畑山隆則のキャリアを振り返っているブログです。(第2回)
拳狼、畑山隆則。現役時代、「拳狼」というニックネームで呼ばれていた記憶はありませんが、パンフレット等には狼のモチーフが入れられた事は多かったですね。この狼は、畑山のイメージにぴったりだったな、と思います。
あえて距離をとる事もありますが、基本的には攻撃偏重ともいえるボクシング。その攻撃はスピーディーで、サイドへの自由自在のステップからコンビネーションを繰り出します。
引退後に発売された自伝。副題に「拳狼は死なず」という文言があります。
畑山は、まさに血に飢えた狼のようなボクシングをするボクサーでした。
両腕を折りたたみ、時にそのガードで相手を押し、自らの距離まで詰めて繰り出すコンビネーションはキレ、スピード充分で、何より気持ちの強さを感じさせます。
↓以前のブログでも書きましたが、
柳和龍トレーナーのもと、当時日本を席巻していたコリアンスタイルを彼なりに昇華させたスタイル。ただただ馬力で押すわけではなく、俊敏性を伴って、多角的な攻撃を仕掛ける事が畑山の持ち味。
そしてその左フックはカウンターとなって幾人をマットに沈めてきましたし、至近距離での冷静さを併せ持つ畑山は、左右のアッパーを的確にヒットさせます。
改めて映像を見ると、自分の持ち味がよくわかった頭のいいボクサーだな、と思います。
闘い方においても、そしてセルフプロデュースという面においても。
さて、そんな畑山隆則は、1997年10月5日、WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチで王者、崔龍洙(韓国)と三者三様の引き分けで戴冠ならず。(当時の表記はジュニアライト級ですが、現在の表記に統一。)
世界王者に肉薄した畑山は、次戦でなんとコウジ有沢(草加有沢)の持つ日本スーパーフェザー級王座へ挑戦することになりました。
日本スーパーフェザー級王者、コウジ有沢
コウジ有沢は父、茂則が会長を務める草加有沢ジムからプロデビュー、日本タイトルを獲得して5連続KO防衛。そしてこの試合まで18戦全勝(15KO)という驚異的な戦績を持ち、日本タイトル獲得戦を含めて12連続KO中のスターボクサーでした。
今でいうイケメン、そしてハードパンチャー。更に、スロースターターなところがあり、序盤にポイントをとられたり、ダウンをとられたりとピンチに陥る事も多く、そこからの逆転KO勝利で常に観客を沸かすような、非常に試合がおもしろいボクサー。
畑山が調整試合をはさまず、世界タイトル獲得失敗後の復帰戦でコウジ有沢に挑戦する、というのは、畑山にとってモチベーションがいかに重要か、というのが見て取れます。
史上最大の日本タイトルマッチ
1998年3月29日、「史上最大の日本タイトルマッチ」と銘打たれた試合のゴング。
ちなみに両者のファイトマネーは500万円ずつ、更に勝者には500万円の上積みと、副賞としてパジェロが贈られるという破格の待遇。場所は両国国技館、全国ネットでの生中継と、まさに史上最大規模の日本タイトルマッチでした。
「足を使うかもしれない」という畑山に対する予想とは裏腹に、1R開始ゴングと同時に前にでる畑山。そして多角的な攻撃で、コウジを苦しめます。
コウジはできればストレートの距離で闘い、得意の右ストレートを当てたい。
畑山はコウジの右ストレートを警戒し、左のガードをいつも以上に折りたたんだ上で、ぴったりと顔にくっつけています。そして前に出て、フックの至近距離での闘いを選択。
スロースターターのコウジは序盤、やはり動きが若干固く、1、2Rは畑山のラウンド。しかしコウジの右も3Rにはヒット、コウジの右ストレートで沸き返る観衆。
4R、開始早々に右の相打ちで畑山が少し効いたようにも見えました。しかし、その後畑山は左フック、アッパーをヒットし、ラッシュもしかけます。
ゴングがなると同時に両者ともリング中央へ駆け出し、打ち合います。畑山は自分に気合を入れるためなのか、両手のグローブをパンパンと合わせてから攻めるのですが、この仕草が好きだったな、と思い出します。
6Rは畑山がこれまでと若干変え、足を使って大きく動きます。パンチをまとめる場面もしっかりつくるところはさすが。この試合通じてではありますが、足を止めた打ち合いでは、コウジの右ボディーがヒット。
7R、8Rはまたも足を止めての打ち合い。大きな大きな声援がふたりを後押しし、ともにパワーパンチを叩き込む展開になっていきます。
そして迎えた9R、畑山の左ボディーが効いたコウジに追撃のコンビネーション、右オーバーハンドでコウジがダウン。立ち上がったコウジに畑山がラッシュを仕掛け、ロープに詰まったところでレフェリーがストップ!
