バンタム級、というと井上尚弥の名前が1番に上がるのは、日本だけでなく世界共通で当たり前となっていることでしょう。
日本人ボクサーが、世界中でここまで認知されているという事実は、これまでの日本ボクシング界にとっては考えられない事です。
日本という極東の島国で長期防衛をしようとも、強敵を下そうとも、なかなか本場のリングに立たずして評価は得られない。しかし、昨今、世界の距離はインターネットを通じて急速に縮まり、海外のコアなボクシングファンが井上を認知したところから、WBSSの開催とその衝撃的なKO劇で一気に評価を高めました。
ファイティング原田、辰吉丈一郎、長谷川穂積、山中慎介。日本が生んだバンタムのスーパースターの系譜を大きく越えてみせたともいえる井上尚弥の活躍は、ひいては日本ボクシング界の発展につながるものだと思っています。
これまで散々語られてきた、バンタム級で井上尚弥に対抗出来うるボクサーについて、今一度見ていきたいと思います。
世界王者
WBAスーパー・IBF王者
井上尚弥 19戦全勝(16KO)
日本の至宝。私のボクシング観戦歴は現在で約25年。これまで見てきた日本人ボクサーの中で、最も基礎技術が高く、スピード、パワー、テクニックに優れ、抜群の安定感を誇ります。
色々なボクサーやボクシングファンが動画等でも投稿しているように、基本的には基礎技術を突き詰めて登り詰めたボクサー、というところも興味を引いてなりません。ライトフライ級、スーパーフライ級時代にはやや安定感に欠ける試合もありましたが、現在はそれも皆無に見えます。
かつて、内山高志や長谷川穂積が無敵だったとき。かつて、ゴロフキンが無敵だったとき。どうやったらこのボクサーは負けるのか?と思っていたボクサーも、やがては落日の時がきます。それは徐々に、なのか、それとも唐突に、なのか。
既に個人的な興味はそこにうつってはいますが、もうしばらくは井上尚弥に夢を見させてもらいたいな、と思います。そして今かかっている「魔法」が解けたあとも、名勝負を演出してくれるボクサーだと思っています。
WBAレギュラー王者
ギレルモ・リゴンドー 21戦20勝(13KO)1敗
井上尚弥の対抗王者として、最も井上に勝利する可能性が高いボクサーといえば、リゴンドー。シドニー五輪、アテネ五輪を連覇したトップオブトップのアマチュア戦歴をひっさげ、プロ転向。
デビューから1年半でWBAスーパーバンタム級暫定王座を獲得し、その後正規王座との統一戦、WBO王者であるノニト・ドネアとの統一戦を経て、2階級上のワシル・ロマチェンコに挑戦して敗北。
そもそもスーパーバンタム級でも体重に余裕のあったリゴンドー、改めて無謀な挑戦でしたね。(天笠戦で来日の折、計量前にかなりの飲み食いをしていたことは有名な話。)
その後復帰し、WBCスーパーバンタム級の挑戦者決定戦でフリオ・セハをインファイトでKO、しかしその後バンタム級へ転向、WBAレギュラー王座の決定戦でリボリオ・ソリスを僅差の判定(内容は完勝に見えました)で退け、2階級制覇。
セハ戦で披露したインファイトは、もしかしたらリゴンドーのファイトがエキサイティングではない、という評へのカウンターだったのかもしれませんが、セハに押し負ける場面も目立ちました。ソリス戦では、当初は近距離での打ち合いをしましたが、おそらくパワー敗けすると感じたリゴンドーはすぐさまいつものボクシングへ。ブーイングが起きる中、しっかりと完勝していました。
接近戦での巧さも勿論ありますが、体格が小さい分押されると弱く、打たれ強くもありません。リゴンドーらしいボクシングをしてもらえれば、とは思いますが、アメリカでは人気がなければ試合を組んでくれないのが痛いところですね。
井上尚弥がリゴンドーがボクシングに徹した場合、崩せるかどうか、というのが一つの見所です。
WBC王者
ノルディ・ウーバーリ 17戦全勝(12KO)
今や伝説となった2019.11.7の「ドラマ・イン・サイタマ」でのセミファイナル。ウーバーリというボクサーはあまり知りませんでしたが、屈強な身体からコツコツとパンチを繰り出す好ボクサーでした。
スピード、パワーはそこまで感じませんが、確かな技術と強靭なフィジカルを持っている選手に思えます。
とにかく手数が多いので、そこに巻き込まれるとなかなか厄介。ルーシー・ウォーレンに勝利したのも決してフロックではないですし、安定感のある王者でもあります。
