2020年は、コロナの影響が大きく、新たに生まれた世界王者は中谷潤人(M.T)のみ。
2021年も引き続きコロナに翻弄されつつも、日本人同士の一戦で2021年9月に矢吹正道(緑)が世界初戴冠。そして国内に王者を呼び寄せることに成功した谷口将隆(ワタナベ)が殊勲の勝利を挙げ、世界タイトルを手にしています。
そして、階級的にも国内での挑戦が厳しいと思われた尾川堅一(帝拳)は日本人として初めてMSGで世界を奪取。
歓喜の世界王座獲得、尾川堅一インタビュー「これで俺がチャンピオンと本当に言える」 | Boxing News(ボクシングニュース)より
なかなか世界タイトルの機会が回ってこないこのコロナ禍において、3人の日本人ボクサーの世界奪取は素晴らしいと思います。
そして2022年、今年もコロナに翻弄されてしまう1年かもしれません。
欧米諸国では、コロナの脅威もありながらも、日常を取り戻すために積極的に経済活動を行なっているようにも見えますが、日本は完全停止。今年も外国人ボクサーを日本に呼ぶ、ということは困難を極める状況でしょう。
そんな中でも、2022年、新王者誕生は0人でした、ということにはならないでもらいたいですね。「世界タイトル防衛」は当然偉業で、難しいものですが、「世界チャンピオン誕生」はそれよりも感情を揺さぶられる出来事です。
どうにか今年も、その歓喜の瞬間を見たい。
ということで、コロナという困難の中に生きるプロボクサーたちの中で、2022年、世界初戴冠を成し遂げてくれる期待を私が抱いている、そんなボクサーをピックアップしていきます。
ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)
16勝(11KO)2敗1分の戦績を誇る、現日本フライ級王者。WBAを除く3団体でランクインしているユーリ阿久井が、個人的には2022年で最も「世界」を期待しているボクサーです。
11KO中の9つが初回KO、と聞くと完全な速攻型パンチャー、というイメージとなるかもしれません。
確かにここ数年までは、スタミナや戦略面等、証明されていなかったことも多かった印象。
ただ、2019年10月、日本フライ級王座決定戦を初回KOで決めた後、2度の防衛戦で証明できたことが非常に大きなことだと思います。
初防衛戦は2020年10月、藤北誠也(三迫)を相手に初の判定勝利。ほぼフルマークに近いボクシングを披露した中で目立ったのは、ガッチリとしたファイティングポーズを基盤とした体の強さと、そこから放たれる真っ直ぐで力強いジャブ。そして、10Rを戦い抜いてもペースが落ちない、スタミナ。
2度目の防衛戦は2021年7月。大橋ジムのホープ、桑原拓を迎え、ユーリ危うしの声も多かったのかもしれません。おそらく戦前の予想はKOで阿久井、判定で桑原。
敵地となる後楽園ホールで行われたこの一戦は、初回からダウンを奪ったユーリ阿久井がジリジリとプレスをかけ、桑原はスピードスターの名の通り速さで対抗。
この桑原のスピードに慌てず、自らのリズムを貫いたユーリ阿久井は、最終ラウンド、残り10秒ほどのところで右ストレートを決め、TKO勝利。
年間最高試合候補、ユーリ阿久井政悟vs桑原拓!7/21フェニックスバトル現地観戦記! - 信太のボクシングカフェ
相手の土俵で勝負せず、自らの力を最大限に発揮できる戦い方を身につけたユーリ阿久井は、ボクサーとしての冷静さ、対戦相手に対しての分析力や対応力を見せてくれました。
次戦は2/27(日)、ユーリ阿久井の地元岡山で、元日本王者で現在のトップコンテンダー、粉川拓也(角海老宝石)を迎えます。
これは阿久井に限ったことではありませんが、素晴らしいパフォーマンスを披露した次戦は、力みすぎたり良いイメージが残りすぎたり、仕上がりに若干不安な部分もあります。
おそらく粉川からするとラストチャンス、相当な覚悟を持って臨んでくるだろうことも容易に想像できます。
それでも、ここは圧勝でこの試合を乗り切り、その後の上へのステップへと繋げてもらいたいですね。
では、このユーリ阿久井はどの王座に挑めそうか?
