とうとう4月に入ってしまいました。
ビッグマッチ、注目試合だらけのこの4月、週末には日本ではLIVE BOXINGという大規模興行があるわけですが、この単体の試合の「スゲー」感は個人的に群を抜いています。
日本ライト級最強を証明した吉野修一郎の相手は、あのシャクール・スティーブンソンです。
William Hillによるとシャクール勝利のオッズは1/16、吉野勝利のオッズは15/2、これはシャクールに1,600$賭けないと100$の儲けにはならず、逆に吉野に100$ベットすれば750$が儲かる、ということです。
それだけ、シャクールにとって勝って当たり前という試合。
当然、これまでの実績は違います。日本の期待を背負ってアメリカのリングに初登場となる吉野は、どのように勝機を見出すか。
ということで今回のブログは、シャクール・スティーブンソンvs吉野修一郎のプレビュー記事。
4/8(日本時間4/9)ニューアーク
WBC世界ライト級挑戦者決定戦
シャクール・スティーブンソン(アメリカ)19勝(9KO)無敗
vs
吉野修一郎(三迫)16勝(12KO)無敗
ニュージャージー州、ニューアークはシャクール・スティーブンソンの生まれ故郷。
未来のPFP候補、ネクスト・メイウェザー、数々の異名を持つシャクールは、リオ五輪銀メダリストという堂々の肩書を持ってプロ転向。
このプロ転向のときも、メイウェザー率いるTMTプロモーションからのオファーがあったらしいですが、結局はアンドレ・ウォードがマネジメントするという契約で所属プロモーション会社はトップランクに落ち着きました。
果たして、トップランクはこのシャクールの望むキャリアを与えた、と言って良いでしょう。
リオ五輪後の2017年にプロデビューすると、判定勝ちとKO勝利を交互に繰り返す連勝、長いラウンドを戦ったりあっという間にKOしたり、とある種キャリアを積むのに理想的な戦いを続けていきます。
露骨なアンダードッグとの戦いはほぼなく、キャリア早々に無敗の相手や好戦績の相手を叩きのめし、それでも苦戦もないままに2019年4月には世界挑戦経験者、クリストファー・ディアス(プエルトリコ)を撃破。プロ入りからたった2年でこのディアスをほぼフルマーク、というのは恐ろしい才能です。
同年の10月には当時無敗のジョエト・ゴンサレス(アメリカ)と空位のWBO世界フェザー級王座を争い、こちらもほぼフルマークの判定勝利。この一戦はボクシングの試合とは別で話題にもなりましたね。
ともあれ、デビューから2年半で見事王座初戴冠。そしてこの王座は通過点、とも言わんばかりに即刻王座を返上し、スーパーフェザー級へ転級します。
テストマッチを2戦こなしたあと、WBO世界スーパーフェザー級暫定王座決定戦へ出場。これは、ジェレミア・ナカティリャ(ナミビア)との試合が決まっていたところに、後追いで暫定王座決定戦が滑り込んできたような胡散臭い戦いだったように記憶していますが、このナカティリャを圧倒して暫定王座ながらも2階級制覇を達成しています。
ちなみにこのナカティリャは、その後ミゲル・ベルチェルト(メキシコ)をストップして評価を上げていますが、こんなにも恐ろしいパンチャーがシャクール戦では「恐ろしく見えなかった」ということに戦慄を覚える今日この頃で、5/20に期待のプロスペクト、レイモンド・ムラタヤ(アメリカ)がナカティリャとやるのですが、ムラタヤにとっても試練の一戦となるのではないか、と見ています。
さて、話が逸れましたが、ここまで当時は名前があまりない強豪ばかりと戦っていたシャクールは、ここからが真価を問われるキャリアとなりました。
しかし、その結果というものは「未来のPFP」どころか、現代のPFPランキングに名を連ねていないのがおかしいくらいの大活躍。
2021年10月、伊藤雅雪(当時横浜光)からタイトルを奪ったWBO世界スーパーフェザー級正規王者、ジャメル・ヘリング(アメリカ)との戦いでは、長身のヘリングを全くものともしませんでした。サウスポーのヘリング相手にジャブの差し合いから圧倒、10RTKO勝利。
晴れて正式な2階級制覇王者となったシャクールは、WBC王者のオスカル・バルデス(メキシコ)との王座統一戦。バルデスはシャクール戦の前、自業自得の「ハーブティー事件」により心を乱され、良いパフォーマンスを見せられていませんでしたが、このシャクール戦は絶好調に見えました。
それでも、シャクールには全く届かず、6Rにダウンを喫しての判定負け。
シャクールはキャリア初の王座統一に成功します。
