続々とメダリストが決まっていく、東京オリンピック、ボクシング競技。
東京オリンピックでは、男子8階級、女子5階級でトーナメントが開催されることになっています。
↓オリンピック実施階級についてはこちら
トーナメントは、各国の代表となったボクサーが、地域予選(日本でいうとアジア・オセアニア予選)に挑み、その予選を勝ち抜いたボクサーがオリンピックへの出場権を得ます。
本来は、それに加えて最終予選という世界規模で出場権をかけたトーナメントがあるのですが、今回はコロナショックにより最終予選は中止。かわりにIOCの定める世界ランキングの上位者が出場権を獲得しています。
いずれにしろ、国の代表となっただけでは、まだオリンピックへの出場権すらありません。
そしてその厳しい予選を勝ち抜いたボクサーと、今回は開催国枠で数名のボクサーは出場権を得られました。その数は男子4名、女子2名の合計6名。
↓オリンピック出場を決めた6選手について
その階級も、合計32名の出場ボクサーがトーナメント形式で争い、各ボクサーは1日1試合しかできないので、柔道や他の競技よりも多くの時間を有します。
ROUND32(1回戦)
→ROUND16(2回戦)※終われば、ベスト8が出揃います。
→ROUND8(3回戦)※終われば、メダルが確定。(3位決定戦は行われず、銅メダルは各階級でふたり)
→準決勝(4回戦)※勝った方は銀以上が確定。負ければ銅メダル。
→決勝(5回戦)
と進んでいきます。
この東京オリンピックでは、代表6選手全員が初戦を突破。これが既に快挙。
しかしライト級の成松大介は、初戦で頭蓋骨を陥没骨折、戦う前に2回戦を棄権。非常に残念です。
ウェルター級、メダルを期待された岡澤セオンは、2回戦で超強豪、キューバのロニエル・イグレシアスと当たり、ほんの少しの差で敗北。これは本当に惜しかったですし、トップオブトップと互角に戦えていたので、次のオリンピック、いや世界選手権でもメダルを期待できると思います。
ミドル級の森脇唯人はこれまた超強豪、オレクサンドル・ヒズニャク(ウクライナ)と対戦し、完敗。ミドル級の壁は高いですが、森脇もまだまだ伸びしろは十分、今後に期待できる内容ではありました。
そして残っているのは男子フライ級田中亮明、女子フライ級並木月海、そして女子フェザー級入江聖奈。
今回のブログでは、8/3に行われた、田中亮明がメダルに挑む準々決勝、そして入江聖奈が日本女子ボクシング初の金メダルに挑む決勝戦の観戦記です。
男子フライ級ROUND8
ユベルヘン・マルティネス(コロンビア)vs田中亮明(日本)
田中は、この東京オリンピックで大きく覚醒した感じがあります。「倒しに行く」「派手な試合をする」とオリンピック前に語っていたこと、延期された期間、弟・田中恒成とのトレーニング。これが非常に良い方に働いたのでしょう。
正直、ほかの日本代表、プロのアマボクサー岡澤セオンや、自衛隊体育学校所属のボクサーたちとは一線を画す、「中京高校教諭」という肩書は、トレーニングの環境面で遅れをとっているのでは、と思っていました。さらには、トーナメントの抽選をすれば断崖絶壁、かなり高い壁が揃うトーナメント表。
しかし、蓋を明けてみれば、一回戦でリオ五輪銀メダリストを破り、二回戦でもリオ五輪銅メダリストを破る殊勲。そして準々決勝でも、リオ五輪(ライトフライ級)銅メダリストを迎えます。
断崖絶壁のようなトーナメントを、自らの力で駆け上がっていく田中亮明。気合の入り方が、これまでとは全く違います。金メダルも期待できる、そんな田中亮明が、まずはメダル獲得に挑みます。
初回、今回もゴングと同時に仕掛ける田中!今回も良い感じに吹っ切れています。序盤から打撃戦も、田中の方がパンチングパワーに勝っているように思います。
マルティネスは下がりながら対応せざるを得ない状況なので、見栄えは良くありません。ただ、そのパンチはコンパクト、田中の左ストレートに左フックカウンターを合わせる等、やはり上手い。しかし田中は退かない!バッティングには気をつけたい。
互角に見える初回のポイントは、4者がマルティネス!
