紆余曲折を経て、日本時間で1/19(木)に飛び込んできたニュースは、「対戦合意」。
Stephen Fulton and Naoya Inoue have agreed to terms for a unified 122-pound title fight in the spring in Japan, sources told @MikeCoppinger.
— ESPN Ringside (@ESPNRingside) 2023年1月19日
The fight for Fulton's WBC and WBO titles is being targeted for May, though no date is set yet. The bout will be streamed on @ESPNPlus. pic.twitter.com/e0TtMsTGoP
https://www.boxingforum24.com/threads/inoue-fulton-could-be-on.697982/より
かねてから話題になっていたスティーブン・フルトン(アメリカ)vs井上尚弥(大橋)の一戦は、両陣営が対戦の合意に至り、あとは正式発表を待つのみとなりました。
表面上は情報に踊らされていたわけですが、結局の所この一戦はかなり早い段階で調整されており、それが約束されたからこそ井上尚弥は4つのベルトを早々に返上するに至ったのではないでしょうか。
ということで今回のブログは、対戦合意に至ったクールボーイvsモンスターの一戦について。
決戦は5月!日本!
さて、このフルトンvs井上尚弥は詳しい日程こそ決まっていません(もしくは発表されていません)が、5月開催とのことです。
そして、会場は日本。
できれば完全アウェーのアメリカで、アメリカ人王者であるフルトンを降すという偉業を為してほしかったわけですが、こればかりは致し方ありません。
アメリカでやるとなると、トップランク所属の井上と、PBC所属のフルトンでは、プロモーターが犬猿の仲、ということで相容れない雰囲気もありました。
井上尚弥がバンタム級時代から、スーパーバンタムに上がったとしてもマッチメイクに恵まれないのでは。。。と思われていた懸念事項は、「日本開催」という技を持って解決したことになります。
こう至った要因としては、大きく2つが考えられます。
まず1つは、トップランク総帥のボブ・アラムは、井上尚弥のプロモーションに対してめちゃくちゃ熱心なわけではなかった、ということが一つ。
テレンス・クロフォードはアラムのことを「人種差別する人間」だと言っていましたが、アラムは比較的フラットだと感じる事が多いプロモーターです。
ただ、井上尚弥は日本のジム制度の絡みもあり、トップランクが100%プロモートするボクサーではなく、アラムとしては「借りてきた選手」みたいな感じの距離感なのではないか、と思っています。
そしてもう1つは、1試合ごとに高まっていく、井上尚弥の日本での価値。
ここは何というか、個人的にはアメリカでいくつもの試合をこなし、世界的な名声と人気を得て日本に凱旋、ということが必要だと思っていました。
しかし、井上尚弥はそのパフォーマンスとレガシーで、日本で想像以上に早く認知され、日本での人気は絶大なものとなってしまいました。
以前はチーム・イノウエの先行販売で余裕で買えていたチケットは、いつしか抽選に外れるようになり、大橋ジムの抽選にも外れるようになり、下手すれば一般販売でも買えなくなってしまった。
私は幸運にも、なんだかんだとチケットを手に入れられて、毎度足を運べてはいるものの、次のフルトンvs井上のチケットを取れるかどうかはまだわかりません。
大いに客の呼べるボクサーとなった井上尚弥には、それ相応のマネーがついてきて、ついには巨人・Amazonを引きずり出すに至ります。このAmazonのボクシング進出に至っては、村田諒太(帝拳)という武器もありましたが、やはり「まだまだ続いていく」井上尚弥の存在は非常に大きかったはずです。
井上尚弥引退とともに、Amazonプライムビデオがボクシングから撤退しても、残念なことに驚くことはありません。
「アメリカの2団体統一王者」を日本に呼べるという状態は、はっきり言って異常なことである、と、あえてここで(特に若い皆さんに)伝えておいた方が良いでしょう。
スティーブン・フルトンとは
スティーブン・フルトン、ニックネームは「クールボーイ・ステフ」。
21勝(8KO)無敗という戦績を誇るWBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者であり、紛うことなき王者です。
リング・マガジンランキングでは、スーパーバンタム級王者は不在ですが、1位にこのフルトンを置き、2位にムロジョン・アフマダリエフをランクさせるという評価。このフルトンvs井上の一戦は、もしかするとリングマガジン・ベルトもかけられるかもしれません。
21戦全勝というフルトンのレジュメは、例えばトップランク・プロスペクトのようにつくられた記録ではなく、数々のサバイバル戦を勝ち残ってきた戦績です。
2014年のプロデビューから、2015年には7戦目で無敗対決を迎え、ジョシュア・グリア(アメリカ)、アダム・ロペス(アメリカ)といった当時無敗のプロスペクトたちを退けています。数えてみると、フルトンに初黒星をつけられたボクサーは10名にも及び、つまりフルトンはそのキャリアの半分を無敗のボクサーと戦っている、という計算になります。
