さて、いよいよです。9月14日、サウル・“カネロ”・アルバレスとテレンス・“バド”・クロフォードが拳を交えます。このカードが正式に発表された時、多くのファンと同じように、私の心は期待よりも冷ややかな感情に支配されていました。
まさに「無謀」。ウェルター級のクロフォード(スーパーウェルターでは一戦のみ)が、3階級上となるスーパーミドル級の絶対王者カネロに挑む。ボクシングの体重制という大原則を無視した、ただ話題性だけを追い求めたマネーグラブなのではないか。過去にいくつも見てきた、体重差が招く一方的な結末が目に浮かび、素直に喜ぶことができなかったのです。
しかし、どうでしょう。試合の日が一日、また一日と近づくとともに、冷ややかだった心は、少しずつ温められてきています。
ということで今回のブログは、カネロvsクロフォード、そのプレビュー記事。
9/13(日本時間9/14)アメリカ・ラスベガス
サウル「カネロ」アルバレス(メキシコ)63勝(39KO)2敗2分
vs
テレンス「バド」クロフォード(アメリカ)41勝(31KO)無敗
オッズはカネロ-165、クロフォード+160とかなり競っています。個人的には不思議に思いますが、これはカネロの評価が低いのか、クロフォードの評価が高いのか。
そもそもこの戦いは、今やどうなんでしょう。楽しみにしているファンが多いのか、冷ややかなファンが多いのか。
どちらかというと海外では歓迎され、日本ではまだ一部、納得のいっていない人も多い、という状況なのかもしれません。しかし、決まってしまったものは楽しむ他なく、そしてこれはジャーボンタ・デービスvsジェイク・ポールのようなエンタメファイトとは一線を画すもののはずです。
それでもやはり、否定的な意見が入ってくるのは、事実として階級の壁が間違いなく存在すること。
カネロは、もはや生粋のスーパーミドル級です。ただ体重を合わせただけでなく、この階級で戦うための筋力、骨格、そしてパワーを完全にその肉体に宿しています。対するテレンス・クロフォードは、キャリアのほとんどをライト級からウェルター級という、はるか下の階級で戦ってきた選手。彼がこの一戦のためにどれだけ優れたトレーニングを積んだとしても、一夜にしてスーパーミドル級の”本物”の肉体を手に入れられるわけではありません。リング上で対峙した時、その体格差、圧力、そして一発の重みは、クロフォードが今まで体験したことのない異次元のものであるはずです。
そして、カネロの特筆すべきはその耐久力です。彼はミドル級の怪物ゲンナジー・ゴロフキンとの3度にわたる激闘でも決して怯むことはありませんでしたし、さらに重いライトヘビー級のセルゲイ・コバレフやドミトリー・ビボルのパンチさえも耐え抜いています。P4P最強と謳われるクロフォードのパンチが、果たしてこの絶対王者にダメージを与え、下がらせることができるのか。これは非常に大きな疑問点です。
加えて、このレベルの大舞台における経験値も、カネロに大きなアドバンテージをもたらします。過去10年間、彼の戦いは常にラスベガスの巨大アリーナで行われるメガファイトでした。世界中が注目するプレッシャーの中で戦うことにかけては、彼の右に出る者はいません。
対してクロフォードはその実力に反してファンが多いとはいえず、彼を支えるのは地元オマハのファンたちであり、ビッグマッチと呼べるものの経験はカネロと比べると数段、十数段落ちるものです。
フィジカル、耐久力、経験値。ボクシングの勝敗を決定づけるこれらの要素を冷静に並べれば、クロフォードがこの壁を越える姿を想像するのは、やはり極めて困難だと言わざるを得ません。
クロフォードが歴史を創る可能性
しかし、です。ボクシングは、そんな単純な足し算で勝敗が決まるスポーツではありません。もしそうなら、私たちはこれほどまでに熱狂しないでしょう。純粋なボクサーとしての「スキル」、そこにおいて、クロフォードはカネロを上回っているのは明らかで、これのみがクロフォードが伝説を創る可能性。
クロフォードは、まさに「ボクシングの教科書」です。距離の支配、抜群のタイミング、そして何より、相手に応じて戦術を完璧に遂行するリングIQの高さ。彼はその全てを最高レベルで兼ね備えています。
そして、カネロにとって最も厄介なのが、クロフォードが完璧なスイッチヒッターであるという事実です。カネロはキャリアを通じて、メイウェザーやエリスランディ・ララといった、掴みどころのなく、かつ、フィジカルで圧倒できない技巧派を苦手としてきました。クロフォードは、彼ら以上にシームレスに構えをスイッチし、常に異なる角度とリズムで攻撃を仕掛けることができます。これにより、カネロは最後まで自分の得意な距離とリズムを掴めないまま、空転させられる可能性があります。
忘れてはならないのが、ドミトリー・ビボル戦の存在です。あの試合でビボルは、的確なジャブとフットワーク、そして徹底した距離の支配で、カネロを完封しました。クロフォードは、ビボルが持っていたそれらのツールを、より高いレベルで、しかも両方の構えから繰り出すことができるボクサーです。
