末で最大級のアップセット。
このスティーブ・スパークというボクサーは、ティム・チューへ代役挑戦したこともあるボクサーで、日本と同じくオセアニアの括りであるが故、応援するに足りるボクサーでもあります。
チュー戦、そしてラブ戦をもって、個人的には非常に興味を掻き立てられるボクサーとなったスティーブ・スパーク。今回のブログは、このスパークのキャリアを見ていきたいと思います。
↓ラブvsスパークの観戦記。今週中はDAZNで見れます!
↓エドワーズvsアルバラードの観戦記
↓アリムハヌリvsベントレイ。11/20(日)正午からWOWOWで放送予定
スティーブ・スパークとは何者か
スパークの戦績は、現在16勝(14KO)2敗という好戦績です。
2014年の10月プロデビューから、そのほとんどを140lbs(スーパーライト級)リミットで戦っているボクサーで、デビュー戦は初回TKO勝利を収めるも、デビュー2戦目を中国で戦い、判定負けで初黒星を喫しています。まあ、キャリア初期の4回戦、しかも完全アウェーということなので、ここは推し量っても良いレベルのものかもしれません。
2015年2月に行われたこの中国での1戦のあと、約1年のブランクをつくり、復帰。復帰戦は2016年1月で、4RTKO勝利。その後は6回戦、8回戦、10回戦をそれぞれ戦い、6連続KO勝利を収めると、2019年3月にはIBFユース王座決定戦に出場、4RKO勝利でこれを獲得しています。ちなみにこのユース戦の前、当時JBC非所属の日本人ボクサー、小澤大将と戦い、6RTKO 勝利を収めています。https://boxinglib.com/boxingmeikan/archive/1684/0
同年の11月にはIBFオーストラリア・スーパーライト級王座決定戦に出場して、初回TKO勝利で地域王座を戴冠。2020年11月にはWBCオーストラリア同級タイトルを決定戦で獲得しています。このWBCタイトルについては、対戦相手が体重超過したにも関わらず、2RTKO勝利。
ここまでで10連続KO勝利、2021年4月に初の判定勝利でKO記録こそ途絶えますが、この一戦はウェルター級リミットでの試合でした。
突然のビッグファイト
そして彼の運命を大きく変える事になる一戦のオファーは、その戦いの10日ほど前にオファーを受けた、とのことです。
このとき、当然ボクシングだけでは生活ができないスパークは、バーテンダーの仕事をしていたそうです。
2021年7月7日、ティム・チュー戦のオファーはもちろん154lbsでの試合であり、チューの持つWBOグローバルのタイトルと、新たに掛けられる空位のコモンウェルスタイトル、両方の「スーパーウェルター級」のタイトルがかけられる事になっていました。
このオファーを「Yes」と即答したスパークは、このビッグファイトの準備に入ります。
自身のベストウェイトよりも2階級の重い階級、そして、対戦相手はオーストラリアのボクシング界で最も注目されるスーパースター、ティム・チュー。
結果的には3RTKOで2度目の黒星をその戦績に追加したスパークでしたが、この試合はスティーブ・スパークというボクサーを世に知らしめるー特にどこの国で行われているものであろうとも、熱心に試合を追いかけるボクシングファンが彼を発見することにー非常に大きな役割を果たしたと思います。
初回から、2階級上の、しかもその階級でも屈指の強打を誇るフィジカルモンスター、チューの強打に対して臆せず、いくつものパワーショットを放っていったスパークの姿は、この試合直前で理由をつけて試合を投げたマイケル・ゼラファ、クリンチ作戦を実行できなかったデニス・ホーガンと比べても非常に勇敢で、称賛されるべきものでした。
ただただ、実力差は大きかった、と言っても良いですが。
チュー戦で得たもの
しかし、スパークの戦績に記された2度目の黒星は、ここから彼が大きく巻き返しを図るのに十分なものを一緒に与えてくれました。
一つは、名声であり、もう一つは、資金です。
この試合で資金を得たスパークは、仕事を辞め、ボクシングに専念するという判断を降したようです。
その資金面での充実は、スティーブ・スパークをAサイドでリングに立たせる事に成功し、2022年3月、4月に行われた調整試合のあと、同年6月にアピヌン・コンソーン(タイ)とオーストラリアで対峙することになります。
