村田諒太がゲンナディ・ゴロフキンと戦った伝説の日、2022年4月9日。
世界に目を向けてみると、アメリカでも大変興味深い戦いが繰り広げられました。
日本時間では翌日の4/10(日)、ラスベガスで開催されたPBC興行は、Showtimeで放映された3試合全てがスーパーウェルター級戦というSW級フェスティバル。
今回のブログでは、WBC世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦、エリクソン・ルビンvsセバスチャン・フンドラをメインに据えたPBC興行の観戦記です。
↓プレビュー記事
4/9(日本時間4/10)アメリカ・ラスベガス
スーパーウェルター級10回戦
ケビン・サルガド(メキシコ)14勝(9KO)無敗
vs
ブライアント・ペレラ(アメリカ)17勝(14KO)3敗1分
初回、サウスポーのペレラが積極的に仕掛けます。まだ踏み込んで打つ、という感じではないにしろ、フェイントをかけつつプレッシャーを与えていっています。
サルガドはまずは様子見、バックステップも多用して相手のことをしっかりと見ています。
軽やかなステップで体格にまさるペレラのジャブ、ストレートを外し、中盤以降は鋭い踏み込みを見せることも。
2Rも積極的なのはペレラ。ペレラのジャブは非常に長い。このラウンドの中盤以降、サルガドはようやくエンジンが掛かり始めたのか、プレスをかける場面、強い右を放っていく場面が散見されます。
3R、頭を振って、前手を伸ばし、入り込むタイミングを見計らうサルガドですが、ペレラは非常に遠いのでしょう。なかなか効果的な攻撃をヒットすることはできません。
ペレラはサルガドが出てくると下がるので、パンチをもらわないかわりにジャブ以外のパンチを当てることはできません。
4R、展開は変わらず、お互い攻めあぐねています。ほぼリードの打ち合いで、それも距離が遠い。これは、見ている方がキツいという一戦ですね。5Rも展開は変わらず。ほんの少し盛り上がったのは、後半、サルガドの入り際にペレラがアッパーをあわせた瞬間くらいでしょうか。
その後もギリギリ当たらない位の距離でのボクシング。いや、マスボクシング。サルガドはかなりペレラに対してやり辛さを感じているようです。ペレラはこれで平常運転なのでしょうか、これで17勝中14KOというのはある意味すごいことです。
終盤も頭を振って入るタイミングを窺うサルガド、ペレラはジャブを突きながらサルガドの入り際に左ストレートカウンターを狙います。このままの流れでラストラウンドも終了。
すごい試合でした。前日に素晴らしい興行を現地でみた日本のボクシングファンは、この試合を見て何を思うか。必ずしも殴り合いだけがボクシングではないにしろ、この両ボクサーは、リスクを取らずに勝利を手にしようとしました。それは、果たして本当に勝利と言えるのか。
とか思っていたら、判定は、ドローでした。このドローは「敗者がいない」というドローではなく、間違いなく「勝者がいない」ドローです。
スーパーウェルター級10回戦
トニー・ハリソン(アメリカ)28勝(21KO)3敗1分
vs
セルジオ・ガルシア(スペイン)33勝(14KO)1敗
ひとつ前の試合とは違い、初回からグイグイとアグレッシブに前にでるのはセルジオ・ガルシア。失うものがないガルシアは、実績上は格上となるハリソンにどんどんプレスをかけて攻め入ります。
決して器用と言い難いスタイルで、上体はやや立ち気味、入ってくるガルシアにハリソンはカウンターを決めますが、それでも前進するガルシア。
2Rもガードを固めて前進するガルシア。体で押していくガルシアを、ハリソンは少し嫌がっていますね。しかしハリソンのジャブも冴えており、この速く、タイミングの良いジャブを外せないガルシアは、近づく前にいくつももらってしまっています。
3R、ガルシアのしつこいしつこい攻撃で、徐々に闘う距離が近くなってきました。ハリソンがバックステップをしても逃さないガルシア、まるですっぽんのように食いついていきます。
これまで手数こそ出すもののクリーンヒットは少なかったイメージでしたが、このラウンドはガルシアのショートのパンチが届いたという印象。
4R、ハリソンのジャブが冴えます。ガルシアはもう少し低い所から攻めたいですね。上体が高い分、やはりハリソンのジャブが活きてしまいます。ガルシアのアグレッシブなハートは良いが、ハリソンの鋭いジャブで上体をのけぞらされる事しばしば。
