A legend's son forging his own legacy. The Tszyu name lives on.
ティム・チュー(オーストラリア)vsブライアン・メンドサ(アメリカ)。
世界スーパーウェルター級4団体統一王者だったジャーメル・チャーロ(アメリカ)がカネロ・アルバレス(メキシコ)との階級を飛び越えた戦いに挑み、そのリングに上がった瞬間にWBOはチャーロの王座を剥奪。
当時WBO世界スーパーウェルター級暫定王者だったティム・チューは正規王者に格上げされ、この試合はWBO世界スーパーウェルター級タイトルマッチとして開催されました。
対するはブライアン・メンドサ、「タワーリング・インフェルノ」セバスチャン・フンドラ(アメリカ)を見事なノックアウトで降してWBC世界スーパーウェルター級暫定王者になったボクサーです。
メンドサはおそらくこのリングに上がったことで、WBCの暫定王座は剥奪されているのでしょうが、フンドラ戦の前には元王者、ジェイソン・ロサリオ(ドミニカ共和国)を5RKOで破っており、紛れもない王者クラスのボクサーでした。
チューはこのメンドサに対し、これまでの暫定王座戦(トニー・ハリソンを9RTKO、カルロス・オカンポを初回KO)のように簡単にはいきませんでしたが、運動量の多いメンドサをしつこく詰め、ダウン寸前にまで追い込んでのユナニマス判定勝利。11Rにはあわやストップか、という場面も作りましたし、倒して勝とうという意気込みは見てとれたので、良いパフォーマンスだったと言えると思います。
さて、今回のブログではそんなティム・チューの今後について。
(このブログは10/15夕刻に書いています。チューvsメンドサ戦後、ランキングの変動があるかもしれません。)
王者はジャーメル・チャーロ
リングマガジンのランキングでは、スーパーウェルター級王者はジャーメル・チャーロ。
これはもちろんカネロ戦を経ても変わりません。カネロ戦は、スーパーミドル級の戦いであり、スーパーウェルター級におけるチャーロの評価を下げるものではないからです。
2016年に当時空位だったWBC世界スーパーウェルター級王座を獲得したチャーロは、3度目の防衛戦で当時無敗で非常に評価の高かったエリクソン・ルビン(アメリカ)を驚愕の初回KO。この時がチャーロの評価が非常に高まった時だったのかもしれません。
評価の絶頂期で迎えた5度目の防衛戦はトニー・ハリソン(アメリカ)、チャーロ挑戦の2年近く前にジャレット・ハード(アメリカ)と空位のIBF王座を争い、9RTKO負けを喫しているボクサーです。
このハリソンにまさかのユナニマス判定で敗れてしまったチャーロでしたが、この試合の判定は議論を呼びましたね。
再起戦を挟んでリマッチに向かったチャーロは、ハリソンを11RKOで降して王座返り咲きを果たし、その勢いを駆ってWBA・IBF統一王者のジェイソン・ロサリオとの王座統一戦へと進みます。
このロサリオも8RKOで切って落としたチャーロ、過去にはパワフルな兄、ジャモールと比べてテクニックの弟、なんて呼ばれたりしていましたが、この頃にはすっかり倒すボクサーとしても定着、4団体統一も間近かと思われました。
しかし迎えた4団体統一戦ではWBO王者となったばかりのブライアン・カスターノ(アルゼンチン)を相手に負けに等しいドロー。この採点も大いに物議を醸したためにダイレクトリマッチが敢行され、再戦では10RKOで勝利を挙げて4団体統一を果たしますが、「実質無敗」から真に「1敗」になった感じでしたね。
このカスターノ戦、フラットに見るとカスターノ勝利はもちろん、ドロー、チャーロの勝利まで変ではないような感じはしますが、一人のジャッジが117-111でチャーロ、ととんでもジャッジをしてしまったのでファンの反感を買い、世論が「カスターノ勝利」に流れたイメージ。個人的には、決してチャーロの評価を落とすような内容でもなかったのではないか、と思っています。
カスターノにリベンジ(?)してスーパーウェルター級4団体統一王者となったチャーロは、1年と4ヶ月のブランクを経て2023年9月30日、カネロ・アルバレスの持つ世界スーパーミドル級4団体統一王座へとチャレンジ。過去、こんな無謀な挑戦が成功した事例はパッキャオとか井上尚弥とかくらいでほぼ皆無。しかも、相手はカネロ。
それでもスーパーウェルター級では減量苦が囁かれるチャーロには、一定の期待があったことも事実。
果たして試合は、情けないほどにカネロに蹂躙され、チャーロは何もできませんでした。
この試合の後、チャーロはスーパーウェルター級にカムバックすると発表されています。あれ?減量苦とは??
