もういくつねると、大晦日。
大晦日は我々ボクシングファンにとって、毎年特別です。
なぜなら私たちには、井岡一翔がいるからです。
さて、もう目前に迫った井岡一翔vsジョシュア・フランコのWBA・WBO世界スーパーフライ級王座統一戦。
その試合の勝者には、WBOの指名挑戦者となった中谷潤人(M.T)戦が控えています。
そして、本日(12/23)のニュースで、井岡はその指名試合を受ける構えだ、という報道がなされました。
井岡一翔は、このスーパーフライ級でかなり厳しいキャリアを歩んでいる、と言っても過言ではありません。
ということで今回のブログでは、井岡一翔(志成)のスーパーフライ級での茨のキャリアを振り返ります。
井岡一翔のスーパーフライ級転級
2009年にプロデビューした井岡は、3階級制覇ののち、2017年の年末に会見を開き、引退を表明。父である井岡一法会長の下を離れ、翌2018年に再起を表明、スーパーフライ級への転級を発表し、その初戦を2018年9月、マックウィリアムス・アローヨ(プエルトリコ)と行うことになりました。
当時は、日本の所属ではなく、トム・ローフラーが立ち上げた360プロモーション。
WBC世界スーパーフライ級のシルバー・タイトルがかけられたこの試合で、難敵アローヨに対してユナニマスの判定勝利で完勝、井岡健在をアピールしました。
その年の大晦日、マカオでドニー・ニエテス(フィリピン)とのWBO世界スーパーフライ級王座決定戦へと臨むことになりました。
このマカオでの一戦は、惜しくも敗戦。4~8ポイント差での敗戦だったものの、内容としては非常に僅差、4階級制覇への期待を抱かせるものでした。
スーパーフライ級転級後、それまでの「負けないボクシング」から攻撃的ボクシングへシフトした感のある井岡は、ニエテスが返上した王座をめぐってアストン・パリクテ(フィリピン)と対戦。
このパリクテはニエテスと引き分けた経験もあり、その苦しい試合内容からニエテスがパリクテを避けたのではないか、と言われているほど、強いボクサーでした。
この強敵、パリクテを相手に10RTKO勝利という会心の内容で勝利した井岡一翔は、見事4階級制覇を成し遂げました。
↓井岡のキャリアについて書いた過去記事
防衛ロードは、難敵揃い!
王座決定戦での戴冠ということで、初防衛戦は指名試合。2019年末、対戦相手は、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)。オリンピックに2大会連続出場したという技巧派サウスポー、シントロンにやや苦しみつつも勝利。
江藤光喜(当時白井・具志堅)を技巧で完封したシントロン、続けていればいつか世界に届いたと思うのですが、この井岡戦を最後に試合を行っていません。これは残念ですね。
そして2度目の防衛戦は、2020年の大晦日にセット。コロナにより1年のブランクが空いてしまったとともに、初防衛戦と同じく、2度目の防衛戦も指名試合というハードなもので、しかもその相手が3階級制覇王者、田中恒成(畑中)というのはもう防衛戦のレベルを超えて統一戦のような雰囲気でもありました。
非常に勢いのある若き指名挑戦者、田中恒成。田中も本来は調整試合を挟みたかったかもしれませんが、コロナショックによってそうもいかず。
奇しくも、2019年末、井岡vsシントロンのアンダーカードでWBO世界フライ級王座の防衛戦を行った田中恒成は、翌年の大晦日、今度は井岡と直接対決をすることになりました。
このスーパーフライ級日本人最強決定戦は、今思い出しても鳥肌がたつレベルの「ものがたり」であり、試合前、「世代交代」を掲げた田中に対し、「君の時代は(まだ)来ない」とアンサーを残した井岡は、まさに有言実行、田中恒成の時代はまだ早いということを8ラウンズの中で完璧に示しました。
2度の指名防衛戦をクリアしたにも関わらず、の仕打ち
この2連続の指名防衛戦をクリアした井岡に待っていたのは、まさかの向かい風。
田中戦で露出してしまったタトゥーでひと悶着、そして2021年の春に起こったドーピング疑惑。
タトゥーに関してははっきり言ってボクシングとは全く関係のない問題であり、非常にどうでもよいこと。しかも、処理はしっかりと施し、JBCもそれでOKを出しているのであるから、たとえ世論がどうこう言ったとしてもJBCは「問題なかった」と声明を出すべきでした。
そしてその次に起こったドーピング疑惑についてはJBCのおそまつさもここに極まれり、といった内容で、その管理のずさんさを日本、いや世界中にアピールするような内容でもありました。
そんな数々の、言われのないバッシングを受けつつ迎えたのは2021年9月のフランシスコ・ロドリゲスJr(メキシコ)戦。驚くべきことに、この試合もWBOの指名戦。この試合を含めた3度の防衛戦がすべて指名試合というのは本当にいただけません。WBOは井岡に王者でいてほしくないのか、とすら思います。
この試合、思わぬ苦戦を強いられた井岡でしたが、このロドリゲスもまた強敵で、この井岡戦、そして先日の中谷潤人戦を経て、敗れはしたものの評価を高めたボクサーでもあります。ロドリゲスは中谷戦後、フライ級で戦うことを明言しており、スーパーフライでもタフなロドリゲスのフライ級参戦はフライ級ボクサーたちにとって迷惑極まりないものだと思います。
さて、話を戻すと、3戦連続の指名戦、この試合のすぐあとに井岡が統一戦熱望を掲げたこと、そして田中戦後からこの試合までにあったごたごた、さらには無観客試合だったこと、等々を考えると、ここでの井岡の一番の敵はモチベーションだったのではないでしょうか。当然、ロドリゲスは強敵であり、非常にやりづらいボクサーであったことは事実として、ですが。