5R、直線的すぎる攻めのガルシア、ちょっと無策。ガルシアもジャブから攻め込みますが、こちらのジャブは完全にハリソンに見切られてしまっています。
6R、ちょっと単調な試合になってきてしまいました。ここまではハリソンのジャブが評価されてしかるべきであり、ガルシアは半分を過ぎてもう後がありません。どこかでチャージしなければいけません。
距離をコントロールする術に長けたハリソンはこのラウンドもガルシアの攻撃を距離で外し、自らのジャブをコネクト。ほぼジャブだけですが、クリーンヒットの数が違いすぎて、ポイントをピックアップするのには十分なほど試合をコントロールしているように見えます。
7R、このラウンドはハリソンがロープ際で戦う時間が増えます。ガルシアが上手く追い詰めている、と見るべきか。
逃げるスペースを少なくすれば、ガルシアのパンチも当たりやすくなるかもしれません。ただ、ハリソンはロープの反動を利用したり、細かいコンビネーションを放ったりと細かい技術でガルシアの攻撃をいなし、右ストレートをヒット。
8R、ハリソンがロープに詰まる展開、というよりは、ハリソンはガルシアに攻めさせてカウンターを狙っているようです。ガルシアが攻めやすくするようにロープを背負い、強いパンチを打ち込んでくる事を誘っているように思います。
それほどガルシアのパンチに対する見切りに自信を持っているし、ガルシアのタフネスに手を焼いているとも言えます。
果たしておおよそハリソンの思惑通りに事は運んでいるようです。
9R、なかなかエキサイティングな展開にはなりません。ハリソンは打ち気に逸るガルシアには付き合わず、ガルシアが打ってきたら退き、コンビネーション。ディフェンスに軸を置きつつ、ヒットは奪うというアウェイ&ヒットという戦い方。
ラストラウンドも展開としては変わらず、結局ガルシアは終始空転したというイメージ。もし、ガルシアの攻勢点をとりたいとしても、パンチがあたっていないので難しいでしょう。
最終ラウンドはガルシアもこれまで以上に頑張って攻めますし、ハリソンもやや攻撃的に。
ガルシアはハリソンのジャブを外して攻撃しなければいけませんが、その術を持っていませんでしたね。
判定は、2者がフルマークでハリソン。もう1者は98-92。この一人だけが、どこかでガルシアの攻勢をポイントにしたのでしょう。
ガルシアに大物食いをしてもらいたかったですが、残念。ハリソンにとっては非常にイージーな判定勝利、であればもう一つ、何かしらアピールする部分が欲しかったですね。
WBC世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦
エリクソン・ルビン(アメリカ)24勝(17KO)1敗
vs
セバスチャン・フンドラ(アメリカ)18勝(12KO)無敗1分
ということで、このShowtime放映のPBC興行は、全く会場と視聴者が温まらないままメインイベントを迎える事になってしまいました。
会場は盛り下がっています。たぶん。
このメインの前の2試合は、ちゃんとしたボクシングファンじゃないと見ていられない試合だったのではないでしょうか。かくいう私も、4/9のさいたまスーパーアリーナのテンションそのままで見ると、非常にキツい感じの試合でした。
メインイベントには、期待したいものです。
「ハンマー」ルビンvs「タワーリング・インフェルノ」フンドラ。このニックネームだけで、好試合間違いなし!!だと思いたい。
初回、早々に前手の右フックが交錯。プレスをかけるのはフンドラ、そして出入りのスピードはやはりルビンが速い。
ルビンはボディへのジャブ、ストレートを伸ばし、フンドラのリターンはルビンのスピードについていけていません。フンドラが先手をとって先に攻める時は、良いコンビネーションが出ています。
これは、どちらが自分の得意なボクシングに持っていくか、いわゆるペース争いというものがカギとなりそうです。
2R、ルビンは様子見のラウンドを終えたのか、フンドラに怖さを感じないのか、接近戦を選択。後半にフンドラがアッパーでルビンの顎を跳ね上げると、ルビンも左オーバーハンドで反撃。しかし、残り30秒ほどのところでまたもフンドラがアッパーをヒット!ルビンは腰が落ちるもフンドラにしがみつくことでダウンを回避!
しかし完全に効いてしまったルビン、ズルズルと後退!攻め入るフンドラに、左オーバーをお見舞いすると、今度はフンドラの膝が少し揺れた!?
しかし今度はまたフンドラの左アッパー!!!ルビンはダウン!!
立ち上がったところでラウンドが終了です!!