チューが目指すはチャーロ戦
ティム・チューは長くWBO世界スーパーウェルター級のトップコンテンダーの地位を確保し、2023年1月には指名挑戦者として当時の4団体統一王者、ジャーメル・チャーロに挑む予定でした。
これは素晴らしいマッチアップでしたが、チャーロは拳を負傷してこの試合をキャンセル、チューはトニー・ハリソンとの暫定王座決定戦のリングに上がることとなりました。
この以前からチャーロへのラブコールをしていたチューを無視し、怪我の癒えたチャーロはカネロ戦へと望むことが発表され、チューは6月に本来あるはずのない「暫定王座の防衛戦」へと進みます。
まるでチャーロとの戦いが決まらない鬱憤を晴らすかのような初回KOでここを勝ち上がり、カネロ戦を選択したチャーロのWBO王座が剥奪されると同時に正規王者へと昇格、暫定王座時代を含めて2度目の防衛戦となるブライアン・メンドサ戦を勝利で飾りました。
さて、重要なことは、WBO世界スーパーウェルター級「暫定」王者だった時と違い、現在のチャーロはチューと戦う義務を負いません。チューが「暫定」だった場合は、正規王者との統一戦がWBOから義務付けられるわけですが、現在はWBA、WBC、WBO3団体統一王者であるチャーロ、WBO王者であるチューの間には何のつながりもないのです。
なので、各団体としても強制力は一切なし。
ここからは、ジャーメル・チャーロというボクサーと、ティム・チューというボクサー、そしてそれぞれの陣営の思惑が重なり合うところとなるのでしょう。
幸いなことに、チャーロはPBC、チューはNo Limit Boxing Promotion、いずれもアメリカではShowtimeが放映権を持っているプロモーターなので、障壁は少ない。あるとすれば、アメリカでやるのか、オーストラリアでやるのか、というところは商店となりそうです。
ここでチャーロ戦が決まらないようであれば、転級も止むなし、と語るチューには、さほど時間は残されていません。その選択権はチャーロ側にありそうです。
果たしてチューは念願のチャーロ戦に進めるのか。発表に期待しましょう。
ごった返す、スーパーウェルター級
リングマガジンのランキングを見て分かる通り、ランカーたちは非常に拮抗しています。
2位のリアム・スミス(イギリス)についてはもうミドル級と言って良いでしょうからとりあえず無視、3位のブライアン・メンドサはチューには届かず。
4位のセバスチャン・フンドラはメンドサに負けたものの、もう一度やれば分かりません。
5位のエリクソン・ルビンはフンドラに負けていますが、つい先日当時無敗のヘスス・ラモス(アメリカ)に初黒星をなすりつけて再浮上。元々評価の高いボクサーだけにまだまだ期待できます。
そのラモスはまだ22歳と若く、2021年9月にはブライアン・メンドサを相手に10Rを戦い、大差判定勝利を収めています。
6位のイズライル・マドリモフ(ウズベキスタン)は9位のミシェル・ソロ(フランス)を一度は破るも、再戦でドロー。ただこれはアクシデンタルヘッドバットによる3R0:05のドローであり、不運なドローと言えますね。
このリングマガジンランカーたちの中ではこのマドリモフ、10位のチャールズ・コンウェル(アメリカ)がまだ底を見せていないボクサーといえますが、コンウェルのキャリアはまだ本格化していないと思われるので、実質の期待はマドリモフです。
8位のハリソン、9位のソロに関していえば、もっと相応しいボクサーがいるはず、だと思います。
ちなみにこの「もっと相応しいボクサー」の筆頭はマゴメド・クルバノフ(ロシア)、今年5月にミシェル・ソロに勝利していますが、それ以前にもパトリック・ティシエイラ、リアム・スミス等から勝利を収めているボクサーです。ロシアのウクライナ侵攻からこのランキングに入らなくなったのかな?と思いますが。
ミドル級にチューが行けば面白い
スーパーウェルター級は現在の状態でも十分面白いのですが、正直、チューを脅かす存在はあまりいないようにも感じます。
それよりも、フンドラやルビン、メンドサ、マドリモフ、この辺りが個性があって総当たりとなればそれはそれで非常に面白そうです。この辺は非常に相性に左右されそうで、誰がどういうふうに勝利を収めるのか、非常に興味深いですね。
そんなわけで、チューにはさっさとチャーロ戦を決めてもらって、その後のミドル級での戦いが見たい。
ミドル級という階級は人気階級であるべきなのですが、現在はヒーローが不在。
ジャニベック・アリムハヌリはヒーローにはなり得ないボクサーだと思われ、どちらかというとヒール役が良い。
絶対王者、ジャニベック・アリムハヌリに挑むヒーロー、ティム・チュー。
カザフスタンという旧ソ連の厳しい国土が育てた、バトルサイボーグとも言えるアリムハヌリに対し、父がロシア出身ながらもオーストラリアで市民権を得て、そこで生まれ育った最強の遺伝子を持つティム・チュー。
チューを主人公にすれば、オーストラリア国民からの期待、父親の残した功績との葛藤、父との確執、それでもなおボクシングという道を選んだティムの決断。。。映画になりそうです。
いつだって、どの階級だって、紐解いていけばボクシングは面白い。
とはいえ、アリムハヌリvsグアルティエリのような、やや盛り上がりに欠けた「ミドル級王座統一戦」を見るのはなかなか寂しいものなので、ぜひともここはティム・チューにミドル級へ行ってもらい、盛り上げて欲しいものです。
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