そして迎えた統一王座の初防衛戦は、そのオスカル・バルデスに判定を盗まれた、と言っても過言ではないロブソン・コンセイサン(ブラジル)。このコンセイサンは、シャクールと同じくリオ五輪ⅱ出場し、ライト級で金メダルを獲ったボクサーです。もっというと、ボクシング競技においてブラジル人が金メダルを獲ったのはこのコンセイサンが初めて、という英雄です。
このコンセイサンも全く寄せ付けなかったシャクールですが、このタイトル戦の前の前日計量で計量オーバー、タイトルを剥奪されています。
これにより当然のことながらスーパーフェザー級を卒業、ライト級への転級初戦が吉野修一郎とのWBC世界ライト級挑戦者決定戦、ということなのです。
ガッツ吉野
吉野修一郎は、栃木県鹿沼市出身の31歳、そして入場局はおなじみ、ウルフルズの「ガッツだぜ」。
この「ガッツだぜ」のテーマに乗って入場してくる吉野修一郎というボクサーは、いつも非常にニコニコしており、緊張とは無縁のボクサーに思え、心底ボクシングを、試合を楽しんでいるように見えます。
これが、吉野を応援している時は非常に頼もしく感じられ、そして、吉野の相手側を応援している時には非常に怖く感じるのです。
さて、栃木県鹿沼市、というところは、既に世界チャンピオンを排出しているお土地柄で、先輩王者はあのWBC世界ライト級王者、ガッツ石松です。
個人的にめちゃくちゃ尊敬しているガッツ石松大先生は、現在の鹿沼市である清洲村というところのご出身であられます。
まあ、そんなわけで吉野の入場曲には、何かしら考えがあってのことなのかな、とか勘ぐっているのですが、そういう話を聞いたことはないですね。
話が逸れましたが、吉野は124戦(104勝20敗)ものアマキャリアを誇るもとトップアマでしたが、アマチュアボクシング引退後しばらくのブランク。
三迫ジムに入ったのはスカウトを受けた、とかでもなく、自ら進んで門をくぐり、あれよあれよとプロデビューに至った、と昔どこかで話していたような気がします。
既に抜群のキャリアを持つ吉野は、プロ4戦目で加藤善孝(角海老宝石)を撃破。そしてわずか6戦目でスパイシー松下(当時セレス)との日本ライト級王座決定戦を制し、2017年10月に日本王座を獲得します。
このタイトルを、圧倒的な力で4連続KO防衛を果たすと、2019年10月、ハルモニト・デラトーレ(フィリピン)とのWBOアジアパシフィック・OPBF東洋太平洋ライト級2冠王座決定戦に出場。これを初回TKO勝利で獲得、3冠王者となります。
その後も富岡樹(当時REBOOT.IBA)、細川バレンタイン(角海老宝石)、仲里周磨(ナカザト)ら強豪を退けて国内最強をアピールすると、2022年4月、大きなステップアップのチャンスとして元世界王者、伊藤雅雪(当時横浜光)戦をたぐり寄せます。
この伊藤戦は11R負傷判定ながらも完勝、そして続く中谷正義(帝拳)戦では6RKO勝利という快勝で、このチャンスを掴みました。
↓観戦記
この勝ち方は、はっきり言って衝撃です。
アメリカでもしっかりと実力を示し、自らの力でロマチェンコ戦にも辿り着いた中谷を、プレスとインサイドからの攻撃で完璧にノックアウト。
これは期待せずにはおれません。
吉野は詰める。シャクールは距離をキープする。
吉野修一郎はフィジカルが非常に強く、ハードパンチを持っているボクサーです。反面、シャープというよりもゴツンゴツンと当てていくため、スピードへの順応はしづらいようにも思います。
シャクールは万能タイプではありますがややディフェンシブで、何よりも素晴らしいのは危機察知能力が高いことです。
シャクールは、圧倒していたナカティリャ戦でも倒しには行きませんでした。傍から見ているとナカティリャに怖さはなく、シャクールが倒しに行かないということにフラストレーションがたまるような試合ではあったものの、それはナカティリャの怖さをシャクールのボクシングが完全に消していたから。シャクール自身は、のちのインタビューでナカティリャにパワーがあったから倒しにはいけなかった、と語っています。
そんなわけで、よほどシャクールが舐めてかからない限り、吉野のパンチが当たる距離にはいてくれないでしょう。
吉野の勝ち目
シャクールは大きく大きく動き回るタイプのボクサーではないため、ある程度は距離が縮まったように錯覚するかもしれません。それでもシャクールの距離感というのは本当に素晴らしく、絶妙に相手のパンチをもらわない距離でボクシングをし、また、それを崩す事はありません。
とすると吉野の取る戦法は唯一つ、ジリジリと距離を詰めてフィジカルで押し込み、泥臭い乱打戦に持っていく展開です。
その身体と身体が触れ合う距離だったとしても、シャクールにパンチが当たるかどうかはわかりません。それでも、離れた距離で闘うよりは勝利への可能性が高い。