試合は突然ヒートアップ!何という戦いでしょうか!前の2試合は何だったのか、という突然のヒートアップは心臓に悪い。
フンドラは余裕か、というとそうでもなく、ルビンの左オーバーを浴びています。この次の展開はまだ、読めません。
3R開始早々、試合を決めようとプレスを強めたフンドラ。ルビンはロープにつまりながらもブロッキングをしっかりとして、反撃。
フンドラはアッパーを多用、フンドラのアッパーは非常に有効ですね。
その分、ルビンもフンドラのアッパーを警戒してブロッキング、そこから強いパンチを返します。このラウンド後半になると、ルビンの動きはだいぶ戻ってきたように思います。終盤、強いジャブ(というか右ストレート?)の相打ちでダメージを受けたのはフンドラです!
4R、フンドラは接近戦を仕掛けます。ルビンは下がりながら戦います。
ルビンはやはり、一線級のボクサーとの対戦経験がある分、引き出しの多さ、キャリアに勝る。クリーンヒットはルビンか?
5Rも頭をつけて打ち合う展開が多め。こういう展開となると、体で押されているルビンの見栄えはあまり良くありません。と、思っていたら後半にはルビンが押していく場面もつくり、まさに一進一退の工房と言えます。
6R、頭をつけての打ち合い。我慢比べの展開です。これはフンドラが戦いやすい、ペースを取りやすい流れになってきましたね。
7R、このラウンドでフンドラはチャージ!!アッパーを連打、こんなにもアッパーばかりで攻め入る、というか攻め入る事ができるボクサーはあまりいません。
普通は隙が大きくなってしまうアッパーですが、顔面が遠いフンドラにとってはコンパクトなショートアッパーも十分な武器となり、最適なのでしょう。
フンドラのチャージにルビンはロープに詰まりますが、ガードを固めてロープの反動を使い、何とかカウンターを試みます。そしてロープからエスケープですが、逃さずにしつこく追っていくフンドラ!
フンドラの攻撃の時間が続きますが、後半、ルビンが値千金の大きな右フックをヒット!ぐらついたフンドラに、一気呵成に攻めるルビン!!
まさかまさか、この展開からなんといくつものパンチを当ててダウンを奪取!!!何という爆発力!!立ち上がったフンドラを詰めにいきますが、残り時間は10秒ほどしかなく、取り逃したルビン!
おそらく終わらせるつもりで攻め入ったフンドラは、見事な逆襲に遭いました。驚くべきはルビンの回復力と、爆発力です!
8R、両者ダメージ、疲労があると思われる中でスタート。フンドラは回復したのか?それともやせ我慢か?これまで通り、プレスをかけて攻め込んでいきます。
打ち合いの中でルビンの方がバランスが良く、ふとした時にもやや打ちづらい体制からよくパンチが出ます。逆にフンドラはコンビネーションを打とうとして打っているというイメージ。
フンドラはダメージも相まってややそのパワーに陰りが見えてきたようにもみえます。逆に、ルビンはまだ拳に力があります。
9R、前に出て攻め続けるのはフンドラ、近い距離でのアッパーも非常に有効に見えます。しかしルビンもリターンは非常にキレがあり、見た目も派手。ルビンのこの大きなパンチは怖い。
フンドラの攻めはとにかくしつこく、ルビンを追いかけに追いかけたところでこのラウンドも終了。もう1度や2度、どちらかのダウンシーンもありそうな展開です。
と思ったところで、このラウンド終了後にレフェリーが突然ストップ!
どうしたのでしょうか???
どうやらルビン陣営が棄権を申し出たようですね。会場はブーイング。
セバスチャン・フンドラ、9R終了TKO勝利でWBC世界ウェルター級暫定王者に!!!
フンドラ、やりましたね!「話題先行」というボクサーから、とうとうタイトルを手に入れました。試合後のルビンの顔面を見ると、眉間やおでこのあたりはかなり腫れが目立ちます。そしてもともと打たれ脆さを指摘されるボクサーなので、陣営の棄権の判断は正しかったのかもしれません。
疲れとダメージからか、フンドラは少しパワーが目減りしていっているような印象を受けたので、続けていればともすればルビンの勝利の芽はあったかもしれません。ただ、ルビンもいつの間にかダメージを溜め込んでおり、それをセコンドはしっかりと見ていた、ということなのでしょう。
ルビンのパンチは派手で、フンドラのパンチは地味。ただ、フンドラのパンチはコツコツと芯に効かせるパンチなのかもしれませんね。モーションが小さく、ウェイトも乗っている用に見えないパンチながら、こういうパンチの質を持つボクサーも多いですから。
さて、WBCのスーパーウェルター級暫定王者となったセバスチャン・フンドラ。
今後のスーパーウェルター級戦線がどのようになるのか、も非常に楽しみですし、このフンドラが次戦で誰と戦うのか、非常に興味深いですね。
ともあれ、フンドラは自身の力で「本物」だということを証明したと言えます。今後も非常に楽しみなボクサーです。
↓やっぱり週末最高だったのはこっち