2R、田中の左ストレートがヒットして後退するマルティネス。心なしか、力が入らなくなっているようにも見えます。しかし、マルティネスのカウンターは怖い。
田中が得意の左ボディを打ち始め、マルティネスはスピードが落ちてきているように思います。
またも微妙なこのラウンドは3−2で田中!ラストラウンド勝負!!
3R、両者ともに疲労の極み!マルティネスはコンパクトで回転力のあるコンビネーションを放っていき、純粋にクリーンヒット数を比べられると厳しい田中は、決定的な場面を作りたい。
左ストレート、右フックを強振、左ボディを打ち込む田中。左ストレートのカウンターはかなり有効にヒットしています!後半はマルティネスも疲労からかかなり雑になり、田中も疲れてはいるものの大チャンス。
両者が死力を尽くして戦う大激闘!当然です、ここはメダルを取れるか否かの天王山。
大激闘を戦い抜いた末の判定は!
スプリットデシジョン、4−1の判定で田中亮明!!!!!!
仕事中、音を消して見ていたのでコールの瞬間、崩れ落ちた田中を見て負けたかと思った。。。
しかし!最終ラウンドは田中のラウンドであり、密やかに勝利を確信していた次第です。
素晴らしい!素晴らしい!!
力強い左ストレートを武器に攻め続けた田中、見事ベスト4進出!ポイントの挽回が難しい、3Rの短期決戦であるこのボクシング競技において、この強豪マルティネス相手に初回を取られた上での逆転は本当に誇らしい。
これでリオ五輪のメダリストを3タテ、男子フライ級のダークホース、田中亮明が準決勝に進出、同時に銅メダル以上を確定させました。
開催国枠での出場ながら、確かな実力を証明し続ける田中、あと2戦。あと2勝で、世界一です。もう少し、あと少し。
本日の試合のあと、酸欠で気分が悪くなって車椅子で医務室へ運ばれた田中。準決勝は5日に行われる予定ですが、連戦のアマチュアボクシングは試合日は毎回計量があり、4日もゆっくりできるとは限りません。
なるべく回復して、次の試合に臨んでもらいたいですね。
そしてもう一つ、右瞼あたりにはバッティングの痕とみられる内出血?も見られました。強敵ばかりと戦ってきた田中の、心身のダメージも心配です。
ともあれ、ここまでくれば金を目指すのみ。次戦も期待しています。
女子フェザー級 決勝
ネスティー・ペテシオ(フィリピン)vs入江聖奈(日本)
いよいよ!とうとう!入江が金メダルをかけて決勝戦!
ペテシオに対しては、2勝1敗と勝ち越してはいるものの、今回ペテシオは絶対女王、リン・ユーティン(台湾)を退けて勝ち上がってきています。間違いなく、自信を持っており、勢いがあります。
フィリピン人ボクサーらしく、一発一発を力強く振るうタイプのボクサーで、そのオーバーハンド系のパンチはパワーもあり、スピードもあります。
入江としては得意のジャブをつき、縦横無尽にリングを動き回り、この一発を食わずに自身のコンビネーションを当てたい。プレスの強いペテシオを捌ききれるか、が勝負。
X JAPANの「紅」にのって、ニコニコ笑顔で入場の入江。これまで通り、平常心を感じさせます。
初回、まずはステップから素晴らしいジャブを突き刺す入江!最終戦にしても、調子は崩していなさそうです。
しかしペテシオの踏み込みは鋭く、近い距離になってしまうことも。
身体の強さではペテシオの方が上かもしれません。腕の太さ、身体の厚みには差があります。
ペテシオの攻撃をバックステップでかわし、すかさず左を伸ばす入江、距離を少しだけ詰めてペテシオに手を出させ、そのうち終わりを狙います。相変わらず素晴らしいボクシング。
終盤には右をねじ込み、また鋭いジャブを当てた入江、素晴らしいスタートを切れました。
このラウンドは、もちろん入江の5-0。
2R、 ペテシオはよりプレスを強め、力強いパンチを振ってきます。スイッチを交え、鋭い踏み込みとパワーパンチを持っているこのボクサーは、それでいて回転力もものすごい。こうして、前ラウンド劣勢だったことがわかると闘い方を変えてくる、やはりこのペテシオも世界トップレベルのボクサーです。
強引に攻めてくるペテシオに入江も右カウンターをとりますが、手数、クリーンヒットともにペテシオが上回っているようにも見えます。
後半は入江がワンツー、右ボディを放ち距離を取ることができる展開に。入江の足が機能し始めると、ペテシオの見せ場は少なくなります。
このラウンドは前半がペテシオ、後半が入江というイメージですが、ジャッジは4-1でペテシオを支持。ここまでで19-19のドローが4者、残りの1者は20-18で入江、ラストラウンド勝負です。
3R、ペテシオは引き続きサウスポー。強引に突っ込んで距離を縮めます。自分の勝負すべきところがよくわかっているペテシオ。
入江としては離れたところで勝負したいですが、ペテシオの前進は止まりません。ただ、カウンターはしっかり決まっています。
互角の展開でしたが、終盤、入江がワンツー、そして右ストレートを効果的にヒット!この1分ないくらいのところで奪ったクリーンヒットは、判定を大きく左右しそうです。
ともに素晴らしいハートをみせ、技術を見せた決勝戦にふさわしい3R。
判定結果は。。。ユナニマス!