割りと完成されたボクシングに感じますので、これ以上の上積みは望めないでしょう。このWBCタイトルにはノニト・ドネアが挑戦する見込みです。ドネアに勝ってほしいですが、なかなか厄介な王者です。
最近のドネアは被弾も多く、ウーバーリは1発当てれば連打が出てくるので、ドネア得意のカウンターも取りづらい。ドネアにとっては井上戦と同等のコンディションをつくれるかが鍵となりそうです。
WBO王者
ジョンリエル・カシメロ 33戦29勝(20KO)4敗
井上尚弥の次戦の相手として最右翼にいるカシメロ。本来であれば4/25にラスベガスでモンスターをお披露目という予定でしたが、コロナ禍により延期に。
ゾラニ・テテを3RKOしてバンタム級王座についた、3階級制覇王者。このフィリピーノは、ガードが甘く、パンチが大振り。一見して穴が多い王者に思えます。
そのガードが甘いところが井上絶対有利の声が大半を占める要因でもあると思いますし、私もそう思いますが、ただ早い回のカシメロは相当危険というのもまた事実。
早い回にカシメロの大振りを間違ってももらってしまえば、井上危うしの展開も考えられます。後半に入ってしまえば、井上の集中力が切れない事も実証済みですので、問題ないでしょうが、前半、特に5Rくらいまでがこの勝負のポイントの別れ道になりそうです。
一つ、忘れていけないのは、日本人ボクサーが格下のフィリピン人ボクサーに番狂わせで負ける事は、既に「よくある事」。井上尚弥に限ってそれはない、とは思いますが、集中して臨んでもらいたいですね。
ここに来て日本開催の可能性も出てきた井上vsカシメロ戦。楽しみです!
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まだまだ元気な元王者たち
ゾラニ・テテ 32戦28勝(20KO)4敗
前WBO王者のテテ。前評判としては、井上尚弥打倒の筆頭という立ち位置でしたが、WBSSのトーナメントは途中棄権。その後の防衛戦でカシメロにTKO敗け。
長身サウスポーというもう文字だけでやりにくいと思わせるボクサーで、どんなボクサーにも脅威となりうる存在ではあります。反面、打たれ脆く、カシメロとの相性は良くなかったかもしれません。
ミーシャ・アロイヤン、オマール・ナルバエス戦のような凡戦もありますが、シボニソ・ゴニャ戦やポール・バトラー戦のようなワンパンチKOもある、試合内容があまり読めない選手でもあります。
カシメロに負けた事で井上戦は大きく遠のき、道のりは険しいですが、今だに実力のある元王者です。
ノニト・ドネア 46戦40勝(26KO)6敗
5階級制覇という偉業を成し遂げたレジェンド。既に衰えは隠せないところまで来てはいますが、元々の実力が飛び抜けていたがために、まだまだトップどころと良い勝負ができるという素晴らしいボクサーです。
在りし日のドネアはもう戻っては来ませんが、井上戦で大きく株を上げたドネアが、ここからどんな存在になっていくのか。
井上戦の切符をつかむための門番のようなボクサーになるのか、それとももう一度タイトルを獲得して井上戦を成し遂げるのか。もう一度闘えば、今度はKOされる可能性の方が高くなってしまうでしょう。
しかし、ここまでの10年、パッキャオに続くアジアの英雄として我々ボクシングファンを唸らせ続けてきてくれたドネア、どんな晩年になっても応援の気持ちは変わりません。
もう一花、咲かせてくれる事に期待です。
ネクスト王者を狙うコンテンダー
レイマート・ガバリョ 23戦全勝(20KO)
バンタム級にして、KO率85%以上という強打者、ガバリョ。非常にエキサイティングな試合運びで、ワンツーを主体としてみずから攻めに攻めます。
スピードよりもパワー重視、ですが、時折見せる右スイングはスピードも抜群。ボディ打ちも左、右、それぞれ強烈。そして、フィリピン人らしく一発一発のパンチを思い切り打つ、相手にとっては怖さのある選手だと思います。
今年の8月でまだ24歳、伸びしろも充分なので、非常に脅威の存在でもあります。
ジェイソン・モロニー 22戦21勝(18KO)1敗
ジョシュア・フランコ 20戦17勝(8KO)1敗2分
先日のトップランク興行に登場した、ジェイソン・モロニーとジョシュア・フランコ。モロニーは順当に勝ち、フランコはジェイソン・モロニーの兄弟、アンドリュー・モロニーを番狂わせで下し、トップ戦線に浮上。ただし、1階級下のスーパーフライ級です。