ここに、大激戦となった史上最大の日本タイトルマッチは、終焉を迎えました。
↓もしまだ観ていない方がいたらどうぞ
1998年9月5日 WBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ
コウジ有沢との対決を制した畑山は、前戦引き分けに終わった崔龍洙との再戦に臨みます。
王者、崔龍洙(韓国)は8度目の防衛戦。
前戦で12Rを闘い抜き、互いに手の内がわかった状態での再戦というのは非常にやりにくい。しかも前回が三者三様のドロー、両者の実力は拮抗しており、この約1年の間にどれだけ積み上げられたのか、そして戦略が勝負の分かれ目となります。
この再戦も、前戦同様に激しい打撃戦を12R、続ける事になります。畑山の作戦としては、ヒットアンドアウェー、柳和龍トレーナーの指示も聞こえてくるのは「足使え」「打ったら離れろ」です。
しかし、畑山は崔にパンチを当てられると、負けじと打ち返します。彼は基本的に非常に冷静で、カッとなって打ち返している訳ではないと思うのですが、ここで引いたら負け、という感覚なのかもしれません。
第一戦と違うのは、序盤、崔がハイペースに攻めてきたこと。前戦、前半3Rは畑山が連取していました。しかし今戦は崔が連取。
畑山は前戦で後半、崔に追い上げられたので、終盤までしっかりスタミナを持たせ、追い上げられるような準備、スタミナ配分をしたのでしょう。
逆に崔は、前戦序盤を畑山に取られており、ドローだったので、勝つためにはそこを獲るしかないという考えだったのかもしれません。
いずれにしろ、今となってはこの序盤3Rが勝負の分かれ目となったともいえます。
基本的には至近距離を得意にしているという点においては、両者は非常に噛み合います。やはり馬力、フィジカルでは崔が上。スピード、出入りやサイドにまわれるという器用さでは畑山が上。その構図は全く変わっていません。
畑山はもっともっとサイドにまわって攻撃できれば、もしかするともっと楽に闘えたのかもしれませんね。
しかしこの試合、改めて見直しても拳に力がこもってしまいます。これだけの打撃戦でダウンシーンもなく、最後の最後までどっちが勝っているかわからない大激戦。
最後の3R、前回崔に追い上げられたラウンドでは、畑山が意地を見せて全ラウンドのポイントをゲットします。11Rに崔がローブローで減点を課されたことも精神的には大きかったかもしれません。何よりも、序盤からハイペースで飛ばした崔が、前回よりも若干失速したということが大きかったと思います。
かくして、2-0の判定で畑山はWBA世界スーパーフェザー級王者となりました。
↓画質はよくないですが、再戦のYoutube。
世界タイトルの初戴冠というのは、いつの時代も特別なものです。ここまで7度の防衛を成し遂げた崔龍洙(そのうち日本人の挑戦を退けること4度)を破り、見事初戴冠を果たしたニューヒーロー、畑山隆則。
激闘を物語るかのように腫れあがった顔からは涙が溢れ、応援してくれた人たち、支えてくれた人たちへの感謝の思いが何度も何度も口にされました。
世界王者と引き分けた後、日本タイトルマッチでライバルを倒し、再び挑んだタイトルマッチで見事戴冠。既にドラマ性は充分ですが、これから更に畑山の物語は劇的になっていくのです。
当時からボクシングを観ている私は、その物語に当然のように引き込まれていきました。ということで今回はここまで、また次回。
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