ということは!入江聖奈が勝利!!!見事!!!!金メダルです!
日本女子ボクシング史上初のメダルは、金メダル!本当に素晴らしい。
2Rの序盤で、相手ペースになりそうなところをよく我慢して、引き戻しました。
ペテシオとは4度目の対戦、お互いの手の内がわかっている中で、本当に見事な戦いぶりでした。
入江は小学校の頃からの夢をかなえ、見事「東京オリンピックで」「金メダル」。
3R目、ジャッジは全員が入江のポイントでしたが、ポイント差以上に接戦だったと思います。
対戦相手のペテシオも素晴らしいボクサー、これからも国際大会での活躍が楽しみです。
さて、入江は、その後引退を表明。
いくつかの記事で見ましたが、「大学卒業と同時に」引退をする、とのことでした。現在、日本体育大学3年の入江の引退まで、あと1年と少し。来年の全日本選手権を最後に、とのことですが、残りの競技生活も今回の五輪のように目いっぱい楽しんでもらいたいですね。
個人的には、勿論引退は寂しいものです。
しかし、本人が決めた決断、それもおそらく前々からそこを区切りと考えていたのでしょう。だからこそ、今回のあの勢い、そしてあの笑顔、あの強さがあったとも言えます。
本当に素晴らしいボクシングを、そして「女子ボクシング」を、日本国民全員に教えてくれてありがとうございます。
引退はまだ少し先ですが、まずはゆっくりとこの激戦の疲れを癒やして下さい。
いや〜、本当に感動しました。残る日本人選手は、並木月海、田中亮明。日本ボクシング史上、最多となる3つのメダル獲得が決まっているわけですが、そのうちの一つは金。残る並木、田中も、金メダルを獲ってくれると期待しています。
男子ウェルター級も決勝!
そしてこの日は男子ウェルター級の決勝も行われました。
AIBAのランキングで1位のパット・マコーマック(イギリス)と、岡澤セオンを破ったロニエル・イグレシアス(キューバ)の一戦。
優勝候補同士の決勝戦は、イグレシアスが素晴らしい安定感をみせて、5-0の勝利。危なげのない戦いだった、といえばそれまでですが、全盛期を過ぎたといわれるイグレシアスですが、身体能力こそ(おそらく)落ちているものの、試合巧者ぶりは増しているのでしょう。
体格にまさるマコーマックでしたが、フィジカルの差は活かせず。
ロニエル・イグレシアスが見事金メダルに輝きましたが、今大会、このボクサーを最も苦戦させたのは岡澤セオンでした。
イグレシアスはシードであり、イグレシアスにとっては初戦が一番厳しかった。岡澤にとっては、世界の一流どころにもう半歩、いや0.25歩くらい及ばなかっただけで、十分にメダルを狙える実力をアピールできました。そもそも岡澤はマコーマック相手にも良い勝負を展開しており、やはり優勝候補のひとりとして数えられてもおかしくはありませんでした。
次回のパリは、あと3年。
この素晴らしい経験を経て、岡澤セオンが次は誰とあたってもメダルを獲得できるようなボクサーになっていることを期待しています。
東京五輪の記録↓