ここ1週間ほどのバタバタ劇は、ボクシングファンにとってメンタル面において大きな打撃を与えた、と思います。
寺地拳四朗vs矢吹正道は、拳四朗のコロナ陽性反応により延期。延期の日程は9月中ということですが、まだ正式なアナウンスは流れていません。
これは仕方のないことですし、何より矢吹本人が何の不満も漏らさず、集まるファンを心配する声明をあげていることもあり、周りが色々ということは無粋です。SNSというのは、取材とは違って、このように何気ない一言から本人の人間性が垣間見れることは素晴らしい。その逆に、言葉足らずで勘違いを生むことは恐ろしいものですが。
そしてもう一つ、こっちが大問題でWBC世界スーパーフェザー級王者、オスカル・バルデスのVADA検査陽性の報。
A検体でフェンテルミン(肥満治療の薬のようです)という物質が検出され、B検体でもアウト。本人(陣営?)はハーブティーに入っていたとのエクスキューズをしておりますが、この辺りは不勉強なので控えておきます。
そして9/2(日本時間9/3)、コミッションからもゴーサインが出て、結局この試合は挙行されることとなりました。
このメインが飛ぶと、セミに控える中谷潤人戦も飛んでしまうであろうこの興行はこれをもって何とか成立、よかったのか悪かったのか。
倫理的にいえば当然、良くない。VADAが禁止薬物としてピックアップしているフェンテルミンを使用していた、という事実は、故意であろうがなかろうが、バルデスにとって悪いイメージであり、ひいてはエディ・レイノソに対して更に暗い影を落とす。
そして、メキシカンビーフの時を同じく、「ハーブティーが」で許される前例を作ってしまった、ということにもなります。
ちなみに、WADA(世界アンチ・ドーピング協会)ではこのフェンテルミンはリストに載っていないそうです。ただ、WBCのクリーンプログラムはVADA(ボランタリー・アンチ・ドーピング協会※ボランタリーは自発的な、という意味)を根本においているので、当然違反は違反。試合を行う事はあってはならないことです。
ただ、やはり個人的には中谷潤人vsアンヘル・アコスタという楽しみな一戦が挙行されてくれることが嬉しい、という気持ちが勝ってしまいます。。。感情的には、良かった。
そして結局バルデスvsコンセイサンもしっかりと見てしまうという、どうしようもない私。。。
ということで、今回のブログでは、本当はもっと早くに出そうと思っていたプレビュー記事、9/10(日本時間9/11)のトップランク興行のプレビューです。
(本当は8/31の夜に出そうと思って事前に書いた記事。加筆、修正していますがおかしかったらすみません。)
9/10(日本時間9/11)
WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
オスカル・バルデス(メキシコ)29勝(23KO)無敗
vs
ロブソン・コンセイサン(ブラジル)16勝(8KO)無敗
この興行は、このバルデスがVADAテストで出場できなかった場合、興行自体が中止になる、という危険性をはらんでいました。そのことも、今回コミッションがこの試合を行う、としたことの要因にもなっているのかもしれません。大人の事情です。
今回の一戦は、バルデスの凱旋試合といっても過言ではない試合なのです。
この興行が行われるアリゾナ州ツーソンという場所は、メキシコからの国境ほど近い場所です。チケットは完売、おそらく多くのメキシコ人たちが応援団を組んで乗り込んでくるのでしょう。
そんな人気者、オスカル・バルデス。
とりあえず薬物使用疑惑の件は置いておくと、元WBO世界フェザー級王者であり、前戦で階級最強の呼び声も高かったミゲル・ベルチェルト(メキシコ)をアウトボックスでコントロール、そして最後は残忍な左フックを決めてノックアウト。
自身のハイライトにも数えられる素晴らしい試合で2階級制覇を達したボクサーの、初防衛戦です。
このバルデス、ベルチェルト戦前のスーパーフェザー級でのテストマッチに際し、格下相手にあまり冴えない試合をしていたこともあり、ベルチェルトは厳しいだろう、と個人的には思っていました。(私はベルチェルトを応援していたのもあるかもしれません。)
しかし、試合はバルデスが最高のボクシングを披露、ジャブ、ステップワーク、ボディムーブを駆使してカウンターパンチを浴びせ、これまでのベストバウトを更新した戦いぶり。最後の左フックに至っては、今年のノックアウト・オブ・ザ・イヤーへのノミネートは確定と言って良いほど、素晴らしいものだったと思います。
