ニューヨーク、サウジアラビア、ラスベガス。
世界を股にかけた世界戦興行が終わりましたが、結局印象に残っているのは最終日のラスベガス、トップランク興行のみ。
ほかの2興行についてはまあひどいものだったので、後日譚も何もありません。
さて、ということで今回のブログは、井上尚弥の勝利に浸りつつ、「誰が井上尚弥を止められるか」と題して書いていきたいと思います。

Key to Monster Hunt
打倒井上尚弥のカギを握るのは、それは彼が「殴り合いが大好き」だということにあります。つまりはリスクを冒してまで相手を打ち負かそうとする姿勢があり、そこにこそ打倒井上尚弥の可能性があります。
まず、戦い方としては、ルイス・ネリやキム・イェジョン、そしてラモン・カルデナスが見せたように、自ら攻めるという意志が必要です。
後ろに下がりながら一発カウンターを狙うスタイル、これは延命措置としては悪くないことが立証されていますが、距離感が良く、対応力の高い井上尚弥に勝つにはこれだけでは足りません。井上尚弥に対し、同じ攻撃は1度2度は通用したとしても、それ以上は対応されてしまうからです。
とはいえ、先手をとって攻めた際には素早いバックステップでかわされて終わり、となってしまうのですから、最終的にはカウンターは絶対に必要なスキル。カウンターも同時打ちは、速すぎる井上尚弥に対して非常に難しく、しかしそれは明確に「リターン」で代替可能だと思われます。
ネリ、カルデナスがダウンを奪ったパンチは、井上尚弥が攻めてきた時、その打ち終わりを狙ったパンチであり、倒そう意気込んで来る井上は、ときに打ち終わりが甘くなることがあります。ただし、それは常にというわけでもないですし、そこを狙いすぎると対応されてしまうので、基本戦術として「自ら攻める」もしくは「攻める姿勢を見せつつ」、「本命は打ち終わりにリターン」可能であれば「同時打ちのカウンターを狙う」としなければならないのだと思います。
そこに必要なのは、まず何よりも勇気。そして、ある程度の被弾を覚悟しなければならないのでタフネス、そして早々にタイミングを察知できるカウンターセンス。あとはもちろん、前提としてパンチングパワーはなくてはならないものです。
さて、すでに決まっていると言われるここからの対戦相手は、どうでしょうか。
9/14(日)ムロジョン・アフマダリエフ戦
かつてスーパーバンタム級最強(注:信太判断)と目されながらも、マーロン・タパレスを相手に際どい判定を落とし、トップ戦線から後退してしまったMJことムロジョン・アフマダリエフ。
思えばあの試合で初黒星を喫してしまったことは彼のキャリアにとってとてつもなく不運なことだった、と言わざるを得ないのですが、もし、井上がフルトン戦のあと、MJと戦っていたならば、すでにこの階級で楽しみな試合というのは全くありませんでした。そう考えると、MJが残ってくれていてよかった、とも思います。
さて、アフマダリエフは、上記の要件を考えると、それに適合する可能性があるボクサー、つまりは井上尚弥に勝利できる可能性を秘めたボクサーだと言えると思います。
まず彼はアマチュアボクシング大国、ウズベキスタンの出身。ウズベクボクサーたちのここ最近の大躍進は凄まじく、パリ五輪では男子7階級のうちなんと5階級をも制覇、その大躍進の裏にアフマダリエフをはじめ、プロでも活躍するボクサーの存在があることは否定できない事柄です。
ウズベキスタンでボクシングを始め、今はジョエル・ディアスの指導のもと、メキシカンスタイルを取り入れています。この中央アジアのボクサーたちがメキシカンスタイルを取り入れるというのは、非常に相性が良いと思われ、中央アジアで培ったフィジカルの強さがもととなる攻撃的なスタイルは、叩き上げのメキシカンよりもバランスが良いように感じます。要は下半身が安定しているように見えるのです。
反面、メキシカンのような爆発力はなく、良い意味でも悪い意味でもまとまってしまう、というのが印象です。当然個体差があるので、完全にそうである、とは言い切れませんが、ことアフマダリエフに関しては良くまとまっている、という印象で、それは良くも悪くもです。意外性は少ない、と言えると思います。
話がそれましたが、アフマダリエフは、長いアマチュア経験からカウンターショットも得意。とりわけサウスポースタンスから奥の手(左)のカウンターが印象的なので、これは特に、井上にとって鬼門となり得るパンチなわけです。
ネリ戦、カルデナス戦で井上がもらったカウンターは、左右の構えの違いはあれど、どちらも左フックであることは事実。なんか書いていると本当にヤバいんじゃないかと思ってきましたが、当然そこを狙われることは井上にとってもわかりきったことですから、これは右のガードを上げるという単純な話ではなく、今後においてどのように対策をしてくるのかは楽しみです。井上ももちろん、その場に留まっているわけではありません。
12月、ニック・ボール戦
ここはまだ本決まりにはなっていないはずで、12月の前にボールは1戦挟みたいという話があります。さらにその試合の希望としては王座統一戦であり、それはボールにとっても大いにリスクを伴うものです。
