日本ミニマム級王座決定戦。
前王者、田中教仁(三迫)の世界挑戦により、空位となったこの日本タイトルは、石澤開(M.T)との挑戦者決定戦を勝ち抜いた谷口将隆(ワタナベ)と、ランキング上位の佐宗緋月(T&T)が争うことになりました。
谷口はこれまでに、日本、東洋太平洋王座に挑むも失敗、その後WBOアジアパシフィックのタイトルを獲得後、すぐに世界タイトルへ挑むも失敗。
しかしその総合力は疑うべくもなく、今回は圧倒的な勝利が責務。
対する佐宗は初の日本タイトル戦であり、前戦では引き分けと、下馬評は圧倒的不利は否めません。番狂わせなるか、という一戦。
↓プレビュー記事
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12/3(木)DANGAN
日本ミニマム級王座決定戦
谷口将隆(ワタナベ)15戦12勝(7KO)3敗
vs
佐宗緋月(T&T)20戦12勝(4KO)6敗2分
初回、ともに様子見をしながら落ち着いていた展開でスタート。谷口の方がやや好戦的であり、早々にボディへのストレートでダウンを奪います。
バランスを崩したダウンだったようで、ダメージはなく、立ち上がって続行。しかし初回からこのポイントリードは精神的に大きいですね。
2R早々に谷口の身体を右に傾けての軽い左ストレートがヒット。このラウンドは中間距離から踏み込んだ谷口が、連打を打つ場面もあり、地力の差が早くも明らかになります。
佐宗は独特の動きで谷口を惑わそうと試みますが、中間距離での谷口は冷静そのもの。
3R、佐宗は技術の差を悟ったか、意を決して乱打戦に持ち込もうとしています。ガードを固めてジャブをついて低く入り、右フックをヒットして攻勢に出ます。しかし谷口も多彩なパンチで応戦、美しいストレートにアッパーを織り交ぜ、接近戦でも打ち勝ってみせます。
4R、すぐに八方塞がりになりそうな佐宗、思い切って右フックを振っていきます。しかし単発、というか一発強振したところでバランスを崩してしまい、その後谷口のコンビネーションを当てられてしまいます。
谷口は佐宗に詰められそうになった時、右ジャブをすっと出しますがそれが上手い。上手く攻撃を遮断しています。
5R、落ち着いて強弱をつけて、更に距離を支配して闘う谷口、佐宗はこのままではジリ貧です。谷口はジャブから左ストレート、左ボディ、左アッパーと多彩で、波状攻撃、サイドステップも素晴らしい。完全に佐宗を翻弄しており、あとはこの集中力が最後まで続けば全く危なげはありません。
途中採点は、三者ともに50-44のフルマークで谷口を支持。
6R、後のない佐宗は頭を下げてインファイトに。オーソドックスとサウスポーでは頭が当たりやすく、危険な雰囲気になってきました。
しかし谷口は、佐宗が出てきたところで左ストレートを当て、更に攻めてくればサイドステップでかわす。力みが目立ち、大ぶり気味な佐宗に対し、谷口はコンパクトにコンビネーションをまとめていきます。
7R、クリンチの時間が増えたラウンド。佐宗はやや疲労が伺えますが、谷口はまだ元気。谷口の技ありのカウンター、そしてサイドステップが目を引きます。
佐宗は序盤から結構もらっていますが、タフですね。
8R、谷口は打ってはピボット、打ってはサイドへ周り、コンビネーション。食い下がる佐宗を寄せ付けず、一方的なボクシングを展開。佐宗は足を使う谷口についていけていません。
9R、実力差は明確であり、谷口が佐宗を倒せるかどうか、というところが焦点となってきました。逆に佐宗は最後まで立っていられるか。ハートのない選手であれば、試合を投げてしまうかもしれない展開です。しかし佐宗は諦めず、奇跡を手繰り寄せるために前にでます。
最終ラウンド、倒さなければ勝ち目がない佐宗、最後の特攻。
しかし、谷口も倒しにかかり、コンビネーションをヒットしたところでレフェリーが割って入り、ストップとなりました。
谷口将隆が10RTKO勝利、日本ミニマム級王座を獲得。
前戦に続き、素晴らしいボクシングを展開した谷口。元々アマキャリアも豊富であり、プロのリングでもようやく本来持てる力を発揮し始めた、というところでしょうか。
盟友、京口紘人(ワタナベ)にはまだ遅れをとってはいるものの、この日本タイトル獲得は大きいと思います。
これから防衛戦や、アジアのタイトルを獲得していくことで、より世界挑戦の道は近づいていく事でしょう。
さて、この谷口も非常に素晴らしいボクサーです。
遠い距離でも、中間距離でも、接近戦でも、対戦相手の佐宗を凌駕していた、非常に「総合力」の高い選手でありました。
総合力が高いボクサーというのは、ボクシングIQが高く、スピードがあり、テクニックがあり、パワーパンチャー、もしくは連打を出せるコンビネーションパンチャー。
この手の選手が、今は昔に比べて非常に多くなっている気がします。
昔に比べ、「ファイター」や「ボクサー」というくくりで呼ばれるボクサーは少なくなり、今はそのほとんどが「ボクサーファイター」。
良い、悪いは別にして、突出した武器のない、総合力の高いボクサー。
かつて、ファイティング原田というボクサーに日本中が熱狂したのは、打たれても前進を止めない、「狂った風車」と呼ばれたファイトスタイルによるものでした。
輪島功一を皆が好いたのは、その突出したボクシングIQ、奇策を駆使し、そして何よりも誰よりも熱いハートを持っていたからだと思います。
坂本博之には豪快なパワーがあり、ディフェンスには穴があり、腫れやすい体質でもありましたが、その出生もあいまって人気は非常に高かった。
現在は、何か一つの武器に偏ったボクサーは(特に世界レベルでは)少なくなっているような気がしています。
昔に比べて基本がしっかりしており、4回戦を見ても昔のような(ある種の意味で)おもしろい殴り合いは稀なように思います。
と、最近のハイレベルな試合を見ると思ってしまうのです。
日本ボクシング界のレベルが底上げされていることは間違いのないことではありますが、個性的なボクサーは昔に比べて少なくなったな、と。
非常に贅沢なことかもしれませんが、総合力の高いボクサーではなく、穴があるけど強みがある、個性的なボクサーの登場を楽しみにしています。