素晴らしい試合の後、ベルチェルトに駆け寄って膝を突き、目線を同じにして検討をたたえるバルガス。。。何て美しい終わり方だ、と感動を覚えました。(が、、、以下はやめておきます)
さて、対戦相手のロブソン・コンセイサン。
コンセイサンというのはWOWOWの表記に合わせてあります。スペルはConceicao。
北京、ロンドン、リオと3大会連続でオリンピックに出場したアマエリートで、リオオリンピックではライト級で見事金メダルを獲得。ブラジルで初めてのボクシング競技での金メダリスト、とのことで、405勝15敗というとんでもない戦績を持っています。
現在32歳のコンセイサン、プロキャリア17戦目で大きなチャンスを掴みました。
しかし、プロ入り後、まだ強豪との対戦経験はなく、試されていない部分が多いというのも現状です。
2020年10月に行われたルイス・コリア(アメリカ)戦はダウンを奪われての僅差の判定、あわや敗北か、と思われるような一戦でもありました。
今回はバルデスの凱旋試合の色が濃く、バルデスにとって危険と思われないからこそ選ばれた、ともいえますね。
このコンセイサンの良いところは、ハイライトを見る限りでは、チャンスが訪れた時のパンチの回転力、そのアングルとセレクトが素晴らしいところでしょうか。パンチの反応も良く、やはり長く競技をやっているだけに避け方、攻撃の仕方に関してはスキルがあり、自身のボクシングが完成されている、とも感じます。
パンチは強く打つタイプのコンビネーションなので、あれに巻き込まれるとなかなか難儀。ただ、連打の最中はかなりガードがルーズになり、遠心力を使って強いパンチを打ち込んでいるものの、あまり相手に効いていない感じがして、打ち合いにはあまり適さないような気がします。
前戦だけの情報を頼りにするのは良くない、と井岡戦で学んだものの、あのベルチェルトをあの倒し方をしたバルデスの勝利は固いように感じます。
そして、この興行のアンダーカードで、最も注目なのはこちらの試合。
WBO世界フライ級タイトルマッチ
中谷潤人(M.T)21勝(16KO)無敗
vs
アンヘル・アコスタ(プエルトリコ)22勝(21KO)2敗
日本ボクシング界の次代を担う、中谷潤人の初防衛戦にして、アメリカデビュー戦。
中谷の歩んできた道のりは、本当に素晴らしい。新人王からユース王者、そして日本王者を経て世界王者を戴冠。一歩一歩、着実に道のりを歩んできて、そして少しずつ強くなってきたボクサーは、まるで少年漫画の主人公のようです。
↓こちらは世界戴冠前の記事
↓世界戴冠時の記事
初防衛戦だから、とか、アメリカ初戦だから、とかでメンタルが揺らぐボクサーでないことは明白ながら、そうは言っても鬼門と言われる初防衛戦であり、日本国外で戦うこと自体が初めての経験である中谷。
そんな状態で迎える挑戦者が、強豪、アンヘル・アコスタというのはこれまた難しい。
WBOの王座決定戦で戴冠した中谷は、この初防衛戦で選択試合ではなく、指名試合を受けなければなりません。
今回は日本開催が難しく、たまたまアメリカでの一戦になったということで、アメリカから望まれて、またはこちらから望んで行ったわけではありません。
ただ、中谷は中学卒業後、単身渡米してロサンゼルスでルディ・エルナンデスに師事しており、これまでもアメリカの媒体でもプロスペクトとして紹介されていたり、とコアなボクシングファンはこの中谷のことを知ってくれているのではないか、と期待しています。
ちなみに、A-SIGNのYoutubeで伊藤雅雪が言っていましたが、数年間のアメリカ生活にも関わらず、中谷は英語が話せない、とのこと。これはとんでもないメンタルの強さ。普通、言葉が通じないということは相当なストレスを感じることであり、それをなんとかしようと多少なりとも勉強しよう、というのが常。
井上尚弥ですら、「交通機関」や「宿泊時」に困るから、英語を勉強しようとしています。
そのエピソードを聞くと、やはりこの中谷は人智を超えた存在に思えてしまいます。彼もまた、モンスター。
そして初防衛戦の相手、アンヘル・アコスタは、来日経験(田中恒成の王座に挑戦)もあり、日本でもメジャーな元王者。