その時、吉野に必要なのは、身体全体のパワーと、パンチングパワー、フィジカルと、そして何よりもスタミナ。当然吉野はこれらを兼ね備えたボクサーではありますが、あのシャクールを相手に12Rそれをやってのけられるか、というところであり、しかもこれが勝つための最低条件です。
そしてやはり、シャクールの付け入る隙はここしかない、というところは明確で、シャクールにとってこれがライト級初戦だ、という事です。
もしかすると、今後どんどんフィットしていくという可能性はありますが、シャクールはライト級の対戦相手のパワーにまだ慣れはないはず。そこを突くためにも、吉野の武器の1つであるフィジカルを全面に押し出して行く必要がありそうです。
これしかない、というと非常に寂しいので、もう少しお付き合いください。
いつだって、評価の高いアマチュアエリートを降すのは、フィジカルゴリ押しのファイターです。シャクールはパワーレス、とは思いませんが、パワフルなファイターとは違います。ある程度の被弾を込みで、吉野はきっと前に出て「パワフル魂」をみせてくれる事でしょう。
そう、吉野の勝ち目とは、やっぱり「ガッツでシャクールをすり潰す」事なのだと思います。
勝てば変わる
ボクシング大国、アメリカの次期スーパースター候補、シャクール・スティーブンソン。このボクサーに勝てば、吉野修一郎の人生は大きく変わります。もしかすると、勝てなくても、シャクールを苦戦させた初めてのボクサーになれば、今後もアメリカのリングでお呼びがかかるかもしれません。
さて、ここでガッツ石松の話に戻します。
生涯戦績は31勝(17KO)14敗6分、と非常に敗北の数が多いのも特徴です。
このガッツ石松というボクサーは非常に気分屋で、イスマエル・ラグナ(パナマ)やロベルト・デュラン(パナマ)にノックアウト負けを喫した時もいわゆる「イヤ倒れ」であり、効いて倒れたわけではなかった、と本人が言っています。
そして圧倒的不利、ほとんど誰もが期待していなかった3度目の世界挑戦で、ロドルフォ・ゴンサレス(メキシコ)を「幻の右」で8RKO、見事な世界初戴冠を果たしたのです。
その後、大激戦区ライト級において5度もの連続防衛を果たす訳ですが、このゴンサレス戦の勝利は「番狂わせ」という類の勝利です。
このガッツ石松というボクサーは、常に平常心を持っており、本当にクレバーなボクサーです。頭脳戦に長け、閃きがあり、これは私は非常に吉野に似ていると思うのです。
吉野修一郎というボクサーは、作戦遂行能力に長けたボクサーですが、「練習でやってきたことしか出ない」というボクサーではないようです。
なので、試合途中での作戦変更にもついていけるボクサーで、「このパンチが当たりそう」というのが試合途中にひらめいてくるボクサー。(これは寺地拳四朗との対談の中でそんな事を言っていました)
そのタイプかな、と思っていたので非常にしっくり来たのですが、吉野に中盤以降のKOが多いことや、ダウンを奪われてからも理詰めに挽回できるのがこの特徴の強みであり、対シャクールで考えると前半はフィジカルで削りに削り、後半勝負という画が浮かびます。
吉野修一郎はスロースターター気味なところがありますが、それは前半、よく相手を観察しているからなのでしょう。
そこで問題なのが、シャクールを観察するのに時間をかけすぎ、そこでパンチをもらったりスピードについていけずにガードの時間が長くなった結果、出し切る前にストップされてしまう可能性。ちょうどムロジョン・アフマダリエフvs岩佐亮佑のように、そこまで肉を切らせるような戦いだった岩佐がここから、という時に止められていまう事です。
そこにだけ気をつけてもらって、存分に暴れてきてほしい。
吉野修一郎の勝利に期待し、そして非常に楽しみにしています。
アンダーカードと配信
アンダーカードには、キーショーン・デービス(アメリカ)vsアンソニー・イギット(スウェーデン)。ロランド・ロメロ(アメリカ)、イバン・バランチェク(ベラルーシ)に7Rで倒されているイギットですが、このイギットをキーショーンはどのように料理できるのか、というところが見どころです。
更にはジャレッド・アンダーソン(アメリカ)vsジョージ・エイリアス(ドミニカ共和国)のヘビー級無敗対決。「ビッグベイビー」アンダーソンはこんなところで躓いてほしくはないですね。
ほか、トロイ・アイズリー(アメリカ)やケルビン・デービス(アメリカ)等、おなじみのトップランクの顔ぶれが並びます。
そして放送、配信はアメリカではESPN、そして日本では我らがWOWOWが生中継。
放送日時は、日本時間4/9(日)11:00〜ですね。解説は西岡利晃氏、亀海喜寛氏、ともに海外で試練に挑んだ漢たち。楽しみですね!
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