ジェイソン・モロニーは見るからにアマチュアあがりの基本に忠実なボクサーで、エマニュエル・ロドリゲスといい勝負をした技巧派ですが、アンドリューよりもパワーがありそう。
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マイケル・ダスマリナス 33戦30勝(20KO)2敗1分
IBFの指名挑戦者であるダスマリナス。井上尚弥への指名挑戦権を持ちながらも、カシメロに先を越されてしまったので、今は待機状態。
まとまった選手ではありますが、スパーリングパートナーとしての来日経験も多く、底の知れたボクサーでもありますので、「井上尚弥にとっては」あまり怖さはないでしょう。
ただ、IBFの挑戦権をしっかり勝ちきっているので、世界のトップ戦線にいることは間違いありません。ただ、いつまで待たされるか。。。
日本人ボクサーたち
井上拓真 14戦13勝(3KO)1敗
なんとかもう一皮剥けてほしい、井上尚弥の実弟。パワーレス、と指摘されますが、パワーがないわけではないと思います。
兄と違うのは、タイミング、インテリジェンス、そしてハート。
そこが相手ボクサーの付け入る隙になっているのではないでしょうか。
ウーバーリ戦、惜しかったですがもっとできたはず。12Rのような闘い方をもっともっと早い段階から始めていれば、きっと結果は変わっていたはず。
見ている方もどうしても兄と比べてしまうので、見ていて歯がゆいボクサーの1人です。
比嘉大吾 17戦16勝(16KO)1敗
いよいよ所属ジムが決定。
野木トレーナーとのコンビも正式復活、これからについては期待しかありません。比嘉大吾がバンタムで通用するのか?という意見もあるのでしょうが、それを通用するようにしてくれるのが野木マジック。
元々骨格的にフライ級に無理がありましたが、バンタムでの再起は非常に勇気のいる決断だったでしょう。
ここからあと半年のうちに2試合、というのはなかなか難しいかもしれませんが、来年中にはどうにかチャンスを掴んでほしい、最も応援している日本人ボクサーの1人です。
日本人地域王者たち
バンタムという階級は、日本王者、そしてこのアジア圏の地域王者たちにも非常にチャンスの多い階級でもあります。
OPBF東洋太平洋王者
栗原慶太 20戦15勝(13KO)5敗
成長著しい、OPBF王者。このボクサーこそ、努力(肉体だけでなく、インテリジェンスも)で才能を凌駕できると信じさせてくれるボクサーです。
IBFでの世界ランクを持っていますが、IBFの王者は井上尚弥なので、他の王座よりも挑戦自体が困難。今年から来年にかけては、地力を養う事に注視してもらい、再来年以降に大きく羽ばたいてほしいですね。
WBOアジア・パシフィック王者
ストロング小林祐樹 24戦16勝(9KO)8敗
そんな栗原に敗北しながらも、その敗戦から約半年後、WBOアジアタイトルを獲得したストロング小林。
下位ながらいくつかの世界ランクには入っていますが、まだこれから証明していかなければいけないことも多いでしょう。
日本王者
鈴木悠介 14戦11勝(7KO)3敗
前戦で齋藤裕太から日本タイトルを奪取した鈴木悠介。2017年に挑戦者決定戦を勝ち、翌2018年のチャンピオン・カーニバルで挑戦予定も時の王者、赤穂が減量失敗による棄権で流れ、その後も何度もタイトルマッチが流れるという不運。
日本バンタム級のこの間、呪われたバンタムと呼ばれましたが、いよいよ日本のバンタム級にも動きがありそうです。
日本バンタム級には、井上尚弥も認めるユース王者の石井渡士也、指名挑戦者の澤田京介、大嶋剣心、定常育郎、中嶋一輝等々、名のあるボクサーが揃っています。
日本のバンタム級の潰し合い、のし上がり合いも非常に楽しみですね。
今後のバンタム級について
結局、次に井上が闘う相手は誰か、ということが世界的な話題で上がり、井上尚弥を中心としたバンタム級であることは間違いありません。
そして、井上尚弥がいる限り日本人にとっても注目の階級であり続けるでしょう。あとはどこまでバンタム級に留まり、そこに比嘉大吾をはじめ他のボクサーたちが間に合うのか、というのが一つの焦点です。
しかし、井上にとっては日本人ボクサーと闘うメリットは少なく、海外の強豪とのマッチメイクが主となってくるでしょう。
井上がバンタム級の強豪たちを一掃したあと、誰がどの位置にいるのか、というのでまた楽しみが発見できると思いますので、今後の流れにも大注目です。