何も無敗のボクサーを倒す事がすごい、というわけではありませんが、「無敗」というものは幻想を抱かせる戦績で、見ようによっては「まだ底を見せていない」ボクサーであり、フルトンのレジュメはそれらのボクサーの「底を見せた」という行為でもあるわけです。
ちなみに我らがナオヤ・イノウエが無敗のボクサーを倒したのは、エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)のみです。だから何だ、ということなんですが。
そのボクシングは非常にバランスが良いもので、離れても近づいても、何でもできる器用さを持っています。
ダウン経験がない、と言われているフルトンは、見ているとなかなか芯でパンチを貰うことが少ないボクサーで、タフというよりも非常に巧い。いかにもアメリカンらしいボクシングをするボクサーで、やはりこのボクサーはアメリカ人のボクシングファンが多く評価を与えている印象を受けます。
尚、私がこのフルトンをはじめてしっかり見たのは王座戴冠戦となった、当時無敗のアンジェロ・レオ(アメリカ)戦ですが、この試合でフルトンはいきなり予想外の戦いをします。
↓レオvsフルトン
このレオ戦では手数勝負で接近戦を迫るレオに対して堂々と迎え撃ち、打ち勝っての勝利。クロスレンジでの頭の位置、肩の使い方、アウトボクシングを主としながらも、接近戦でレオを完全に上回っての判定勝利に、このフルトンの総合力の高さに驚かされたものです。
そして王座戴冠戦を経て評価を高めたフルトンは、早速ブランドン・フィゲロア(アメリカ)との王座統一戦に臨む事になります。
↓フィゲロアvsフルトン
にくきルイス・エステバン・ネリ・エルナンデス(メキシコ牛)をボディに沈めた、我らがブランドン・フィゲロア。長い腕を折りたたんで接近戦をしかけるこのブルファイターは、アンジェロ・レオを2段階くらい強くしたボクサーでした。
しかし、フルトンはこのフィゲロア相手にも自らのボクシングを封印、接近戦を受けて立ちます。
ここでもフルトンは頭の位置、肩の使い方、コンパクトなコンビネーションとポジショニングでフィゲロアの土俵での判定勝利。チャンピオンシップラウンドはアウトボックスに徹する等、インテリジェンスも発揮しての勝利でした。
このラスト2ラウンズのボクシングを最初から展開していれば、フィゲロアをアウトボックスする事はたやすかったのかもしれません。事実、フィゲロアのフィジカルに押される場面も何度もありました。
しかし、ここをこの勝ち方で勝ち残ったフルトンは、ステージを1段階上げた、とも言えますね。
そして、次に迎える指名挑戦者が、元統一王者のダニエル・ローマン(アメリカ)。
いやはや、嫌になるくらいの強豪ばかりの戦績です。
↓フルトンvsローマン
そしてここで、とうとう。ついに。
フルトンは自らが磨いてきたボクシングに戻ります。
もうひとりの統一王者、ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と互角の戦いをし、惜しくも敗れたローマンを相手に、ほぼフルマークの完勝劇。
このローマン戦は、スティーブン・フルトンのベストパフォーマンスであり、あのローマンがまさかここまで大差で負けるとは、という内容のものでした。
「序盤からステップワークと鋭いジャブを当て、カウンターをチラつかせて相手を躊躇させる。タイミングを見てコンビネーションをヒットして、相手が出てきたらステップ、クリンチ、無防備に出てきたときにはカウンター。
そして終盤、相手のダメージと自分のスタミナと相談して、倒しに行く。」
これこそがフルトンのボクシング。
井上尚弥はどう戦う
当然勝負はやってみなければわかりませんが、どんなにフルトンが素晴らしいボクサーだとしても、井上尚弥が負ける姿はなかなか想像できるものではありません。
もし賭けるとするならば、井上尚弥の勝利にベットするファンは非常に多いでしょう。
それでも、フルトンはやはり強いボクサーで、階級のこともあって井上尚弥の「過去最強」のボクサーであることは間違いありません。
フルトンは非常にディフェンスが良いボクサーで、更に井上と比べて非常にサイズが大きい。これは井上の距離感も狂ってしまうかもしれませんし、強引に打ってでたところにカウンターをもらってしまう危険性だって大きい。
もしかすると、フルトンのカウンターにより井上が攻めあぐねる場面も出てくるかもしれません。
そして、やはりフェザー級に上げようか、(というか、井上戦後にはあげるかもしれない)というフルトンは、耐久力も並のスーパーバンタムではないでしょう。
尚且速く、器用でもあります。
これと言った対策はなかなか立てづらいボクサーですし、黒人ボクサーとの経験のない井上にとっては、序盤は特に苦労するかもしれません。いくつかのラウンドでは、久々に井上がポイントを取られる姿を見れると思っています。
こういう事は、非常に楽しみな事で、「井上尚弥の現在の実力」を引きずり出してくれるボクサーかもしれません。
フルトンはおそらく井上のパワーには臆さない。これまでの井上の相手の多くのボクサーのように、井上のパワーに恐れを抱き、腰が引けてしまったりするようなことはないはずです。
だからこそ、非常に質の高いボクシングが見られるのではないか、とワクワクしています。
そして、井上尚弥は、このスティーブン・フルトンを12ラウンズという時間の中で倒せるのか、それとも倒せないのか。
それも見どころの1つとして、まずは正式発表を楽しみに待ちましょう。
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