WBAはアルテム・ダラキアン(ウクライナ)。
WBCはフリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)。
IBFはサニー・エドワーズ(イギリス)。
WBOは中谷潤人(M.T)。
錚々たる顔ぶれです。中谷潤人との再戦については、ユーリ阿久井はこれまで言葉を濁しているので、あまりなさそうです。あと、個人的にもあまりここで潰しあって欲しくはありません。
WBAのランクに入っていないため、ダラキアンへの挑戦もハードルが高いか。ダラキアンは非常に強い王者で、きっと誰もやりたがらないでしょうから、もしかしたらオファーが来る、ということもあり得るのかもしれません。
とにかくダラキアンは巧く、強い。フライ級最強は、中谷かダラキアンだと思っているので、もしユーリ阿久井がダラキアンを倒せば、自ずと中谷vs阿久井の再戦の機運が高まるのかもしれません。
フリオ・セサール・マルティネスとは噛み合うでしょう。アグレッシブなファイターであるマルティネスと、剛腕のパンチャーである阿久井。
距離は阿久井の方がやや遠く、手数や回転力はマルティネス、といった印象です。
阿久井はものすごいタフネスを持っている、というわけではないので、もしかするとマルティネスの嵐のような手数に飲み込まれてしまうかもしれません。
しかし、マルティネスの強打に阿久井のブロッキングが通用しさえすれば、既に阿久井のパンチも当たる距離、右で倒し切ってしまう展開も大いに考えられます。
いずれにしろ、初回から目が離せない展開、非常に噛み合う好試合となりそうです。
サニー・エドワーズは、マルティネスとは真逆、生粋のアウトボクサーと言って良いボクサー。さながら闘牛士のようにリングを飛び、とにかくカウンター。
塩、というかこれはもう塩化ナトリウム。食卓塩どころの騒ぎではありません。その覚悟たるや素晴らしいものがあります。
これは明快、阿久井は追い続けなければなりません。どっしりとした構えからエドワーズの行き先を塞ぎ、少々のカウンターは気にせずに倒し切らなければ、はぐらかされ、逃げられ、敵地での判定勝ちは困難でしょう。(かといってエドワーズが日本に来るか、というと来ないでしょう。)これはこれで面白い一戦となりそうです。
しかし、このエドワーズは統一戦を画策しており、マルティネスに対して統一戦をアピール。
マルティネスもこれを受けてたつ構えであり、さらには両者ともにマッチルームがサポートしている間柄、その障壁は非常に少なく見えます。
3月か4月、ということでの対戦希望ということなので、2月末に阿久井が無事に勝てば、その次に、ということであればタイミングは完璧。
そうそう上手く行くことはないのでしょうが、年内の挑戦を期待したいものです。
清水聡(大橋)
10勝(9KO)1敗の戦績を持つ、現OPBF東洋太平洋フェザー級王者。
150勝20敗(自己申告、だそうです)という破格のアマキャリアを持ち、2008年の北京五輪、2012年のロンドン五輪に連続出場。ロンドン五輪では、ボクシング競技では実に44年ぶりというメダルを日本にもたらしてくれました。
そこからプロデビューまでは約4年に渡る月日を挟むことになります。これはブランクと言っても良いのでしょうが、当時AIBA(現在はIBA)が行っていたプロ競技(知らない方にとっては意味不明でしょうが、説明は省きます)と契約しましたが試合に出られず、さらには試合に出られないことでAIBAから1年のサスペンド。
その処分明け、リオ五輪の地区予選に向けた選考会で成松大介に敗北、これをきっかけとしてプロ転向を決意しました。
2019年、2020年に続いて2021年も1試合のみ、という試合間隔は気になるものの、2021年はWBOアジア・パシフィック王者、森武蔵との統一戦を制し、日本、アジア最強を証明。
清水聡vs森武蔵!竹迫司登vs国本陸!フェニックスバトルとダイナミックグローブの観戦記! - 信太のボクシングカフェ
あとは世界挑戦を待つのみ、という段階に来ていると思います。
一時はWBO王者エマニュエル・ナバレッテ(メキシコ)への挑戦が取り沙汰されましたが消滅。それでもWBOランキングは自身の中で最上位(12月発表のランキングで6位)につけているので、ナバレッテ挑戦を期待したい。
このナバレッテvs清水は長身のパンチャー同士、きっと噛み合う試合展開になると思います。どちらも独特なリズムを持ち、ナバレッテの遠くから飛んでくる意味不明なアッパー、清水のこづくようなフォームなのに謎で強いダイヤモンドレフト。一般的なボクサーたちから全く参考にならなそうな人外のボクサー同士の対戦は、興味をそそります。