とてつもない破壊力を持った左右は、22勝中21KOを記録、唯一判定勝利を挙げたのはフライ級を超える113lbs契約ウェイトで戦った(フライ級リミットは112lbs)前戦のみ。
愛称はプエルトリコの英雄、フェリックス・トリニダードと同じ「ティト」。我々世代には本当に特別なニックネームですが、あの思い切りの良い左フック、獰猛な詰め方を見れば個人的には違和感はあまり感じません。
ということで、大好きなボクサーの1人。
しかし、このアコスタ相手に、中谷は下馬評で優位に立ってしまうボクサーです。
長身サウスポーの中谷は、当たり前のように距離を支配することに優れ、大きなボラードのようなパンチも、真っ直ぐのストレートもお手の物。
まずはジャブを突いて、相手の出てくるところに合わせてストレート、ロングフックやロングアッパーで牽制していれば、相手はパンチの当たる距離に入ることさえできないかもしれません。
さらに、近づかれてもアッパーや外側から回すボディフック等、近接戦闘でも全くもって打ち負けない技術と、あの体躯からは想像できない強いフィジカルを持っています。
しかも、あの身長で、あの近い距離で、うまくダッキングやウィービングが使える選手というのも非常に少ない。
もう一つは、接近戦でも使うあのサイドステップ。細かなサイドステップで位置を調整し、自分のパンチが当たるところから素晴らしいアングルをセレクトして、パンチをコネクトする技術。あの距離でのあの冷静さは、今風(?)に言うなら「多分、ボクサー人生2周目」です。
ということで、全く穴が見えない中谷ですが、後は耐久力。
離れて戦えば安全ではありますが、キャリアのあるアコスタも何かしらを仕掛けてくることでしょう。そうなった時に、気の強い中谷は、接近戦を受けて立つということも考えられます。12Rにわたり、アコスタのプレスをかわし続けるという試合はしないでしょう。
これまでも、どんなハードパンチにも臆せず向かって行った中谷ではありますが、効かされた場面がなかったか、というとそうではありません。一番記憶にあるのは矢吹正道戦か。
接近戦となった場合には、多少の被弾は避けられず、そのパンチは22勝中21KOというハードパンチ。
アコスタには、ぜひ中谷のポテンシャルを引き出してもらいたい、と思っています。
アコスタは大好きなボクサーの1人ですが、中谷は超大好きなボクサーの1人です。
この試合で、アメリカにインパクトを残し、今度は「呼ばれる側」でアメリカのリングに立って欲しい、そう思っています。そして、大きな期待を寄せています。
みなさんも、WOWOWで応援しましょう!!
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そしてその他のアンダーカードには、同じくスーパーフェザー級のプロスペクトであるガブリエル・フローレスJr(アメリカ)かと思います。(この試合がセミファイナルのようです。)21歳というこの若きプロスペクトは、これまで20勝(7KO)無敗というレコードを残しています。
前戦では、ベルチェルトvsバルガスのアンダーカードでジェイソン・バエス(プエルトリコ)を倒し切って実力をアピール、その後もそうですがバルデスへの挑戦をアピールしていますので、今回の結果次第では、次の挑戦者となる可能性もあります。
対戦相手はメキシコのルイス・アルベルト・ロペス・バルガス。22勝(12KO)2敗というボクサーで、ナバレッテに挑んだルーベン・ビラ(アメリカ)に負けています。
他にも、ザンダー・ザヤス、レイモンド・ムラタヤといったトップランク所属の注目ホープが次々登場する興行ですが、おそらくWOWOWの放送は中谷潤人から。
この興行はアメリカではESPN+のみで放送なので、きっと他の試合も流してくれるでしょう。(ESPN+の放送は、日本時間9/11のAM6:30からとなっていました。)
もしWOWOWを契約していない、という方がいれば、FITE.TVのPPVで見れます。が、これはAM10:00からなので、WOWOWと同じ、おそらくセミセミの中谷潤人vsアンヘル・アコスタから。
FITE.TVは1.220円です。開始時間については、当日いきなり変更になる可能性もありますし、一応FITE.TVのサイトには全試合書かれているので、どこまで放送になるのかはわかりませんが、いずれにしろ自己責任でお願いします。
FITE.TVのリンクはこちら。違う「Oscar」を買わないように注意してください笑