世界挑戦経験もあるアピヌン・コンソーン、リングネームはダオヌア・ルアワイキン。かつて近藤明広(一力)とIBFの指名挑戦権をかけて激突、見事なアッパーカットで近藤をノックアウトしたボクサーで、当時のWBAスーパー・IBF王者、ジョシュ・テイラー(イギリス)への挑戦を成し遂げます。
コンソーン当時唯一の敗戦は、このジョシュ・テイラー戦で、本領を発揮する前に初回KO負けを喫しています。
このコンソーンを、スパークは3Rでストップ、チュー戦での敗戦から復帰後、3連続KO勝利をマーク。そしてこの勝利もスパークのキャリアにとって大きな転換期となります。
この勝利を契機としてマッチルームと契約、当時マッチルームが計画していた「マッチルーム初となるオーストラリア興行」に出場するボクサーとして白羽の矢が立ちます。
しかしスパークは、より大きな戦いを求め、モンタナ・ラブのホームタウンであるオハイオ州クリーブランドで、完全なるBサイドとしてリングに立つことを望みました。
ビッグアップセット
結果は、アメリカ期待のプロスペクト、モンタナ・ラブを相手に6RDQ勝利。「DQ」はDisqualified(失格)の略で、プロボクシングでもアマチュアボクシングでもある決着の一つで、これはなかなか稀ですね。BoxRecでは(公式的にも?)KO、TKOに含まれないようなので、これでスパークは16勝(14KO)2敗という戦績となりました。
この決着に納得のいかない観客は大ブーイング。これはもちろん、ラブのホームタウンだからです。
そのブーイングに対して、またラブの行為に対して、文句を言うこともせず律儀にインタビューに応じたスティーブ・スパークは、その獰猛なファイトと違い、おそらくリングを降りれば規律の正しい青年なのでしょう。
いずれにしろ、自身の力で大きなチャンスをたぐりよせ、見事その大きなチャンスを掴んでみせたスティーブ・スパーク。
この英、米を拠点とするでもないいちボクサーが、マッチルームとの契約にこぎつけたことは稀有なことで、特に彼は、世界タイトルを保持していたことも、挑戦したこともありません。
京口紘人にしろ、尾川堅一にしろ、日本人ボクサーでマッチルームと契約したボクサーは、世界タイトルを保持していました。(そしておそらく、その契約期間は世界タイトルを保持している期間。ただし、京口紘人はチーム・レイノソとの契約かと思うので、その限りではないでしょう。)これは、マッチルームが単にオーストラリア進出の糸口にしようとしたものなのか、それともスティーブ・スパークというボクサーの将来性を買ってのものなのかはわかりませんが、いずれにしても、このマッチルームの判断は正しかった、と言えるでしょう。
スティーブ・スパークの今後
スパークは今後もマッチルームのマッチメイクで戦っていくはずで、もしかするとこの勝利により、世界タイトル戦へのレールを敷いてくれるかもしれません。
スパークの試合は、エネルギッシュでエキサイティング、観客を喜ばせるのに十分なものを持っていると思います。
反面、技術的にはまだまだ、という部分も多いでしょうから、ここからの伸びしろの部分も気になるところ。いつまでも勢いだけではいけません。
予想外の決着に、このモンタナ・ラブとの再戦を望む声は多いでしょう。素晴らしい突進力でダウンを奪いましたが、再戦ではラブが対応してくる事が予想され、引き出しの多くなさそうなスパークにとっては厳しい戦いが待っているかもしれません。もしくは、それを上回るプレッシャーをかけ続けられるかもしれないので、それはそれで楽しみです。
もし、再戦に進まない場合は、マッチルーム開催のオーストラリア興行で、メインイベンターとしてリングに上がる可能性もあります。
おそらくスパークは、この勝利で世界ランクを手に入れ、2023〜2024年あたりに世界挑戦のチャンスが巡ってくるかもしれませんから、その中で調整試合だけでなく、例えばエリミネーションバウト等で強豪との対戦も発生してくるはず。
今後のマッチルームの手腕に期待しつつ、上位陣が拮抗していると思われるこのスーパーライト級で、どこまで活躍できるかを楽しみにしたいと思います。
【宣伝】
ボクシング用品専門ショップ、やってます。
11/27(日)まではBLACK FRIDAY SALEを実施中!
是非覗いてみて下さい!