その他の王者を見てみると、WBAはスーパー王者に次戦で復帰を控えるレオ・サンタ・クルス(メキシコ)、レギュラー王者にはマイケル・コンラン(イギリス)との対戦を控えるリー・ウッド(イギリス)。
サンタ・クルスの動向は今後どうなるかわかりませんが、ウッドvsコンランでコンランが勝利すれば、マイケル・コンランvs清水聡はロンドン五輪銅メダリスト対決として非常に興味深いものではないでしょうか。(コンランはフライ級、清水はバンタム級)
WBC王者はゲイリー・ラッセルJr(アメリカ)、次戦ではマーク・マグサヨ(フィリピン)との一戦が決まっています。ラッセルJr優位は動きませんが、パワフルなマグサヨにもチャンスは大いにあると踏んでいますし、個人的にはマグサヨに期待したい。
そして、タイトルがフィリピン人の手に渡れば、ともすれば清水としては挑戦しやすくなるかもしれません。
そしてIBF王者はキコ・マルティネス(スペイン)。2021年、アップセットで王座返り咲きを果たしたマルティネスは、次戦で元王者のジョシュ・ウォーリントン(イギリス)を迎える予定です。
ウォーリントンはマウリシオ・ララ(メキシコ)にアップセットを許し、再戦は負傷引き分け。なぜララよりも先に挑戦できるのかが謎すぎるので、不利予想となるのでしょうがマルティネスのサバイブに期待したい。
キコ・マルティネス相手であれば、おそらく清水はかなり良い勝負ができると思います。
いずれにしろ、今年挑戦が叶って欲しいのはこの清水聡、そして先に挙げたユーリ阿久井政悟。
ちなみにここまで書いて気が付きましたが、ともに岡山県の出身。阿久井が倉敷市、清水が惣社市ですね。たまたまですが、岡山からふたりの世界王者が誕生、となると生まれが隣県(香川県)である私も非常に嬉しい。
岡山県といえば和氣慎吾(FLARE山上)にも期待したいですが、とりあえず世界云々はまだ語れないでしょう。本人も地域王座からやり直したい、ということを自身のYoutubeで言っていたので、また這い上がってくれる事を期待したいものです。
井上拓真(大橋)
2021年は栗原慶太(一力)、和氣慎吾を撃破、やはり日本人ボクサーではこの井上を攻略することは難しい、そう思わせた拓真。これまでに手に入れた世界王座はWBCの暫定のみであり、是非今年、正規の王者となって欲しいので名前を挙げておきます。
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バンタム、スーパーバンタムを両睨みとのことですが、おそらくベストはまだバンタム。
混迷を極めているスーパーバンタム級の世界戦線に食い込むにはおそらくまだ時間がかかると思うので、おそらく拓真が狙うのは井上尚弥後のバンタム級王座だと思います。
これには、兄・尚弥の動向と、バンタム級戦線の動向、引いては日本政府次第、というところもあるので何とも言えません。
ただ、一つだけ確かな事は、井上拓真はウバーリ戦後、確実に向上しているということです。
最も望むべき展開は、井上が5月頃にドネアと、8月か9月頃にカシメロまたはその時のWBO王者と雌雄を決し、4団体を統一。
その後、12月にスーパーバンタム級初戦を行うためにタイトルを返上、そのうちのいずれかのタイトルを巡って同じく12月に井上拓真が決定戦に出場。
これが最も陣営、本人の望む形だと思います。
しかし、それも日本政府の意味不明な鎖国により暗雲が立ち込めています。何とか上手くいってもらいたいものです。
他にも、世界上位にランクインしているボクサーはいるものの、なかなか世界挑戦ができる階級ではない、ということも事実。私が今年、期待したいのは上記3名のボクサーです。
中量級、重量級のボクサーたちは、もし世界戦、もしくはそれにつながる試合のチャンスが来れば、勝負をかけてくれるでしょう。
そんなサプライズの一戦も期待しつつ、2022年もボクシングを楽しんでいきたいと思います。
そういえば別件ですが、ジョー・スミスJr.vsスティーブ・ゲフラードのWBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ、FITE.TVでの配信が決まったようです。おそらく直前の発表なので大丈夫だと思います。9.99$、日本円で1,220円だそうです。
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