ニック・ボールは超攻撃的な王者で、フィジカルが強く、獰猛です。たまに蹴ったりしますが、あれはどちらかというとドヘニーが先に仕掛けているので個人的には気にはなりません。
どちらかというとやはりあの回転力は厄介で、そして井上の対戦相手としてはどれぐらいぶりなのか、近接戦闘を好むファイター。
井上のこれまでの打撃戦は中間距離から一歩進んだぐらいの距離が多く、頭と頭がぶつかるほどの接近戦というのはあまり記憶にありません。ボールとしてはその密着状態でのファイトか、もしくはボックスする相手を追っていく、という展開にしたいはず。
しかし井上尚弥を相手にしては、そのどちらの展開にもならない可能性があります。
ボールが自分の得意なゼロ距離に近づこうにも近づけず、入ろうとしてはカウンターを取られる、そんな試合になりそうな気がします。
ニック・ボールのスタイル的に、上記に上げた「井上に勝てる戦い方」ができるボクサーではありませんから、もっと別のアプローチ、それは井上が経験したことのないものが必要です。
それこそ、ボールのストロングポイントを存分に活かした戦い方であり、そしてそのフィジカル、タフネス、ステップインが井上の想像を大きく上回っている、ということが必要です。
今回の井上尚弥苦戦の要因の一つは、ラモン・カルデナスが「想像以上に強かった」ことだと思います。これは井上尚弥だけでなく、多くのボクシングファンが感じたことであり、だからこそ、試合中にオッズが一気に縮まったのです。
そして、その想像を超えてくるというのが、井上にとって初めての階級であるフェザー級で可能かもしれない、というのがボールにとって最大の勝ち筋でしょうか。
ニック・ボールのボクシングには幅が少なく、そこがまた魅力ではあるのですが、あのスタイルがハマるかハマらないか。どちらかというと対策しやすく、井上尚弥が勝ちに徹すれば難しい相手ではないかもしれませんが、井上尚弥が完全にファイトしにいくとすればチャンスが出てくるのかもしれません。
ニック・ボールはいつも通り戦うとすれば、あとはTJドヘニー戦のように井上を煽り、怒らせる必要もあるかもしれません。
2026年5月、中谷潤人戦
さて、そう考えるとやっぱり井上尚弥にとって、中谷潤人が最も危険な相手であるということは明白でしょう。
中谷はMJ、ボールと違い、井上尚弥に対して体格、リーチで大きなアドバンテージを持っています。
これまで見せてきたカウンターショットも秀逸で、とりわけ奥の手である左はアングルが非常に多彩。まっすぐも打てれば、バナナストレートもオーバーハンドも打てるし、アッパーも打てます。
タイミングもよく、アストロラビオをKOしたボディストレートはアストロラビオが想定を全くしていなかったタイミングだったのでしょうし、カウンターをとってはアンドリュー・モロニーをKOした左ボラードはまさに狙いすました、という一撃でした。
バンタム級に上げてからは現在4連続KO勝利中、その全てが世界タイトルショット。減量苦から一定は開放され、かつて井上がバンタムで見せたような確変期に入っているような気すらします。
次戦、もうあと1ヶ月後に迫った西田凌佑戦をどのようにクリアするのかによってもその期待値は変わってくるのでしょうが、相手が相手だけにまさかも起こり得ます。
来年の話をすると鬼が笑う、とは言いますが、「5月」というのが井上にとって縁起の悪い月であることも含めて、やはりモンスター討伐を最も期待されるのはこの中谷潤人でしょう。
東京ドーム開催が噂されるこの戦いは、もう水面下で会場が抑えられているかのうせいもあります。野球やコンサートとの兼ね合いがあると思うので、ある程度日程は限られるはずで、そうなるとやっぱりゴールデンウィーク開催となるのではないでしょうか。と、勝手に予想。
とりあえずホテル抑えたいから日程だけこっそり教えてほしい。
ボクシングが相手のあるスポーツであるがゆえに
やっぱりボクシングは何があるかわかりません。それは井上尚弥vsラモン・カルデナスを見て再確認しました。
そして、その「なにか」を起こせるのは、やはり勇気であったり、戦う意志であったりするわけで、だからこそウィリアム・スカルには何も起こせなかった。ロリー・ロメロはある種の奇跡を起こしましたが、ゴミ山の中に花が咲いた「ように見えた」程度のもので、一瞬にしてそれは間違いだったとわかりました。
ボクシングという競技に失望しかけた中で、最後に残った希望は井上尚弥。
そして彼をはじめとして、日本人ボクサーの中には観客になにかを示したいと意志を持つボクサーが多く、それはいかに稼ぐか、という欲にまみれたボクサーたちとは一線を画すものです。
だからこそ、井上尚弥の試合は楽しみで、中谷潤人の試合は楽しみで、日本人ボクサーたちの試合は楽しみです。そしてそれを世界に知らしめてくれる世界タイトルマッチ、これは本当に素晴らしい出来事です。
今こそ日本ボクシング界の全盛期。この流れがいつまでもは続かないことは覚悟しつつも、今、この時を存分に楽しみましょう。
ちなみに、森合さんの「怪物に出会った日」が文庫化されるそうです!
加筆されている部分もあるので要チェック!私はもちろん予約済み!
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