いよいよ2020年もあと少し。
ボクシング興行としては12/31のライフタイムボクシング興行を残すのみとなりました。
今年の大晦日は、井岡一翔と田中恒成が激突する世界タイトルマッチの他、セミファイナルには比嘉大吾がストロング小林祐樹に挑戦するWBOアジア・パシフィックタイトル戦。
大注目のこの興行は、関東ローカルで両試合とも生中継。
そして、セミファイナルが映らない地域では、Paraviで生配信。これは本当にありがたいです。
今年、2020年は無観客興行という興行スタイルができ、Youtubeでの生配信を試みたりと新たな取組が行われた年でもありました。
今回観戦記を書く大阪でのCRASH BOXINGの興行は、BOXING RAISEで配信。生配信は通常の後日配信の何倍もコストがかかってしまうようなので、今回は残念ながら生配信ではありませんでしたが、翌日にはアップしてくれるこのRAISEさんは本当に重宝しています。
↓プレビュー記事
という事で、今回は大阪興行、CRASH BOXINGの観戦記です。
12/27(日)大阪 CRASH BOXING
尚、予定されていた日本ユース・スーパーバンタム級タイトルマッチ、下町俊貴(グリーンツダ)vs干場悟(蟹江)の注目の一戦は下町がインフルエンザに罹り、中止に。
減量中はどうしても免疫力も低下してしまうので、注意が必要ですね。インフル、コロナと選手の皆さんは本当に大変ですよね。。。
フェザー級6回戦
前田稔輝(グリーンツダ)5戦全勝(3KO)
vs
大久保海都(寝屋川石田)6戦5勝(2KO)1敗
昨年の全日本フェザー級新人王、前田稔輝。渡辺二郎、尾川堅一といった日本拳法をバックボーンに持つこのボクサーは、非常に距離感に優れ、一発必倒のパンチを持ったサウスポーです。前戦ではワタナベジムの飯見嵐を2Rで倒し、今年2戦目のリングに上がります。
大久保は長身、足も速そうな雰囲気のボクサーです。リズムをキープし、遠い距離から様子見のジャブ。
前田も遠い間合いからジャブを放ち、まず初回は様子見のラウンドか。
前田のワンツーにも素早い反応を見せる大久保、こちらも距離感は良い。
2R、様子見のラウンドを終え、やや距離がつまる両者。ともに先程よりも打ち気に逸っているともいえます。ここで前田の打ち終わりを狙い、大久保の右が浅くヒットする場面もありました。
しかしこのラウンド後半、距離がつまりすぎてクリンチになった両者、離れ際に大久保が右フック、その後右アッパーを放ちます。そこで、右アッパーの打ち終わりに左フックをヒット!
腰から崩れ落ちた大久保に、レフェリーがカウントを数え始めますがすぐにセコンドが試合を棄権。
前田稔輝、2RTKO勝利。
なかなかヒリヒリする好試合になりそうな展開ではありましたが、一瞬の隙をついて前田の素晴らしい左フック。美しいノックアウトでしたね。
前田、強い。そして、倒し方がすごい。
これからも関西ホープ、前田の躍進に目が離せません。
ライトフライ級6回戦
小西伶弥(サンライズ)19戦17勝(7KO)2敗
vs
高山勝成(寝屋川石田)39戦31勝(12KO)8敗
元ミニマム級世界王者、高山がプロの世界にカムバック。相手は世界挑戦経験者、小西。その小西のコロナ陽性反応を受け、延期された一戦はこの興行に組み込まれました。
初回、高山は回りながら前進してくる小西の突進をいなします。その合間、ジャブを中心に左右のボディ、右のオーバーハンドをヒットしつつ、キープリズム。37歳、本当によく動いています。
2Rも高山の動きは速く、大きく動いているように見えますが無駄は少ないです。足で買わせない時はボディワークを駆使、少し頭が低いですが小西は距離を詰めきれません。
そしてリズムをとりながらポンポンと出す高山のパンチに、小西は対応しきれていないような気がします。
3R、小西のパンチは高山になかなか当たりません。高山は少し距離ができればジャブを打ち、相手をしっかりと見て対応しています。小西はもっとボディを打ちたいのと、先回りする追いかけ方をしたいと思うのですが、今のところは完全に高山ペース。
4R、小西はここでガードをかためて前進、強いボディを叩きます。これに高山はある程度応戦しつつ、やはりアウトボックス。高山は接近戦ももともとお手の物ですが、自身の頭の下げ方からバッティングが多いのも悩みだと思うので、こういうアウトボックスができるのであればその方がリスクが少ないですね。