さらに、クロフォードにはビボルが持っていなかった「冷徹なまでの勝負勘」があります。彼は相手が少しでも弱れば、一気に試合を終わらせにくる獰猛なフィニッシャーです。もしクロフォードがカネロを効かせる瞬間が訪れたなら、彼は決してその好機を逃さないでしょう。
体格差という絶対的な不利を、史上最高のスキルで覆す。もしそれを成し遂げたなら、それはボクシング史に永遠に刻まれる伝説となります。その歴史的瞬間の目撃者になれるかもしれません。
Key of Victory
結局のところ、両者にとっての勝利へのカギは何か。カネロにとっても「いつも通りのボクシング」で勝てる相手とは限りません。だからこそ、カネロはエニスをスパーリングパートナーに選んだのだと思います。
まず1つ、支配権を争う空中戦。
試合序盤の数ラウンドです。ここでどちらが自分の得意な距離とペースを相手に押し付けられるか。クロフォードとしては、フットワークと長いジャブを駆使して、カネロの強打が届かない遠い距離を支配したいところです。逆にカネロは、初回からガードを固めてじっくりとプレスをかけ、クロフォードをロープ際に追い詰めて、ボディブローを叩き込むきっかけを探しにいきます。この序盤の支配権争いで優位に立った方が、試合全体の主導権を握る可能性が高いのではないでしょうか。
2つめは、クロフォードの耐久力。
この試合の最も直接的なテストポイントです。カネロの左フックを中心としたボディ攻撃は、数多の屈強なミドル級、スーパーミドル級選手のスタミナと心を折ってきました。
増量してきたとはいえ、本来は下の階級であるクロフォードの体が、このえげつないボディブローに耐えられるのか。もしクロフォードがボディを嫌がり始めると、彼の生命線であるフットワークが止まり、カネロの思う壺となります。逆に、このボディ攻撃を捌き、あるいは耐え抜くことができれば、クロフォードの勝機は大きく広がります。
普通に考えれば、クロフォードが12ラウンズもの間、カネロのボディショットに耐えることは難しいと考えます。だからこそカネロ優位が動かない、とするところではありますが、それでもクロフォードならそれを空転させられる可能性もあります。
3つめ、どれほどのストラテジーをもってリングに上がるのか。また、どのように対応するのか。
カネロもクロフォードも、ただ強いだけでなく、極めてリングIQの高いボクサーです。
当然、試合前に用意してきたプランAが、すんなり通じるとは考えていないでしょう。
問題は、戦況が不利になった時、どちらがより早く、より的確に戦術を修正できるかです。これは選手本人だけでなく、カネロ陣営のエディ・レイノソ、クロフォード陣営のブライアン・マッキンタイアという、現代最高峰のトレーナーたちの頭脳戦でもあります。試合中盤、5ラウンドから8ラウンドあたりで両陣営がどのような”プランB”を発動させるのか。そのアジャスト能力の高さこそが、最終的な勝者を決めることになるかもしれません。
この点においてはクロフォードはカネロを上回ると思いますし、最近のカネロは中盤から終盤にかけて雑になる、強引に力任せにいく傾向もあります。もし序盤にクロフォードが抜け出し、カネロが焦るようなことがあれば、そこからの挽回は難しいかもしれません。
そうなるとチャンスが生まれるのはクロフォードの方ですね。
世紀のミスマッチか、伝説の創造か
結局のところ、当初私が抱いていた懸念は、この試合が世紀のミスマッチになるのではないか、という不安です。
テレンス・クロフォードのごときボクシング界にその名を燦然とか輝かせる名ボクサーが、キャリア最終盤でその評価を大きく落とすのか、と。
ここでもし、カネロが圧勝するようなことがあれば、間違いなく「世紀のミスマッチ」と呼ばれるのでしょう。
そしてもしクロフォードがカネロを攻略したならば、この2階級、3階級上の王者に挑むというパターンが今後多少なりとも増えて来る可能性もあり、それはそれでファンとしてはありがたくありません。
どちらに転んでも好ましい結果にはならない今回の試合、であれば、やはり個人的には伝説と呼ばれる一戦を見たい。
ボクシングというものが、もし階級差を取っ払っても成立するのか。それは、テレンス・クロフォードのパフォーマンスにかかっています。ということで私個人としては伝説の証人となることに期待。
ですが、実はこの試合はリアルタイムでも、その日の夜にも見る事はできないと思うので、完全情報遮断(これだけのビッグマッチになるとできるかどうか。。。)して翌日の視聴を楽しみたいと思います。
配信情報
配信は、Netflixです。
広告付きプランなら月額890円だそうで、私もまだ加入していませんが、毎月1度以上ボクシング興行があるならもうデフォルトで入っておいて良いぐらいですね。
↓Netflixはこちら
なお、配信時間は日本時間で9/14(日)10:00から、メインイベントは13:00頃、開始のようです。
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