WBC世界ライトフライ級王者、矢吹正道(緑)と寺地拳四朗(BMB)への再戦指令が出ました。
2021年9月22日、絶対王者である寺地拳四朗に前日本王者である矢吹正道が挑戦し、大方の予想を覆すアップセットで矢吹が10RTKO勝利、見事新王者に。
その後皆さんもご存知の通り議論を呼び、WBCが再戦を指令。
今回はこの矢吹vs拳四朗Ⅱについて、個人的に思うことを書いていきたいと思います。
↓拳四朗vs矢吹の観戦記
問題となったのは
試合後から問題になっていたのは、9Rに負った拳四朗の右目付近の出血。この出血は、矢吹のバッティングによるものでしたが、レフェリーはパンチでのカットと判定。
この大出血をものともせず、翌10R、拳四朗は攻勢に出て矢吹を攻めますが、途中でボディを効かせられた上、連打をまとめられてレフェリーがストップ。
焦点として、このバッティングが故意か偶然か、というのもあるようですが、故意のバッティングとは考えづらい。
例えば矢吹がこれまでダーティファイトを得意としているようなボクサーであれば、疑われたかもしれませんが、矢吹は基本的には一定の距離をとって戦うボクサーで、今回はファイタースタイルで行こうという作戦はあったのかもしれませんが、私の記憶の中ではバッティング自体もさほど多いとはいえないボクサー。
9R、拳四朗のボディが効いてしまい、足が前に動かなかった結果、頭が先に出てしまった、ということだと理解しています。
何にせよ、皆さんも言われている通り、故意か偶然か、なんてものは本人しかわかりません。ただの水掛け論。
このバッティングの勝敗への影響、と言われるとわかりませんが、この時点ですでにポイントで明白な劣勢だった拳四朗が、バッティングのアピールもせず、続く10Rも含めて血だらけになりながらも攻め続けたのは、倒すしかない、という気持ちに至るそれまでの流れがあったからに他なりません。
当然バッティングの影響はゼロだとは思いませんが、それが試合の趨勢に大きく関わったか、というとそうは思いません。どちらかというと、試合の趨勢に大きく関わったのは、4R終了後の途中採点でしょう。あれで、拳四朗陣営は戦い方を変えざるを得なくなり、矢吹陣営は精神的に大きな大きな余裕を得ました。
どちらかというと大きな問題はこの後で、試合後、寺地陣営がJBCに質問状を提出。
この内容は、「拳四朗が出血したのはバッティングで、それは故意ではないか」という内容のものだったようですが、寺地陣営の意図としては、「試合結果を覆そうとは思っていない」、つまりは矢吹陣営への牽制と、寺地陣営(というか真正プロモーション)が持つオプション興行権の履行(詰まるところ再戦)、というのが目的なのだと思います。そして、この質問内容には「あの出血はパンチではなくてバッティングですよ」という意図の、JBC、そしてレフェリーへの注意喚起が含まれているのだと思います。
(寺地陣営は判断の変更と、試合中の2点減点を求めていたそうです。但し、これは結果が覆る内容ではありません。)
これに対してJBC側は、「故意とは認められない」という回答。それはそれで結構な判断なのですが、もう一つの回答は「レフェリーの判断が不合理とまでは認められない」との言。
間近で見ているレフェリーの判断を尊重する、ということは勿論大切にすべきことですが、明らかな映像として残っている点、寺地陣営が抗議をしている点を踏まえると、これは誤りを認めるべきところではないでしょうか。
何度も言いますが、それによって結果が覆ることがなく、結局のところはJBCのレフェリーの力量を問われているだけであり、そここそが問題となるべきところであると思います。
この2つの回答に際して、要した時間は、記事を見る限り3週間ほどかかっています。1日あれば十分判断できるはずですが。
さらに問題なのは、この間、WBCにもこの問題を上申していたJBCは、WBCからの「再戦指令」を受けていたということ。基本的には行われない「ダイレクトリマッチ」ですが、ケチがついた時には行われます。つかなくても、スターボクサーが負けたりすればダイレクトリマッチやりますよね。今回は物議を醸しているので、ダイレクトリターンマッチをやることに全くもって不思議なことではありません。
あのバッティングで試合が決したわけではないので、どちらかというとWBCが問題視したのは、JBCの(あのカットによる)裁定、というような気もしますね。いずれにしろ個人的には、「ダイレクト」で再戦が決まり、歓迎しています。
時間経過は以下の通り。
10/5寺地陣営がJBCに質問状を提出
10/18WBCからJBCに再戦指令(これは明らかにされませんでした)
10/27JBCが寺地陣営に回答(「故意ではない」との回答)
10/29JBCは緑ジム松尾会長に「再戦指令は来ていない」←これが意味不明
11/8寺地会長がJBCに再抗議
11/10JBCが両ジムにWBCからの再戦指令を伝える(おそらくすぐに合意)
11/16真正プロモーションが会見で発表