小西は相変わらず高山を攻め込む場面を作れず、かなり分が悪い印象です。
5R、ゴングと同時に前に出る小西。やや強引に詰めていきます。しかし高山はパンチへの反応、素晴らしいですね。顔面へのパンチの多くは空を切り、ボディはしっかりとガード。
小西の方が力強さはありますが、高山の方がクリーンヒットは圧倒的に上。たった6Rしかないこの一戦では、高山の足は最後まで止まらなそうです。
高山は足を使いながらも攻め時を感じるに敏、パンチをまとめる場面もつくります。これまでのキャリアもそうですし、アマ転向したことも活きているような雰囲気のボクシング。
ラストラウンド、初回から変わらず動き続ける高山。37歳の高山にとっては、勝利は至上命題。元世界王者とはいえ、東京オリンピックを目指すために一度はプロを引退し、ただ戻ってくるだけであればやる意味はありません。高山が戻ってきたのは、「世界王者」という明確な目標のためでしょう。
とはいえ、プロとしては大きなブランクのある高山、小西は難敵に思っていましたし、小西にとっては「ロートル」として捉えられる可能性のある高山相手には、明確な勝利がほしかったところでしょう。
しかし、このラストラウンド終盤には高山もしっかりと打ち合って見せ、高山健在をアピール。
高山勝成の6R判定勝利(3-0)
素晴らしい闘いでした、高山勝成。
2000年にプロデビューし、10連勝で2003年に畠山昌人(当時協栄札幌)の持つ日本ライトフライ級王座に挑み、TKO負けを喫してからもう17年以上。昨日の事のように思い出されますね。
そこから本当に波乱万丈のボクシング人生を歩み続ける高山勝成、さすがにこれからは最終章でしょう。
ここまで長く闘い続けられたのは、おそらくディフェンスが良いというのは大きそう。今までさほど高山のディフェンス能力には目がいかなかったのですが、今回はボディワーク、そして随所でスリッピングアウェーと小西のパンチをほとんど見切っていました。
これからライトフライ級で王座を目指すのか、ミニマム級で一つだけ取りこぼしているWBA王座を狙うのか(WBAは暫定王座を獲得)。いずれにしろ、今回の動きは期待できる内容だったと思います。
次戦も楽しみですね。
セミファイナル 53.0kg契約8回戦
奥本貴之(グリーンツダ)36戦23勝(11KO)9敗4分
vs
古谷昭男(六島)12戦8勝(3KO)4敗
元日本王者、奥本は中川健太(三迫)に王座を奪われてからの復帰戦。対する古谷は、前戦で元OPBFフライ級王者の中山佳祐(ワタナベ)を退けランク入り。2戦連続の元王者撃破なるか。
初回、サウスポー奥本はノーガードでカウンターを狙う等余裕を持った立ち上がり。余裕を持ちすぎている風にも見えます。古谷も反応は良いです。
2R、リズムを刻む奥本、どっしりと構える古谷。古谷の踏み込み、真っすぐ伸びる右ストレートは有効です。
3R、距離が近くなり、ややクリンチの場面が増えます。この展開で奥本は左ストレートを起点としたコンビネーションを出す等、チャージ。
4R、このラウンドは古谷がワンツーをヒットすれば奥本がノーモーションの左ストレートをヒットさせる、という一進一退のラウンド。このラウンド終盤、偶然のバッティングで古谷がカット。
この後の展開も古谷の右ストレート、奥本の左ストレートが単発でヒットを奪い合う、両者譲らないラウンドが続きます。
そして8Rも大きく展開は変わらないまでも、両者絶え間なく手を出します。しかし距離が詰まってしまいクリンチの時間も多いです。
最後まで動きの落ちない奥本ですが、その奥本の打ち終わりに見栄えの良いヒットをいくつか奪った古谷。
採点は2-0の判定で古谷昭男。
微妙なラウンドが多かったこの一戦は、どちらが勝ってもおかしくはなかったですね。
古谷は2戦連続アップセットともいえますし、奥本は負けられない星を落としてしまいました。この明暗はくっきりとわかれてしまいました。
奥本はこれで連敗、進退は如何に、という所も考えなければならないかもしれません。
そして古谷は、これでタイトル戦へ大きく前進できましたね。
スーパーフライ級は国内外で盛り上がりを見せています。そこに食い込んでいけるのでしょうか。
↓国内のスーパーフライ級は3冠統一王者が誕生。
↓世界戦線も大盛りあがりです。
メインイベント ウェルター級8回戦