そのロドリゲスを撃破したあと、井岡は当時のIBF王者、ジェルウィン・アンカハスとの統一戦にこぎつけます。</p
王座統一戦が決定!しかし。。。
試合日はロドリゲス戦から約4か月後、2021年の大晦日。
トントン拍子に話が進んだにもかかわらず、この試合の一か月前、日本国はオミクロンの流入を防ぐために鎖国、アンカハスは来日できなくなってしまいました。
そこで白羽の矢がたったのが福永亮次(当時角海老宝石)、正式発表は試合の約2週間前でしたが、急遽のオーダーを受けた福永もまた漢でした。
アジア3冠を持つ福永は、当時、間違いなく井岡への挑戦権を有するボクサーでした。プロ叩き上げ、技術でこそ井岡に及ばないことは明らかではありましたが、15勝中14KOという破格のハードパンチは、これもまた、井岡にないものでした。
福永は気持ちのこもったファイトで井岡に迫りますが、地力の差は埋めがたく、井岡は完勝。圧倒しながらも倒しにいかなかったのは、福永のパワーを警戒しての話ですし、次戦こそ実現可能なアンカハスとの統一戦を見越してのものでした。
国内最強挑戦者を退けた井岡、いよいよアンカハスとの王座統一戦か、と思われましたが、2022年2月、アンカハスはフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)を迎えた防衛戦で王座陥落。
ここまで9度の王座防衛記録を持つアンカハスは、統一戦を前にこけてしまったのです。
これは井岡にとって不運中の不運。
そして次の防衛戦はどうなるか、と思っていたところに決まった相手は、一度敗北を喫しているドニー・ニエテス(フィリピン)でした。
これは非常にハイリスクな相手で、ニエテスはやや衰えを見せ始めてもいましたが、当然強豪の4階級制覇王者であり、一度は井岡に勝利しています。
本来であれば、王座統一戦クラスの一戦であるにもかかわらず、防衛戦。しかも、この試合はドニー・ニエテスが指名挑戦者としてリングにあがる、(またも)指名戦だったがために強制です。
ただ、ニエテス初戦は井岡もスーパーフライ級にフィットしているとは言い難かったのも事実。そして、井岡のボクシングIQをもってすればおそらく再戦には強いはず。
以上のことから、おそらくこの試合は多くのファンが井岡優位と思っていたと思います。
今やスーパーフライ級にフィットした井岡は、ニエテスを相手に完勝、そしてリベンジ。ファン・フランシス・エストラーダ(メキシコ)、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)を頂点としたスーパーフライ級のトップファイターに勝るとも劣らない実力をしっかりと証明して見せました。
そして今度こそ、王座統一戦へとこぎつけたのです。
↓正式発表時の記事
井岡の防衛ロード
スーパーフライ級、井岡一翔の防衛ロードは、王座決定戦でアストン・パリクテ(フィリピン)に勝利したあと、初防衛戦で指名挑戦者、ジェイビエール・シントロン(プエルトリコ)を退け、2度目の防衛戦でも指名挑戦者、田中恒成(畑中)を退け、3度目の防衛戦でも指名挑戦者、フランシスコ・ロドリゲスJr(メキシコ)を退けました。
4度目の防衛戦が、待ちに待った統一戦かと思われましたが、直前に対戦相手が変更となり、日本最強のチャレンジャー、福永亮次(当時角海老宝石)を相手に防衛。
5度目の防衛戦は指名挑戦者、ドニー・ニエテス。
こんなにも、指名試合をこなしている王者は他にいないはずです。
コロナでのブランクこそありましたが、比較的コンスタントに試合をこなしている方なのにもかかわらず、です。
そして今度の6度目の防衛戦が統一戦となり、WBA王者のジョシュア・フランコ(アメリカ)、それを乗り越えて統一王者になれば、またWBOの指名挑戦者、中谷潤人(M.T)戦。
むかし、井岡をして「強敵から逃げている」という意見も目にしたことがあります。このレジュメを見れば、それが間違いだったことがわかるはずです。
井岡はただ、「指定された防衛戦の相手を着実に屠ってきた」にすぎません。
こんなにも指名戦が続いたとしても、文句のひとつも言わず、淡々と、王者として防衛戦を戦ってきたのです。
おそらく井岡一翔というボクサーはそういうボクサーであり、それは、彼がリング上で魅せるパフォーマンスにも現れているのだと思います。
非常にボクシングに対して誠実であり、愚直であり、そして相手がどうだとか周りがどうだとか、そういうことに愚痴や不平、不満を言わず、もくもくと自分の仕事をこなす。これが井岡一翔のボクシングライフなのだと思います。
「チャンピオンとして挑戦者を迎えるのは当たり前」と井岡は語りますが、王者としてのプライド、矜持というものがこの発言から見て取れます。自らが評価されるがために相手を探す、ということよりも、自分に挑んでくる挑戦者を迎え撃つ、これこそが王者が王者たる所以であり、どんな強敵からも、時には力の至らない挑戦者からも、狙われるのが王者なのでしょう。
井岡vs中谷、どちらを応援するのか、という結論は、私の中ではまだ出ません。最後まで出ないかもしれません。
ただ、井岡vs中谷の実現を願う、というよりも、井岡がフランコに勝利して、スーパーフライ級の統一王者となってくれることを楽しみにしつつ、2022年の大晦日は井岡一翔を応援しようと思います。
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