結局両陣営が再戦の合意に達するのに擁した時間は数日程度。コトを一番ややこしくしているのはJBC。
10/18にWBCからの再戦通達を受けているのに、10/29には松尾会長に本来答えるべき回答と異なる回答をしている上、それを両陣営に対して伝えるのが遅すぎる。
ちなみにJBCの永田理事長の言い訳はこちら。
JBCの永田有平理事長は「誤解です」 矢吹と寺地の再戦決定までの経緯を説明/ボクシング - サンスポ
流石に両陣営を騙そうとした、というわけではないと思うのですが、この非常に大切な問題に対して悠長すぎる、という思いは大いにあります。WBCからの回答が遅ければ急かさなければいけないですし、松尾会長から質問があったときももっと別の答え方があったはず。
ちなみにこの後、JBC側は拳四朗の傷はバッティングによるもの、との意見を出していますが、これは再戦指令があったという会見のあと。まったくもってどうなっているのか。
拳四朗の負傷はバッティングによるもの…JBCが認める - 記事詳細|Infoseekニュース
このJBCという組織は、日本プロボクシング界に不可欠な統括組織だと思っています。
しかしここ最近の体たらくぶりは、いちファンから見ても目に余ります。
またこの出来事により、日本プロボクシング協会からの信用をさらに失墜させることが予想され、これは日本ボクシング界分裂の危機と言っても良いほど。
こんなどうでも良いことに悩まされず、素直にボクシングを観戦したいものです。
WBC指令で矢吹正道VS寺地拳四朗の因縁リマッチ決定も…JBCの“情報隠蔽疑惑”に怒りが爆発…釈明など通用しない不手際(Yahoo!ニュース オリジナル THE PAGE)
ともあれ決まった再戦
ということで色々ありましたが、矢吹正道と寺地拳四朗の再戦が決まりました。
両者に言い分はあるでしょうし、それぞれのファンにも言い分はあるでしょう。
拳四朗本人は話をしていませんが、またきっとどこかで本人の言葉を聞けるでしょうし、矢吹は至る所で反論をしていますが、かなりイライラを募らせているようにも感じて心配です。
再戦は、来年春に行われる、とのこと。
ここまで話題になり、しかも前戦が好試合(私は誰がなんと言おうと素晴らしい試合だったと思っています)だったが故に、次戦は初戦よりも大きく注目を集めるのではないか、と思います。是非大きなハコでやってもらいたいものです。
妙な煽りVをつくりそうな地上波での中継は個人的には不要で、前回同様にPPVでやってもらいたい。少なくとも前回以上の実績は残せるのではないでしょうか。
さて、拳四朗については、まだ明確に現役続行宣言を行なっていませんが、すでに練習を始めている、との情報。
あの敗戦を契機に、何を思うのか、これは非常に興味深いところです。
飄々と「作業」のようにボクシングをしてきた拳四朗は、前戦、特に後半の部分で魂のこもった「ファイト」を見せてくれました。寺地拳四朗史上、最もエキサイティングだったあの試合は、新たな拳四朗を見せてくれた、と思っています。
ただ、あの矢吹のガンガン前に出てくる戦法に困らされ、そして敗北してしまったのは事実。
おそらく今のままではいけない、そんな思いがあり、そこに新たな希望を見つけて進んでいけるか、というのがここから数ヶ月の勝負。
積み上げてきたものを捨てるのではなく、更に進化した姿を見せてくれるかもしれません。
対して矢吹は、前段でも書いた通り、ややイライラが募っているようにも感じます。
寺地陣営からの揺さぶり、SNSやネットでの批判、これらが矢吹に及ぼす影響は大きいかもしれません。私も見ていて気持ちの良いものではありません。
そして、あの日の矢吹は「対拳四朗」という作戦がハマりにハマり、そして最後は「挑戦者」の気持ちでもぎ取った勝利。10度やれば3度勝てるかどうか、というくらいの確率を見事ものにした、出色の出来での勝利だったと思います。
「世界王者」となったことで自信がつき、もう一段階強くなった矢吹が見られるのか。それとも、精神的に揺さぶられ、不安定のままリングに上がってしまうのか。
できれば応援者ではない、批判的な意見は全てシャットアウトして、万全の状態で、過去最強の自分を作ってリングに上がってもらいたい、と思います。
両者がそれぞれの思いを抱えて、最高の状態を作ってリングに上がる。
我々ファン、外野が文句をいう問題はどこにもありません。
もうバッティングが故意だとか、因縁の対決だ、とかも個人的には正直どうでも良い。
9/22、下馬評不利の中、絶対王者寺地拳四朗を矢吹正道が劇的な10RTKO勝利。
そして2022年春、ともに負けられない一戦がゴング。
矢吹は前戦の勝利がフロックでなかったことを証明する戦いであり、拳四朗は自身のプライドを賭ける。
これで十分。
煽りあいも、それぞれの不満も、もう必要ありません。
国内のPFPランキングをつくれば必ず上位にくるであろう寺地拳四朗というボクサーを、一度は倒した中部のヒーロー、矢吹正道の再戦は、初戦同様、きっと熱戦となるはずです。
その日を厳かに待ちたいと思います。