矢田良太(グリーンツダ)26戦20勝(17KO)6敗
vs
出田裕一(三迫)29戦13勝(7KO)15敗1分
元日本ウェルター級王者、矢田の復帰第二戦。対戦相手の出田は、2008年にヨネクラジムからデビュー、2014年に引退も、2018年に三迫ジムへ移籍して復帰。しかし復帰後は5連敗中であり、一度目の引退前にも勝ち星に恵まれなかったため、最新の勝利は2011年2月、もう10年近く前の事。
どう考えても元日本王者の復帰ロードのアンダードッグとして呼ばれた出田は、敵地大阪へ乗り込んで奇跡を起こせるか。
初回、ジリジリとプレスをかける出田。矢田は掛け声とともにパンチを打ちながら応戦しますが、コーナーやロープに詰まりがち。出田のプレスに押されている感じです。
2R、前進する出田に対し、矢田は頭を下げて迎え撃つのでバッティングの危険を感じますね。前戦ではディフェンスを意識していた矢田、今回もそうなのかもしれませんが如何せん動きた良いとはいえません。
出田は突進していく際、矢田に右を合わせられますが愚直に前にでます。
3Rも前進する出田。矢田は要所で良いパンチを当てますが、後ろに下がり過ぎか。矢田がいいパンチを当てたと思えば出田も右アッパーをヒット、矢田の腰が落ちる場面もありました。
矢田の前頭部が赤く染まっています。バッティングでしょうか。
4R、出田のジャブや右アッパーが矢田を襲います。対して矢田のパンチもヒットしますが、出田は打たれ強いですね。ガードもよく、反応もできています。
しつこい程距離を詰める出田をかなり嫌がっている矢田、ロープに詰まるのも見栄えが悪い。
5R、出田は歩くように前進しながら、全く手が止まる気配がありません。すごい根性です。矢田はそんな出田を完全に嫌がり、下がりつつの応戦。出田はハートの部分で既に勝利を手にしていると言っても良いでしょう。
出田のパンチは決して力強くはないですが、とにかく手数が止みません。対する矢田は時折力強いパンチを振るいますが、出田はしっかり見てかわしています。
6R、流れは完全に出田。ファイティング原田戦法ですね。旺盛なスタミナと、決して諦めない心。素晴らしいです。このままのペースで、倒れなければ出田の勝利は揺るがないはずです。
下がりながら、強いパンチを稀に振るう矢田。
ただ、この矢田はフラフラになりながらも数々の倒し倒されの激闘を演じてきたボクサーです。矢田の動きを完全にストップするまで、予断は許されません。
7R、ダメージの大きさ、残っているスタミナ。その両方は、矢田の方がきつそうに見えます。出田はこの日のために人生を掛けてトレーニングしてきたのでしょう。
出田の鳴り止まない手数に、矢田もこのラウンドはここまで以上に手を出し、意地を見せます。それでも止まらない出田、休むラウンドを作ろうともしません。とにかくサンドバッグラッシュをするかのように、上へ下へと手を出し続けます。
8R、矢田はプッシング気味に左を使い、力を込めて右フック、右アッパーを振るって活きますが、モーションが大きくその多くはミスブロー。稀にあるクリーンヒットは、矢田はふらつきながら放ったブローにも関わらず、まだまだ怖さがあります。
出田はここでもど根性をみせ、矢田をコーナーに磔にしてラッシュ。矢田の大きいフックをかわしては自分は2発3発とパンチを繰り出していきます。
そして規定の8Rが終了した後、完全にバテているのは矢田の方でした。
判定は、出田裕一!(2-0)
一人のジャッジがドローとしたのは疑問ですが、とにかく素晴らしい試合でした。矢田の出来は良くなかったのかもしれませんが、それを差し引いても出田のがんばりはものすごかった。
一つの引き分けを挟んで、12連敗を喫した36歳のボクサー。その出田というボクサーが、元日本王者に競り勝ったこの一戦は、本当にドラマを見ているようなものです。
年末のボクシングを除いて、今年最後の最後で非常に良い試合を見せてもらいました。
この映像を見なければ、「元日本王者、矢田が敗北した」という事実だけで終わってしまう一戦を、こうして映像を見れたことで両者の意地、そして特にアンダードッグ、出田のこの試合に掛ける情熱、覚悟、そういったものを知らずに終わってしまっていたわけです。
やっぱりボクシングは最高です。
そしてそのボクシングの味は、選手の事を知れば知るほど、おもしろくなります。
年末、そして2021年のボクシングも大いに期待しておきたいと思います。